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Audio Column No.12

エンクロージャーは第2の振動板 −板は厚く重いほうが良いか? その3

前回の続きです。

エンクロージャーを構成する各部材の内部損失を高めるには、もともと内部損失の高い材料を使ったり、制振材などを部材に貼り付けることで積極的に振動エネルギーを熱エネルギーに変換するなどの方法があります。

しかし、あまりにも内部損失を高めると、快活な響きが失われ重く沈んだ響きになってしまいます。このようなエンクロージャーも落ち着きがあってよいのですが、耳で聞いて気になるほどではなければ、吸音材と制振材の使用はほどほどにとどめておいた方がよいと思います。あまりにもデッドで無個性なエンクロージャーよりも、ある程度の響きを残した方が、豊かでエレガントな響きになることが多いからです。 

さらに、各部材の固有振動数を全て異なるように設計することによって、共振を分散することが出来ます。固有振動数とは、ある物体を自由振動させたときの振動周波数のこと(簡単に言えばコンコンと叩いて鳴る音の周波数)です。同じ固有振動数を持つ部材が多いほど、お互いに共振を強めあってしまい、共振のエネルギーは大きく、共振が持続する時間も長くなります。

エンクロージャーを構成する各部材が共振を励起されたときに、各部材がそれぞれ異なる周波数で振動することで共振周波数を分散し、特定周波数での共振エネルギーを小さくし、また、各部材が違う周波数で振動することで、お互いの振動を阻害しあい振動の減衰を早めることが出来ます。これは、各部材の大きさや素材を変えることによって可能になります。また、同じサイズと材質の部材でも補強や制振材の使い方で、それぞれに違う固有振動数を持たせることができます。 

このようにすることで、短いエージング期間であっても、長い年月のエージングを経たエンクロージャーのような、癖が少なく上品でこなれた響きを持ったエンクロージャーに仕上げることが可能になります。

バックロードホーンを設計する場合、なぜか気柱共鳴より板鳴りを気にして、板圧を厚くする設計がよく見られます。しかし、聴感上気になるのは、板鳴りより、圧倒的に気柱共鳴です。
エンクロージャーに手を当ててみて、ビリビリ振動していても聴感的には気にならないことが多く、かえって厚みのある豊かな音になることも多いものです。それどころか、板鳴りを止めることで、デッドで貧相で刺々しい音になる場合も多いのです。さらに、板厚を増しても共振を励起するエネルギーが多く必要になるだけで、共振エネルギー自体は大きくなるので、その減衰処理も難しくなります。

それに対して気柱共鳴は、上手く行けば低音の量感を得る上で有益なこともありますが、たいていの場合、入力信号に関係なく無遠慮にボーボー鳴り、その帯域の解像度や表現力を損ない音楽の微妙なニュアンスまで変えてしまうこともあります。

低音域での気柱共鳴は音に厚みをもたらすものでそれほど気にはなりませんが、耳に付きやすい帯域、特にボーカル帯域での気柱共鳴は、ハイファイシステムとしては実用性の疑われるものだと思います。しかし、BGM用スピーカーとしては、質より周波数特性のバランスの方が重要になるかもしれません。リラックスして聴くためには質よりバランスの良さの方が大切だからです。

共鳴は、それが問題にならない周波数帯域と問題になる帯域があります。音情報の持つ意味が強い帯域と弱い帯域、又は、人の耳が音の質に敏感な帯域と鈍感な帯域とも言えますが、特に人の耳が最も敏感なボーカル帯域からは、共振と共鳴を、特に気柱共鳴を、出来る限り排除しなければいけないと思います。ボーカル帯域に強い癖のあるスピーカーを長く愛用することは、オーディオマニアにとっては苦行になるでしょう。

もちろん、共鳴を少なくすることで、低域の量感は少なくなります。しかしホーンの再生効率を上げることで量感の問題はある程度解消できますし、何よりも音の解像度や質が向上し、再生音の癖は少なくなります。さらに現代ではデジタル技術の発達により、劣化無しに周波数特性の調整ができますが、質の低い音の質を高めることは、少なくとも今のところできません。この理由からも、共鳴音を減らすことで多少量感が少なくなったとしても、音のクオリティーの追求を優先したいと私は考えています。

2011-07-05



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