前回の続きです。
ドライバーの振動板面積を一定とした時、再生する周波数が低くなるほど、
振動板の振動を音波に変換する効率が下がります。
つまり、f0における共振によって、振動版の振幅が大きくなることを考慮しなければ、
同じドライバーにおいては、低音になるほど音量が小さくなります。
これは、いわゆる空振り現象と言われるもので、周波数が低くなる程、
振動板は盛大に振動しているにも関わらず、音量は逆に小さくなるという現象です。
(もちろん、この音波に変換されない振動は不要振動として、
スピーカーの再生音に様々な悪影響をもたらします。)
逆に言えば、低域においては振動板に負荷がかかりにくくなるので、
振動板が盛大に振動するとも言えますので、
何らかの方法で振動板に適切に負荷を掛けることができれば、
振動板の不要な振動を抑えることができるとともに、
振動板の振動を音波に変換する効率を上げることができます。
振動板面積を一定としたとき、低音を中・高音と同等の音量で再生するには、
周波数が低くなるにしたがって、振動板の振幅を大きくする必要があります。
ここで、大きな役割を果たすのが、前述の最低共振周波数(f0)における共振現象です。
低域において、再生効率が徐々に下がり始め音量が小さくなる帯域にf0を持ってくることで、
この帯域での振幅を大きくして、低域における再生効率の低下を補っているのです。
f0付近の帯域では、少しの入力でも共振現象によって振動版の振幅が大きくなるので、
この帯域での音量を大きくすることができるのです。
しかし、この様に共振によって再生された音に質的な問題があるのは前述の通りです。
低域における能率の低下を補う方式として様々なものがありますが、
BLH以外の方式では、振動板の共振やエンクロージャーの共鳴を利用しているのに対して、
BLHでは低域における空振り現象を防ぐことで能率を高めている点において、
他の形式とは本質的な違いがあります。
そして、本来の意味での「再生」という見地からは、
BLHは他の形式よりも原理的な優位性が大いにあります。
BLH(模式図参照)は、ドライバーの背面を空気室で覆い、
空気室に接続された長いホーンでドライバーの振動板に負荷を掛けることで、
低域における振動版の空振りを抑え、
振動版の振動を最も効率的に音波に変換できるシステムです。
本来ならば、低域においては、振動板に接する空気が振動板の周囲に逃げてしまい
低音の再生効率が低下してしまうのですが、
BLHでは、この空気の逃げ場を無くして、振動板の振動を高効率で音波に変換することで、
低域における再生効率を高めているのです。
そして、BLHでは低域の広い範囲に渡って負荷を掛けることができるので、
f0に当たる帯域においても、振動板に適切に負荷がかかります。
この負荷により、振動板を制動し、共振よる振る舞いを抑制することで、
共振による再生音への不要な色付けを排し、
かつ、強制駆動による振動を効率よく音波に変換することで、
本来の音楽信号を正確に表情豊かに再生することができるのです。
次回へ続きます。