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Audio Column No.8

バックロードホーン -その8 ホーンの最適な長さ -ホーンは短い方が良い?

バックロードホーン(BLH)の最適な長さは、はたしてどのくらいなのでしょうか?
結論から言えば、バックロードホーンには最適な長さというものはありません。
と言うのは、ホーンの長さを決める決定的なファクターは、
結局のところ「好み」というものに帰結するからです。
ではなぜ、私がホーンの長さを問題にするのかと言うと、
BLHを使うからには、「BLHらしい低音」にこだわりたいからです。

では、「BLHらしい低音」とは何でしょうか?
その答えは、BLHに適合するドライバーの特徴にあると思います。
BLHに適合するドライバーの特徴として挙げられるものは、
1)軽量な振動系 2)強力な磁気回路 という構造的な特徴があり、
その構造的な特徴がもたらすものとして、
3)能率が高い 4)微小信号に強い 5)反応が早い 
などの特徴があり、これらの特徴をまとめると、
「能率の高さ」と「過渡特性の良さ」が、
BLHに適合するドライバーの特徴だと言ってよいかと思います。
そして、BLHらしい低音とは、この二つの性質を備えた低音を言います。

BLHらしい低音が「能率の高さ」と「過渡特性の良さ」という特徴を
備えなければならない理由は、
高音・中音・低音、それぞれの音域において、
音色が統一されていなければならないからです。
それぞれの音域における音色の不統一は再生音の自然さを損ない、
リスナーの注意を「音楽」から逸らせ、「再生音」にそれを向けさせます。
良いオーディオ機器ほど、オーディオ機器の存在を意識させません。
そして、再生音の自然さが損なわれるほど、
オーディオ機器は自身の存在を主張するものです。

では、BLHらしい低音を得るためのホーンの設計とはどのようなものなのでしょうか?
まず、振動板からの解像度が高くハイスピードな音と、
ホーンからの音が音色的にシームレスにつながり、
どこからが振動板の音で、どこからがホーンの音なのかが判らない、
というのが望ましい状態です。
そして、この状態を得るための設計が、ホーンの最適な長さを導き出します。

BLHを設計する上でよく犯す間違いは、出来るだけローエンドを伸ばそうとすることです。
なぜ、これが間違いなのかというと、ローエンドを伸ばそうとすると、
ホーンは、より長くより大きく設計することになり、
いきおい、ホーンからの音は、より柔らかく、より遅くなってしまい、
ハイスピードで解像度が高い振動板からの音と、音色的な整合性が取れなくなるからです。
そして、ホーンを長くすることによって、得られる低音のメリットよりも、
音楽性にとって、より大切な中低音(ミッド・ロー)の質が
損なわれてしまうというデメリットの方が大きいのです。
なぜ中低音域が大切なのかというと、この帯域は音楽の土台となる部分であり、
低音域よりも、音楽の情報量が多く、その情報が持つ意味も低域より強いからです。

中音・高音の質にはこだわるが、低音は単に出ていれば良いと言うのなら、
それでもいいのですが、中音・高音が持つ音色と質に見合った音色と質を、
そして、高い解像度や表現力、またはスピード感を、低音にも求めるのであれば、
やはり、やや短めのホーン設計と共に、長い音道や急峻な折り返しなどで、
低音の微小信号や波形のエッジが減衰することを避けるための工夫を
したほうがよいと、私は考えています。

ホーンは長くなればなるほど、ローエンドは伸びますが、
音の輪郭が丸く鈍くなり、低音のスピード感や表現力という点では後退していきます。
例えば、短めのホーンのBLHシステムを、床に直置きしたり、または、コーナーに置いて、
擬似的にホーンを延長した状態で再生すると、
ローエンドが伸び、低音のスケール感も大きくなりますが、
解像度や表現力、スピード感に劣った低音になります。
「このサイズでこの低音!」という驚きはありますが、
わざわざBLHという複雑で手間のかかるエンクロージャーで聞くような低音だろうか?
と言う疑問も感じるのです。
「BLH特有の雄大なスケール感以外は、普通の低音ではないのか」と・・・

逆に、前述のBLHシステムを宙に浮かして再生すると、
ローエンドの伸びはなくなりますが、低音の質は向上します。
特に中低音域は、同じドライバーを使ったBLH以外のシステムと比べて、
解像度や表現力が高く、低音楽器の質感描写に優れた再生をします。
そして、他のシステムに比べ、駆動する空気の量が多くなるので、
低音楽器のスケール感が大きくなり、低音楽器の再生音に生々しい現実感を添えます。

つまり、ローエンドの伸びを諦めて、中低域の質の高さを取るか、
または、ある程度の質で妥協して、広い周波数特性を取るか、ということですが、
一方が正しくて、他方が間違いということでは、もちろんありません。
しかし、今の時代は質の良いサブウーファーが安価に賄え、
手軽にローエンドを伸ばすことが出来ますが、
緩くて遅い中低音の質を何とかしたいと思っても、後からではどうにもならない、
ということも考慮した方がよいかも知れません。

2011-01-30


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