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Audio Column No.9

実験機 新型バスレフ - Expanded Bassrefrex type enclosure について

今回のコラムは、私が最近 実験している新しいタイプの
バスレフ型エンクロージャー(以下、実験機)について書いてみたいと思います。

先ず、どのようなエンクロージャーなのかを簡単に説明いたします。
このエンクロージャー(模式図上)は2つの空気室から構成されています。
ドライバーをマウントする空気室を第一空気室とします。第一空気室には2つのダクトが有り、1つ(ダクト3)は大気に開放され、もう1つ(ダクト1)は第二空気室に接続されています。
そして、第一空気室のダクト1に接続された第2空気室には大気に開放されたダクト(ダクト2)が有ります。
つまり、従来のダブル・バスレフの第一空気室に大気に開放されたもう1つのダクトを付加した形になります。

なぜ、このようなエンクロージャーを作ったのかと言うと、従来のダブル・バスレフ(模式図下)の弱点を解消できないだろうかと考えたからです。
ダブル・バスレフの弱点とは、ローエンドの量感はたっぷりしていても、第一ダクトの共鳴音が第二空気室とダクト2を通って出てくるので、低音が柔らかくてモヤモヤしていることや、音楽の屋台骨である中低域が薄くなりがちなこと(いわゆる中だるみ)、かつ音が篭り、解像度が低く開放感に欠けること、ダクト1のチューニング周波数より少し高い帯域に急峻なディップが生じやすいこと、など複数あり、多少ローエンドが伸びても、これらの弱点は音楽性を損なうものであり、音楽鑑賞においては、デメリットがメリットを上回っていると感じます。

今回の実験機では、第1空気室に大気に直接開放されたダクト(ダクト3)を設けることで、
中低域の厚みを増し、なおかつ、ダブル・バスレフと同等のローエンドの伸びを確保しながらシングル・バスレフと同等の解像度や開放感を持たせること、中低域に生じる急峻なディップを解消すること、などを意図しています。

シングル・バスレフ(模式図右)のエンクロージャーでは、ダクトのチューニング周波数(fd)より高い周波数では、振動板前面とダクトの位相は同相なので、音圧は増しますが、
fdより低い周波数では、振動板前面とダクトの位相は逆相となるので、互いの振動を相殺して音圧は発生しません。
つまり、シングル・バスレフでは、fdより低い音は再生できないのです。
なお、ひとつの空気室に複数個のダクトを設けても、それらが全て大気に開放されていれば、チューニング周波数(fd)は単一となり、複数個のfdを持たせることは出来ません。

実験機では、ダクト3が大気に開放されているので、
ダクト3のチューニング周波数(fd3)より低い周波数では、
音圧がダクト3から逃げてしまい、ダクト2を駆動できないのではないか、
つまり、fd3より低い周波数の音は再生できないのではないかと心配しましたが、
実験では、意図した通りの結果が得られたので、先ずは成功だと言えそうです。

ドライバーの背面で発生する音圧は、ダクト1とダクト3の両方にかかりますので、
fd3以下の周波数では、音圧の一部はダクト3から抜けて
振動板前面の音と相殺されますが、
残りの音圧はダクト1を通ってダクト2を駆動することになります。
つまり、fd3以下の周波数では、全ての音圧がダクト3から逃げてしまうわけではなく、
ダクト1とダクト3の気流抵抗比に応じて音圧のエネルギー配分がなされるので、
ダクト3から逃げなかったエネルギー(音圧)は、ダクト1を通ってダクト2を駆動するのです。
この音圧は、全音圧からダクト3から逃げる音圧を差し引いたものになりますから、
fd3以下の周波数では、従来のダブル・バスレフよりも
ダクト2を駆動するエネルギーは少なくなります。

再生周波数がfd3以下かつfd2以上の条件では、
ダクト1とダクト3に分配されるエネルギー量は、おそらく以下のようになると思われます。
=ドライバーの背面に発生するエネルギー
Rd1=ダクト1の気流抵抗
Rd3=ダクト3の気流抵抗
Ed1=ダクト1を通り、ダクト2を駆動するエネルギー
Ed3=ダクト3から逃げて、振動板前面の音と相殺されるエネルギー
とすると
Ed3=E*Rd1/(Rd1+Rd3)
Ed1=E-Ed3

実際に作った実験機では、ダクト2のチューニング周波数より、
さらに低い周波数まで しっかりグリップし、
ローエンドの伸びはダブル・バスレフと同等です。
もちろん、ローエンドの量感はダブル・バスレフほどではありませんが、
ダクト3の効果で、中低域の薄さや柔らかさが無く、
ダブル・バスレフに比べて、開放的で解像度の高いソリッドな音質になりました。
そして、シングル・バスレフのようにfd以下で低音がばっさり無くなると言うこともなく、
だら下がりで素直に伸びる強調感の無い自然な低音です。

音および動作としては、普通のバスレフ・エンクロージャーに、
ダブル・バスレフの動作と音を部分的に付加したものであり、
このようなエンクロージャーは、私の知る限り前例が無いようですので、
このサイトでは とりあえず、「拡張されたバスレフ」という意味で、
"Expanded Bassrefrex type enclosure "
略して、"Ex-Bassref "又は「EXバスレフ」と呼びたいと思います。

2011-02-16



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