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Audio Column No.18

レビューと聴覚の特性 - 高域が聞こえないと音の違いが判らない?

私は、このサイトやブログで、スピーカーやアンプなどについて、
いくつかのレビューを書いていますが、他の人が書いたレビューを読むにあたり、
気をつけるべきこととして、自分とその人の、音の好みの違いということの他にも、
自分とその人の、聴覚の特性の違いというものがあると思います。

というのは、聴覚の特性は、人それぞれであり、決して同じではないからです。
特に高域の特性は、年齢的な要因などによって、著しく異なります。
一般的に人は、年齢を重ねるごとに、聴覚の高域特性は劣化するので、
若い人より、高齢の人は、高域が聴こえにくいということが言えます。

例えば、私が、他の人が書いたレビューを参考にして、ある製品を買った場合、
特にフルレンジドライバーなどでは、そのレビューと、私が実際に聴いた印象には、
大きな違いがあることが多く、その理由として考えられるのは、
前述の聴覚の高域特性です。

アンプなどは、大体どのアンプも、周波数特性がフラットに近くなっており、
周波数特性に問題のあるものが少ないことから、
他の人のレビューと、実際に聞いた印象が、大きく違うということは、
比較的少ないかもしれませんが、
フルレンジドライバーなどは、高域にピークやディップが多く、
凸凹した周波数特性になっているものが多くあります。
そして、他の人のレビューと、私が実際に聴いた印象が一致しないものは、
高域に何かしらの問題のある、フルレンジドライバーであることが多いようです。

以前、某掲示板で、
一般的には評判の良い、ある10cmフルレンジドライバーについて質問した時、
その質問に対して、「そのドライバーは高域をハイカットして使うとなかなか良い」
というふうに、答えてくれた方がいました。
私は、「フルレンジをハイカットして使うなんて邪道だなぁ」などと思っていましたが、
その後、そのフルレンジを実際に聴いてみると、高域での無駄な付帯音が多く、
ボーカルなどは、人の口からレーザービームでも出ているのではないか?
という感じの音で、確かにハイカットして使いたくなるようなドライバーでした。

しかし、このフルレンジドライバーのネット上での評判は上々で、
特に、悪いレビューを見かけたこともないことから、高域での聴覚があまり鋭くない人は、
このフルレンジドライバーの、高域での付帯音の多さを、
解像度の高さとか情報量の多さとして、捉えているのではないかと感じます。

話は変わりますが、私は、子供の頃、ブラウン管式TVを見ていると、
TVが発する「キーン」という高音がうるさくて、よく頭が痛くなっていました。
二階からでも、階下の部屋のTVの「キーン」が聞こえていましたし、
TVゲームをしていて、ゲーム機の電源を切って、外出しようとして外に出てから、
家の中から「キーン」が聞こえて、TVの電源を切り忘れたことに気づいたこともあります。

私は、なぜTVのメーカーは、「キーン」という音を出さないTVを作らないのだろうと、
不思議に思っていましたが、ほとんどの人はこの音が聞こえず、
耳の良い子供なら聞こえるという程度なので、
メーカーとしては、特に問題にはしていないということのようです。

特に耳の感度の鋭い子供は、学校でTVを見るとき、
この「キーン」が非常に不快に感じることから、両手で耳をふさいでいるために、
「変な子」扱いされる可哀想な子供もいるとのことです。

ブラウン管TVから聞こえる、この「キーン」という音の正体は、
走査線を動かすための偏向コイルの発する音で、
その音の周波数は、15.75kHz ということです。
私も今では、徐々に耳の感度も落ちてきたことから、
ブラウン管式TVの置いてある部屋にいれば、「キーン」は聞こえますが、
それがうるさくて頭が痛くなるということはなくなりましたし、
別の部屋から「キーン」が聞こえるということもなくなりました。

また、最近では、ソフトドーム・ツイーターで、20kHzのサイン波を再生したときに、
リスニングポイントからは全然 聞こえなかったので、
私も耳が悪くなってきたなあと思いつつ、ツイーターの軸上正面に移動したとき、
驚くほどの音圧を感じて、ギョッ となりました。
そして、徐々に感度が鈍くなっているとは言え、
まだまだ、20kHzが聞こえることに安心すると共に、
軸上から少しそれると、全く聞こえなくなるという、高音の指向性の狭さにも、
あらためて驚きました。

別に、これは、私の耳の良さを自慢をするために書いているわけではなく、
人のレビューを読むにあたっては、そのレビューを書いた人の、
聴覚の特性を考慮した方がよい、ということを言いたいわけです。
そして、人のレビューを参考にしたい場合は、
聴覚の特性が、自分のそれに近い人のレビューを参考にしたほうが、
間違いが少なくてすむのではないかと思います。

例えば、耳の良い人が、音が鋭すぎるとして貶しているスピーカーでも、
自分の耳には、クリアーで解像度が高く、よい音に聞こえるかもしれませんし、
その反対に、その人が絶賛しているものは、眠い音に聞こえるかもしれません。
そして、高域があまり聞こえない人が、フラットでモニター調だと評しているものが、
自分には、とんでもなく、ハイ上がりできつい音に聞こえることもあるかもしれません。
人の感覚というものは、何事においても相対的なものなので、
どのような人のレビューであっても、絶対視すべきではないと思います。

高齢の方は、一般的に(もちろん例外はありますが)、
聴覚が鈍いにもかかわらず、オーディオの知識や語彙が豊富で、
その文章も比較的 表現力が豊かで、説得力があります。
反対に、若い人ほど聴覚が鋭いにもかかわらず、知識や語彙が少ないために、
その文章は表現力が乏しく説得力がないという傾向があります。
しかし、オーディオにおいては、自分より若い人の感想というものは、
他の分野よりも、重要であることが多いと、私は思います。

なぜなら、聴覚が鋭ければ鋭いほど、
また、オーディーオ機器に対する無駄な先入観・固定観念が少なければ少ないほど、
実際の音の姿を捉えることが、より容易になると考えられるからです。

そして、発言者がどのような人なのか見えない媒体では、
文章力の違いから、聴覚の鋭い人の影響力が小さくなり、
聴覚の鈍い人の影響力が大きくなるという逆転現象が起こりやすいことから、
それを読む人に、誤解や混乱が生じるということも、あるのではないかと思います。

人の聴覚は、高域が聞こえなくなると、中域の音色の違いにも鈍感になってきます。
ある周波数の音色の違いは、それより高い周波数帯に含まれる、
倍音成分の違いによって認識されるからです。

そして、人は、聴覚が衰えて、物理的に音色の違いが認識できなくなればなるほど、
その製品にまつわる物語や、価格、高級感、ブランドイメージ、など、
直接的には、音に関係しないものを重視するようになっていくのだろうと思います。
(もちろん、これは、年齢を重ねるごとに、固定観念を減らしていくような、
融通無碍な方には当てはまりませんが)

ですから、その様なことを、ことさらに強調するレビューなり評論なりを書く人の、
耳の感度というものを意識することも、無駄な誤解を避ける良い方法かもしれません。
つまり、なぜその様なことを重視するかの理由が、
単に耳が悪いからということも、十分に考えられるからです。

Last Updated 2013-02-16



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