さて、前回の続きですが、エンクロージャーに逃がした不要振動の処理についてです。
不要振動はエンクロージャーの各部分に素早く伝播し、何らかの方法で素早く減衰させなければなりません。これは、位相差のある不要振動が、再びドライバーに戻って、その音を濁らせるのを防ぐためです。
ドライバーからバッフルに伝わる振動は、エンクロージャーの各部材に振動を伝えながら広がって行きます。このバッフルの振動は各部材に振動を伝えるたびに、振動エネルギーは小さくなっていきます。つまり、ドライバーに近い部材ほど多くの振動エネルギーが分配され、遠くの部材ほど分配される振動エネルギーは少なくなります。また、ドライバーに近い部材は、ドライバーに戻っていく不要振動の復路の距離も短く振動エネルギーも大きいので、ドライバーに近い部材ほど内部損失を高める工夫が必要になります。これは、ドライバーへの反射波を小さくするためです。
振動エネルギーは、エンクロージャーの最も振動しやすい場所を振動させますが、不要振動を各部分に広く伝播することで、各部分が減衰を負担すべき不要振動のエネルギーは小さくなり、また、各部材の共振も小さく出来ます。振動エネルギーの総量は変わりませんが、それを全体に分配することで、部材の共振による音の癖を分散できますし、不要振動のコントロールも容易になります。
そして、一旦
各部材に到達した振動が再びドライバーに戻ってこないような工夫が必要ですが、これはどうすれば可能になるのでしょうか?これは、各部材の内部損失を高めることにより、振動エネルギーを熱エネルギーに変換することで可能になります。(ここでは、内部損失とは、振動エネルギーが別のエネルギーに変換され振動エネルギーが小さくなることを意味しています)
振動エネルギーは、何らかの方法で別のエネルギーに変換されるまでは、振動エネルギーとして残ります。そして、振動エネルギーの大部分は音波か熱に変換されます。
ここでは大雑把に、
(不要振動) - (熱エネルギー) = (ノイズ)
としておきます。
つまり、不要振動がエンクロージャーを振動させることで、エンクロージャーが発生するノイズを減らすには、不要振動を何らかの方法で熱エネルギーに変換する(つまり、振動を吸収する)必要があるということです。
しかし、ドライバーからエンクロージャーに伝わり、エンクロージャーの各部分に伝播されるまでの振動過程は、振動板の強制振動の延長と捉えることができます。この振動板の延長としての振動は、音に厚みや豊かさをもたらすので、音楽性を高める上でプラスに働くことが多いのです。特に音が痩せやすい高能率の小口径ドライバーではデメリットよりもメリットの方が多いと感じます。
つまり、ドライバーの振動がスムーズにバッフルに伝わり、バッフルからエンクロージャーの各部材へと振動が満遍なく分散され、各部材において振動が再びドライバーに戻されることが無く消滅することが望ましいと、私は考えています。
では、何が問題なのかと言うと、各部材が振動を吸収できずに再びドライバーに振動を戻してしまったり、エンクロージャーの各部材がその固有振動数に基づいて盛大に共振をしたり、また、バックロードホーンにおいては、ホーンを構成する各音道部が気柱共鳴の発生源となったりすることです。これはノイズであり、再生音に癖や解像度の低下をもたらすもので、解決しなければならない問題だと考えます。
次回に続く