blue*drop
Audio Column No.7

バックロードホーン -その7 軽低音と低音の解像度の秘密

前回バックロードホーン(BLH)の中高音の解像度の高さは、
主にそのドライバーの特性に由来することをお話いたしましたが、
今回は、その低音について述べたいと思います。

音は三つの要素から成り立っています。
それは、高さ(Hz)、量(dB)、そして、音色です。
バックロードホーンの低音を他の形式のシステムの低音と比べたときに、
もっとも異色だと感じるのは、音色の描写です。

特に低音の弦楽器や管楽器の再生においては、他の形式のエンクロージャーに比べて、
BLHは妙に生々しく現実感を帯びた描写をします。
他の形式では、単に「ブー」とか「ボー」と鳴るところを、
BLHでは、弦楽器の、弦と弓のこすれる「ゴゴゴ」という音や、
「ブオン ブオン」という豊かな胴鳴りの音、
または、「バチバチ」、「ブチブチ」と弾ける金管楽器の音など、
それぞれの違う楽器の音色と質感を持って、
違う表現・違うニュアンスとしてリスナーに提示します。

そして、この音色の描写に違いをもたらしているものは、
他の形式とは違う再生方式にあると思われます。
BLH以外の形式(特に小口径のシステム)では、振動系の共振や
エンクロージャーの共鳴を利用して低音を伸ばしています。
しかし、共振や共鳴を利用した低音再生は、音の解像度や表情に乏しいという問題があり、音の三つの要素のうち、「音色」の再現において難があるのです。

ある共振系を自由振動させたときに生じる波形は正弦波です。
例えば、もっとも一般的なエンクロージャーであるバスレフのシステムでは、
バスレフポートから再生される低音の波形は、
正弦波や崩れた正弦波であり、低音の弦楽器や管楽器に近い波形である
ノコギリ波や方形波を再生することは出来ません。
正弦波とは円運動を横から見た波形であり、エッジの無い丸い波形です。
それに対して、実際の楽器が持つ波形に近いノコギリ波や方形波は
尖った波形・角ばった波形であり、振動系を強制的に駆動しなければ
再現できない波形なのです。

BLHでは、低音の再生において共振や共鳴を利用せず、
もっぱら、強制駆動された振動板が描く振動の波形を、
(または、空気室内に生じた気圧変化を)そのままホーンによって再生するので、
正弦波はもちろん、ノコギリ波や方形波なども再生可能であり、
それぞれの楽器の持つ音色や演奏によるニュアンスの違いなどを描き分ける能力において共振や共鳴を利用した他のシステムとは一線を隔するのです。

正弦波以外の波形の再現が出来ると言うことは、
それぞれの楽器の持つ固有の波形の再現が出来ると言うことであり、
それぞれの楽器が持つ固有の音色の違いを描き分けることが出来ると言うことです。
ここに、バックロードホーンの低音域における解像度の高さと
表現力の豊かさの秘密があると、私は考えます。
つまり、低音域において他のシステムが苦手とする「音色の再現」を
BLHは比較的実現できていると言うことです。

そして、「バックロードの低音は軽い」と言われる原因も、ここにあると思われます。
BLHで再生可能なノコギリ波や方形波は、
倍音成分(高音成分)をふんだんに含んだ波形なのです。
つまり、尖った音や角ばった音は高音成分を含むがゆえに、
同じ周波数でも正弦波(丸く倍音成分を含まない波形)より軽い音に感じるのです。
それに対して、共振や共鳴によって再生される正弦波は倍音成分を含まない波形であり、
倍音成分を含む鋭い波形と比べて、落ち着きのある重厚な音に聞こえます。

生の音とスピーカーの音を聞き比べれば、BLHの音は生の音に近いと判りますが、
スピーカーとスピーカーを聴き比べたとき、
ローエンドが伸び重厚で落ち着いた音を出すバスレフは、
饒舌で軽い音のBLHよりも高級感のある音と、あるいは感じるかもしれません。
しかし、実際の楽器が発する低音はエッジのある刺激的な軽い低音で、
バスレフポートの発するような鈍重な低音ではありません。

もちろん、私はBLHが最高のシステムであると主張してるのではありません。
例えば、夜中に小音量で静かな音楽を聴きたいときには、
むしろバスレフなどのシステムのほうが優れていると感じます。
神経を刺激したくないときには、微小信号を省略して、
音楽の概要だけを提示してくれるシステムの方がよいのです。
情報量は多ければ多いほど良いというものではなく、特にリラックスしたいときなどは、
意図的に情報量を少なくした方がよい場合もあります。
多すぎる情報量は神経を興奮させるからです。

どのようなものにも、それ固有の特徴があるので、その使い方も自ずと定まります。
長所とは正しく活かされた特徴であり、
短所とは間違った使い方をされた特徴であるとも言えます。
長所は、視点を変えれば、そのまま短所になりますから、
BLHであれバスレフであれ、その特徴に応じて
使用目的と環境にあった使い方をしなければ、
素晴らしいシステムにはならないのだと思います。

2011-01-19


Index | Home


inserted by FC2 system