blue*drop
Audio Column No.4

バックロードホーン -その4 BLHは歪がすくない?

低域において振幅をおさえるバックロードホーン(BLH)の利点として、
フルレンジドライバーで問題にされるドップラー歪を減らす効果も見逃すことはできません。

ドップラー歪とは、低音信号に高音信号が重なって再生されると、
ドップラー効果(救急車が近づいて来る時にサイレン音が高くなり、
遠ざかるときにサイレン音が低くなる現象)によって高音信号が変調され生じる歪です。
ドップラー歪は、発音体の移動速度が大きいほど
(単位時間における移動距離が大きいほど)
つまり、振動板の振幅が大きいほど、大きくなります。

高音と低音を別のユニットで再生するマルチウェイシステムに比べて、
フルレンジドライバーは、一つの振動板で低音も高音も再生するので、
高音は、常に低音信号に揺らされることで変調されるとされています。

BLH以外の方式では、振動板の振幅を大きくすることで低音の量を増やしているので、
同じドライバーであれば、必然的にドップラー歪が大きくなります。
それに対してBLHでは、振幅の大きくなる低域でホーンによる負荷がかかり
低域での振幅が抑えられるので、他の形式に比べてドップラー歪が少なくなるのです。

BLH以外のシステムでも、マルチウェイであれば、
ドップラー歪は少ないのではないのかと思われるでしょうが、意外にもそうではないのです。

マルチウェイであっても、ミッドレンジ用のドライバーを持たない方式
(例えばウーファーとツイーターの2Wayバスレフシステム)では、
ツイーターが分担する帯域では、BLHにマウントしたフルレンジドライバーに比べて、
ドップラー歪が小さくなりますが、
ウーファーが分担する帯域では、同BLHシステムに比べて
ドップラー歪が大きくなるのです。

バスレフのシステムは、ダクトのチューニング周波数(fd)付近では負荷がかかり
振動板の振幅が抑えられますが、負荷がかかる範囲がBLHに比べて狭いのです。
もちろん、負荷のかからない帯域では、ウーファーの振幅は大きくなります。
fdはf0付近にチューニングされるので、fdの前後では振幅が特に大きくなります。
バスレフシステムは、低域において振幅が大きく、その範囲がBLHに比べて広いのです。
そして、ほとんどの2wayシステムでは、ウーファーがボーカル帯域を受け持つので、
BLHに比べて、人の聴覚が敏感なボーカル帯域でのドップラー歪が大きくなるのです。

人間の聴覚は低音と高音の質には鈍感ですが、
中音、特にボーカル帯域では非常に鋭敏です。
ゆえに、歪の発生は、この帯域において特に問題になり、
歪を減らすことによって音質を向上させる効果も、この帯域において顕著なのです。

もちろん、ミッドレンジドライバーを持つ方式では、
この帯域でのドップラー歪は小さくなりますが、
ローカットフィルターおよびハイカットフィルターを直列に入れることで
音質が劣化する問題や、
各ドライバーの音色や位相、トランジェント特性の不統一などの問題があり、
フルレンジドライバーのような自然な音を再生するのは困難です。
マルチウェイシステムはドライバーの数が多くなるほど、聴感的には、
再生音と言うよりは、合成音という趣きが強くなってしまいます。

ドップラー歪が小さくなることに加えて、振幅が小さくなることの恩恵は、
不要な振動が少なくるのでエンクロージャーが発するノイズが少なくなることや、
磁束密度が高く均一な磁界の中で、ボイスコイルが駆動されること、
エッジやダンパーの張力が最小かつ復元力が均一の状態で、
振動系が駆動されることなど、数多くあり、
BLHは、支持系や磁気回路の非直線性が原因で発生する歪の少ないシステムだと
言うことが出来ます。

2011-01-03


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