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Audio Column No.13

バックロード・ホーンの低域のディップと そのシンプルな解決方法について

バックロード・ホーンは、もちろんホーンとしての機能する他、
音響迷路や共鳴管としても機能します。
そして、バックロード・ホーンの低域に急峻なディップが生じる原因は、
この音響迷路としての動作から、もたらされるものだと考えられます。

音響迷路とは、エンクロージャーの方式の一つで、
低域において、ドライバー背面の逆相の音を、音響迷路を一定距離進ませることで、
ドライバー前面の音と同じ位相にしてから取り出し、低域の音圧を増強する方式です。

音は1秒間に約340m進みます。
周波数をf とすると、1音波の長さは (340/) m ということになります。
そして、音源の位相と、音源から (340/) m  離れた場所の位相は同相です。
これは音の位相が360°進んで、音源の位相と同相になったということです。

ドライバー背面の音は、ドライバー前面の音に対して、位相が逆ですから、
ドライバー前面の位相と同相になるためには、位相が180°進めばよいわけです。
そして、位相を180°進めるのに必要な距離は(340/2) mです。

ホーンを音響迷路として考えると、
ホーン長を としたとき、(340/2) Hzで、ピークが生じます。
このピークの周波数をf p とすると、 (f p*1.5) Hz*1 と (f p/1.5) Hz でディップが生じます。
なぜ、この周波数でディップが生じるのかというと、
周波数がのとき、音の位相は、(340/) mで360°進み、同相になりますます。
そして、(340/1.5f ) mでは、( 360 * 1.5 )°= 540°= (360+180)°進みます。
(360+180)°進むという事は、逆相になるということなので、
(f p * 1.5) Hz ではディップが生じます。
そして、(f p/1.5) Hz での音波を1波としたとき、
f p Hz での音波は1.5波になり、音波は半波で位相が180°進みますから、
これも逆相ということになり、(f p/1.5) Hz でもディップが生じると考えられます。

*1n を2以上の整数としたとき、(n+0.5)*f p Hz でもディップと生じるはずですが、
 実際の測定では、問題となるような、大きなディップは生じていないようです。

(f p*1.5) Hz と (f p/1.5) Hz では、
ドライバー前面の音に対して、ホーン開口部で逆相ということは、
スロート*2から、(l /1.5) mの位置では、同相ということです。
では、この位置から同相の音を大気に開放することができれば、
ホーン開口部からの逆相の音の出力が減少し、ディップが生じない、
又は、軽減されるのではないでしょうか。
この位置で、同相の音を取り出すことができれば、
その出力は、ドライバー前面の音を増強するとともに、
開口部から出力される逆相の音の出力から、差し引かれるからです。

*2厳密に考えると、音源はドライバーなので、
 ドライバーから、ホーンの開口部までの距離を基準にして 計算すべきですが、
 便宜的に、ホーンのスロートから開口部までの距離を基準にして、計算しています。

■ 実験 と 測定結果
下のグラフは、Torvi-S08 の周波数特性です。
使用したドライバーは、Fostex FF85WK です。

このエンクロージャーのホーン長は、約1.3mなので、音響迷路として考えると、
(340/(1.3*2))Hz ≒ 130 Hz にピークを生じ、
(130*1.5)Hz ≒ 195 Hz と (130/1.5)Hz ≒ 86 Hz にディップを生じます。
86Hz のディップは明確ではありませんが、195Hz のディップは明確に現れています。

そして、次のグラフは、
スロートから、(ホーン長/1.5)cm = (130/1.5)cm ≒ 87cm の位置に、
直径 29mm の穴を開けた場合の周波数特性です

195Hz を中心としたディップが、はっきりと上昇しています。
130Hz のピークは少し低くなり、よりフラットな周波数特性に近づいています。

このスロートから 87cm の位置に空けられた穴からは、
195Hz では同相の音が出力されますが、同時に、(195*1.5)Hz ≒ 292Hz と
(195/1.5)Hz = 130Hz では、逆相の音が出力されるはずです。
その影響で、130Hz のピークが少し低くなったのだと考えられますが、
292Hz では、300Hz のディップが少し深くなっているように見えるものの、
それ程影響は無いようです。

実験では、スロートから (ホーン長/1.5) の位置に、大気に(エンクロージャー外に)開放された小さい穴を開けるだけ という非常に簡単な加工で、バックロード・ホーンの音響迷路的動作によってもたらされる低域の周波数特性の欠点を改善できました。この方法は、原理も明確ですし、設計も簡単なので、 シンプルかつエレガントな、良い方法かもしれません。


2011-11-17



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