blue*drop
Audio Column No.10

エンクロージャーは第2の振動板 −板は厚く重いほうが良いか?

一般的にエンクロージャーに使う板は、厚くて重いほうが良いと言われていますが、
私の経験からは、それはどうも正しいとは言えないのではないかと感じています。
(そう言われている原因は、市販品のほとんどがバスレフ型だからだと思います。)

結論から言いますと、特に薄くて軽い振動板を持つドライバーを使う場合は、
エンクロージャーを第二の振動板、又はドライバーの振動板の延長とみなして、
ドライバーの振動板が持つ特性を、ある程度エンクロージャーにも持たせたほうが、
スピーカーシステム全体として、音が自然な感じにまとまる場合が多いと、
私は感じています。

エンクロージャーに持たすべき振動板の持つ特性とは、
使用条件において十分な機械的強度を持ち、
振動が素早く伝わり、かつ振動が素早く減衰し、
特定の周波数で強く共振や共鳴を起こしにくい、という特性です。
では、なぜエンクロージャーが振動板の特性を備えなければならないのでしょうか?

先ず、ドライバーにおける問題について述べてみます。
アンプからの信号は、ボイスコイルで振動に変換されボビンを伝わり、振動板に伝わります。
これを、振動板への入射波とします。
この入射波は振動板の周辺部へと伝達され、一部は振動板の端、
エッジ、フレームで折り返し、再び振動板の中心部へと戻って行きます。
これを振動板への反射波とします。
つまり、振動板の振動は、ボイスコイルで発生する振動(入射波)と、
エンクロージャーに伝わらずに振動板に戻ってくる反射波の合成波となります。

この反射波は、動板に戻ってくる時には時間的なズレ(位相のズレ)を生じています。
この位相のズレた反射波は、振動板の特定の周波数の振動を強め又は弱め、
再生音に不要な濁りや歪みを発生させる原因になります。
して、反射波の影響は、振動板が薄くて軽いものほど大きくなるのです。

また、ボイスコイルの駆動力は、振動系を駆動し、
その反作用で磁気回路も振動させます。
この磁気回路の不要振動はフレームに伝わります。
磁気回路の不要振動も、フレームからエンクロージャーに逃がすことが出来ない分は、
エッジやダンパーから振動板に伝わり、これも再生音を濁す原因になります。

ここでは、振動板からフレームに伝わる振動と
磁気回路からフレームに伝わる振動をまとめて不要振動としますが、
あまりにもエンクロージャーが強固で振動しにくい場合は、
フレームの振動をエンクロージャーに上手く逃がすことが出来ず、
振動板に戻される不要振動が多くなります。

そして、ドライバーに発生する不要振動が、エンクロージャーに上手く逃がせないと、
その不要振動の減衰をドライバーが一手に引き受けなければならなくなります。
この不要振動は、音または熱に変換されることで減衰しますが、
不要振動の多くは最終的に、再生音の品質にとって最も重要であるが、
最も弱く振動しやすい部分である振動板に行き着き、再生音を歪ませ濁らせます。

軽くて薄い振動板は、入射波への感度が高いので、
当然 反射波への感度も高いと考えられ、
重くて厚い振動板よりも、不要振動による悪影響も大きいと思われます。
さらに言えば、軽い振動板は同じ音量(同じ周波数かつ同じ振幅)であれば、
その振動エネルギーは当然 小さくなり、
その振動をエンクロージャーに逃がすことによって起き得るエンクロージャー側の問題も
また小さくなります。

しかし、単にドライバーの不要振動をエンクロージャーに逃がすことが出来れば
音がよくなるのかと言えば、もちろん、そんなことはありません。
冒頭で述べたように、エンクロージャーが、備えるべき振動板の特性を備えず、
共振や共鳴を起こしやすい構造であれば、
エンクロージャーにドライバーの振動を伝えることで、
エンクロージャーが新たなノイズの発生源になってしまうからです。

エンクロージャーに逃がした、ドライバーの不要振動の処理については、
また後日 書きたいと思います。

2011-05-27



Back


inserted by FC2 system