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Audio Column No.5

バックロードホーン -その5 BLHはドライバーの駆動力を高める

よく出来たバックロードホーン(BLH)の低音は、
スピード感があり、解像度が高く表現力が豊かです。
その理由として一般的に言われていることは、BLHの背圧が少ないので
振動板に負荷がかからずに軽々と駆動できる、ということですが、
これは本当でしょうか?

なぜそのような疑問を感じるのかと言うと、
BLHより背圧の少ないシステム(例えば、平面バッフルや、共鳴管)などと
BLHの低音を聞き比べても、BLHの低音は反応が良く、音にエッジがあり、
低音楽器の質感を描き分ける能力において、
他のシステムとは異質な感じがするからです。
そして、BLHより背圧が少ないはずの前述のシステムの低音はむしろ、
あまりダンピングの効いていない ゆったりした音に聞こえるのです。

先入観では振動板にかかる背圧を少なくした方が、
スムーズに力強く駆動できそうな感じがしますが、
実際には、その反対に、バックロードホーン(BLH)が、
低域の広い範囲において振動板に負荷をかけることで、
ドライバー(スピーカーユニット)自体の駆動力を高めるのだと、私は考えています。
以下にその原理を説明いたします。

ドライバーのモーターは、磁気回路とボイスコイルからなる駆動系であり、
磁気回路のギャップ間の磁界の中に置かれたボイスコイルに
電流が流れることで、ボイスコイルに磁界が発生し、駆動されます。

逆に、磁界の中でコイルを動かすと、
コイルに起電力(誘導起電力)が発生し電流(誘導電流)が流れます。
この誘導電流はコイルの動きに逆らう向きに流れ、
当然 誘導起電力もその向きに生じています。

ドライバーの最低共振周波数(f0)付近においては、
インピーダンス(交流抵抗)が高くなります。
これは、f0における振動系の共振により振幅が大きくなった結果、
ボイスコイルに、アンプからの電流とは逆向きの誘導起電力(逆起電力)が発生し、
インピーダンスが上昇するのです。 

ボイスコイルに発生する磁界の強さは、ボイスコイルに流れる電流の量に比例し、
ボイスコイルに発生する磁界の強さは、ボイスコイルの駆動力に比例します。
つまり、駆動力はボイスコイルに流れる電流に比例するので、
電流が流れにくい周波数帯域では駆動力が低下するのです。

または、電流の量はインピーダンスの高さに反比例するので、
インピーダンスが低い帯域では、駆動力が高くなり、
インピーダンスが高い帯域では、駆動力が低くなるとも言えます。

f0付近のインピーダンス特性は、f0を頂点とした山のような形になっており、
インピーダンスは、f0で最も高く、f0から遠ざかるにつれて徐々に低くなります。
ボイスコイルの駆動力は、インピーダンスの高さに反比例しますから、
この帯域での駆動力は低くなります。

と言うことは、この帯域でのインピーダンスを低くして、
アンプからの電流を流れやすくすれば、
この帯域での駆動力を高めることが出来るということです。
では、どうすればこの帯域でのインピーダンスを低く出来るのでしょうか?

この帯域でのインピーダンスの上昇は、f0における振動系の共振によって、
ボイスコイルに、アンプの電流とは逆向きの誘導起電力(逆起電力)が発生することで
引き起こされているのは前述の通りです。
ということは、この帯域での振動系の共振を抑えれば、
インピーダンスの上昇を防ぐことが出来るので、
この帯域での駆動力を高めることが出来るのです。

そして、この共振によるインピーダンスの上昇を抑えるのがBLHなのです。
ドライバーの振動板にホーンによる負荷をかけることで、
低域の広い範囲で振幅が抑えられ、
その帯域での逆起電力が小さくなり、インピーダンスが低くなります。
その結果、アンプからの電流が流れやすくなることで、
ボイスコイルの駆動力が上がるのです。

実際の実験でも、ホーンによる負荷のかかった帯域では、
振動板の振幅は非常に小さくなるにも関わらず、
ホーンからはエネルギー感と解像度のあるBLH独特の雄大な低音が再生されます。
インピーダンスの低下した帯域では、強制駆動による振動が、
共振による振動に取って代わるので、この帯域での解像度や表現力が高まります。
BLH独特の低音の秘密の一端はここにあると思います。

ホーンの負荷で低域での振動板の振幅を抑える→逆起電力の低下→インピーダンスの低下→電流の増加→駆動力の上昇という非常に良い関係がBLHでは出来ているのです。

そして、低域において、振幅を抑えるBLHのこの働きの副産物として、
中高域においても駆動力が上がるのではないかと、私は考えています。
振幅が小さくなると言うことは、ボイスコイルが常に、
磁気回路のギャップ間の最も磁束密度が高く均一な位置に置かれます。
ボイスコイルに働く駆動力は、それが置かれた磁界の磁束密度に比例するので、
磁束密度の高い場所では、ボイスコイルの駆動力が高くなるのです。

そして同時に、ダンパーとエッジ(支持系)の張力が最も少ない位置に、
振動系が置かれます。
振動系にかかる支持系の張力は駆動系の阻害要因になりますので、
振動系にホーンによる負荷がかかった状態では、
この張力が少ないほど駆動力は高まると考えられます。

2011-01-07


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