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Audio Column No.16

オーディオ用USBケーブルについて - プラセボ効果も効果のうち?

世の中には「オーディオ用USBケーブル」なるものがあり、
これによって音が変わるという話があるようですが、
私はこれについて、少し疑問を感じています。

もし本当に、USBケーブルによって音が変わるという現象があるのなら、
例えば、デジタルカメラの画像を、パソコンに取り込む際に使う、
USBケーブルの品質の違いによっても、画像の品質に違いが出る、
という話にならなければおかしいと思いますが、
「高いケーブルを使ったから、色が鮮やかで諧調が豊か」だとか、
「安いケーブルを使ったから、色がくすんでいて解像度が悪い」とか、
デジタルカメラの世界でも、そういうシュールな話があるのでしょうか?

アナログ信号を伝達するためのケーブルは、
扱う信号の性質上、信号の波形を正確に伝達する必要があるので、
ケーブルの品質がよほど粗悪であれば、
伝送途中に信号の波形の微細な部分が欠落したりなど、
伝達する信号の品質にも影響が出る可能性があります。
又は、ケーブルの長さや断面積の違いによって直流抵抗が変化することにより、
スピーカーのダンピングファクターに変化が生じる可能性なども考えられます。

それに対して、USBケーブルは、デジタル信号を伝送するためのものですから、
扱う信号は、「 ON と OFF 」、又は「 1 と 0 」、
つまり、電流がある状態とない状態の2種類しかありません。
信号の波形がそのまま音になる、デリケートなアナログ信号とは違い、
デジタル信号は、受信側が信号のON かOFF の区別がつけばよいだけなので、
アナログ信号のように、波形をそのまま伝達する必要すらありません。
そして、伝送途中に ON が OFF になったり、OFF が ON になることはありませんから、
USBケーブルの品質の違いによって、
伝送されるデータの内容に違いが生じることは、非常に考えにくいのです。 

オーディオ信号が通る経路は、次の6つの部分に分けることができます。

  1. デジタル信号を処理する部分
  2. デジタル信号を伝送する部分
  3. アナログ信号を処理する部分
  4. アナログ信号を伝送する部分
  5. デジタル信号をアナログ信号に変換する部分
  6. アナログ信号をデジタル信号に変換する部分
そして、この6つの部分のうち、
部品の品質の違いによって音に差が出るのは、1と2以外の部分です。
1も演算方法が違えば違う音になりますが、この場合は同じであることが前提です。

USBケーブルがどの部分に当たるかといえば、2です。
USBケーブルはもちろん、デジタル信号を演算する部分ではなく、
単に伝送するだけなので、例えば、送る信号が "11001010" ならば、
最高級のUSBケーブルでも、百均のダイソーで買ったUSBケーブルでも、
"11001010" 以外の信号になることはありません。

つまり、USBケーブルという、伝送経路におけるデジタル信号は、
その伝送経路の品質に関わりなく、
入り口で 1 なら出口でも 1、入り口で 0 なら出口でも 0 で、
伝送途中に、それが変化することはないのです。

どのような方法で伝達されても、情報の劣化が避けられないアナログ信号とは違い、
デジタル信号は、それがどのような方法で伝達されても、
その伝達が可能である限りは、信号の劣化は起こりません。
ですから、デジタル信号の経路において、その伝達が上手く機能している状態では、
その経路の品質をいくら上げても、伝達される情報には何の変化もないのです。

ついでに言えば、デジタル信号を演算するチップも、
その演算処理が同じならば、値段や品質に関係なく同じ音になるはずです。
演算処理が同じならば、チップによって音が変わる可能性のある部分は、
デジタル信号⇔アナログ信号、の変換部分であり、
いずれにしても、アナログ信号に関わる部分です。

結論として、あくまで私個人の意見ですが、
USBケーブルは、デジタル信号を扱う部分において
デジタル信号の演算や、デジタル信号⇔アナログ信号の変換という
音が変わる可能性のある部分に関わりがなく、
単にデジタル信号を伝送する部分なので、
USBケーブルによって音が変わる可能性は、皆無だと考えられます。

ですから、限りある資金を有効に使って音質向上を図るためには、
その品質によって、一切音の変わらないUSBケーブルなどよりも、
部品の品質が音の品質に影響する部分にお金を使うほうが、
より少ない投資で、より良い結果を得られるだろうと思います。

しかし、最後に逆説的なことを言えば、
「USBケーブルによって、音は変わらない」ということは、
高級なUSBケーブルを使えば、確実に音は良くなるだろうということも意味しています。

と言うのは、音に影響する部分の品質を上げて、物理的に音を良くしても、
人によって音の好みは様々ですから、その音の変化によっては、
音が悪くなったと感じる人がいる可能性があるのに対して、
全く音が変わらない部分に、投資をして品質を上げれば、
当然ながら、それによって物理的に音は変化しないので、
誰の聴覚的な嗜好とっても、より悪い音になることはないのに加えて、
当人には、「これで音が良くなるはずだ」という信念が生じるので、
その心理的な効果によって、確実に音は良くなるだろうということです。

特に見た目が高級であれば、なおさらその効果は高まるはずです。
音を扱うオーディオであっても、人は視覚に大きな影響を受けるので、
心理的には「見た目も音のうち」だということです。

そして、オーディオアクセサリーの多くは、実際の物理的な音の変化よりも、
この心理的な音の変化の方に、より多くの効果があるのではないか、
という気がしないでもありません。

その後、このコラムを読んだ方から、
「USBバスパワーを使用する機器については、
USBケーブルの違いによって、音質に違いが出る可能性がある」
というご指摘をいただきました。
確かに、USBバスパワーによって電気の供給を受ける機器については、
USBケーブルの品質の違いによって、音質に影響が出る可能性は否定できませんが、
このような機器の場合でも、USBケーブルの品質が音質に与える影響より、
電源の品質が音質に与える影響の方が、より支配的だろうと思います。
そして、USBバスパワーを使用しない機器の場合、USBケーブルによって、
音質が変化する可能性については、上に述べたとおりです。
(2012-10-09、追記)

Last Updated 2012-10-09



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