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Audio Column No.6

バックロードホーン -その6 本質的に優れたドライバーとBLH

バックロードホーン(BLH)で特筆すべきことは、何と言っても、
「本質的に優れたドライバー」を使うことができると言うことです。
この「本質的に優れたドライバー」と言うのは、
アンプからの信号に対する追従性が高く
音楽信号を正確に再現できるドライバーのことを意味しています。

では、どのようなドライバー(スピーカーユニット)が
アンプからの信号に対する追従性が高いのかというと、
振動系が軽く、強力な磁気回路を持ち、同口径のドライバーに比べて
能率(dB)の高いドライバーと言うことができると思います。

この様なドライバーは、その強力な駆動力と、
その強力な駆動力によってドライブされる軽い振動系によって、
信号に対する反応がよく、解像度と表現力に優れ、
普通のドライバーでは省略され、再生されることの無い微小な信号を再生し、
かつ、最小音と最大音の幅が広く(ダイナミックレンジが広く)、
音の諧調が豊かで表現の幅が広いのです。
特に、中音域での能率の高さから来る表現力の広さと豊かさ、ボーカルのリアルさは、
音楽性の高さに直結する重要な要素だと、私は考えています。

しかし、この様なドライバーは、その強力な駆動力によって、
中・高音の能率が高くなる反面、その強力な電磁的制動力によって、
f0における共振を押さえ込んでしまうので、駆動力が弱いドライバーに比べて、
より一層低音が出ないという特徴があります。
そして、この様なドライバーは、低音の再生効率の高いバックロードホーン(BLH)でしか
使うことができない難しいドライバーでもあり、
BLHは、「本質的に優れたドライバー」を活かすことができるシステムだと言う事ができます。

それに対して、重い振動系と弱い駆動系を持つドライバーは、中高域での能率が低く、
低域での電磁的制動力が弱いので、相対的に低音が良く出ますが、
音楽信号に対する追従性(過渡特性)が悪く歪も大きいのです。
音の立ち上がりは遅く、波形もオーバーシュートしやすく、
音の立ち下がりも悪く、波形もアンダーシュートしやすくなります。
そして、オーバーシュート・アンダーシュートした後のリギングも大きくなります。
つまり、慣性(質量m)が大きいので、動かしにくく、一旦 動き出すと止まりにくいのです。
当然 出力される波形はいびつになり、歪も大きくなります。

振動板を重く丈夫にすれば歪が少なくなるのではないかと反論されそうですが、
歪を測定する信号を、正弦波(サインウェーブ)に限定すれば、
確かに歪は少なくなると思います。
と言うのは、ドライバーにとって、最も再現しやすい波形は正弦波だからです。
振動板を重く丈夫にすれば、振動板の変形によって生じる歪を減らすことが出来るので、
正弦波における測定では、変形しやすい軽い振動板に比べて、
歪を減らすことが出来るのです。
加えて、正弦波測定では波形がオーバーシュートまたはアンダーシュートしても、
それほど波形は乱れないので、見かけ上は、
綺麗な正弦波が再現されているように見えるはずです。

しかし、実際の音楽信号には、ノコギリ波や方形波がふんだんに含まれており、
(弦楽器や金管楽器はノコギリ波に近く、木管楽器は方形波に近い)
この様な波形はスピーカにとっては再現が難しく、
振動系が重いほど、そして、駆動系が弱いほど、
再現される波形のエッジが取れて丸くなり、正弦波に近くなります。
そして、振動系が軽いほど、駆動系が強いほど、エッジが再現され
正確な波形に近づいていきます。
もちろん、波形の再現が正確であれば、解像度が高くなり、
それぞれの楽器の音色と質感の違いを描き分ける能力が高くなります。

しかし、ここである種の勘違いが発生します。
と言うのは、正弦波は耳当たりがよく、聴感上は歪感が少なく聞こえます。
それに対して、ノコギリ波や方形波は、尖った波形・角ばった波形なので、
聴感上、とげとげしく歪感のある音に聞こえるということです。
確かに生々しくリアルに聞こえるけど、歪っぽいというのは、
単に波形の再現が正確に出来ているだけかもしれないし、
滑らかで歪感の無い美音というのが、単に波形の正確な再現が出来なくて、
出力される波形が丸くなり正弦波に近づくことで、
耳あたりが良くなっているだけかも知れないということです。

私は、振動系は軽ければ軽いほど、駆動系は強ければ強いほど良いと
思ってるわけでは、もちろんありません。
ボイスコイルは、もちろんコイルであるので、リアクタンス(誘導抵抗)があり、
高域にかけてインピーダンスが上昇します。
本来なら、周波数が高くなるほど振動板の空振りが減り、能率が上昇するところを、
高域でインピーダンスが上昇し 、振幅が減ることで能率が下がり、
上手くバランスが取れているのですが、磁気回路が強すぎると、
このバランスが崩れ、高域での能率が高くなりすぎ(いわゆる ハイ上がり)、
冷たく人工的な音色になり、「暖かさ」や「優しさ」などの表現が難しくなってしまいます。

この様な音色は人を緊張させるとともに、人の情感に訴える力が弱くなり、
音楽から得られる感動から人を疎外します。
「愛の無い音」と言ってよいかもしれません。
特に人の声がそうなるのは致命的です。
なぜなら、優れたドライバーの最も大切な条件は、
「人の声の再生」が優れていることだからです。
スピーカーにおいても やはり、「過ぎたるは及ばざるが如し」ということです。

2011-01-12


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