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Memo No.2 for Creating BLH Speakers

シミュレーションで見る、小型バックロードホーンの最適化条件

バックロードホーン型エンクロージャー(以下BLH)は、最も普及しているバスレフ型エンクロージャーに比べて見ると、サイズという点において、非常に不利です。BLHは構造的に、長いホーンを折りたたんで内蔵する必要があり、他の形式のエンクロージャーに比べると、どうしても、比較的大きくなってしまい、小型化するのがなかなか難しいのです。

一般的に人は、機能が同じならば、かさばるものより、コンパクトなものを好む傾向がありますし、特に日本人は、小さく可愛いものを愛でるという気質が顕著ですから、設計や制作上の難しさに加えて、このような事情もBLHの普及を妨げている原因の1つだと思われます。

今回はその様な事情も勘案し、私の愛するBLHの更なる普及のためにも、BLHの小型化に必要な条件をシミュレーションを使いながら研究してみました。


シミュレーションで使用するドライバーは、Fostex FE103Enです。
FE103Enの特性は以下のとおりです。
Fs:83Hz / 周波数特性:Fs〜22kHz / 能率:89dB
Qts:0.33 / Mms:2.55g / 振動板面積:50cm2

そして、BLHの特性を決定するファクターとして、次の4つを設定しています。

  • ホーン長: L (cm)
  • スロート面積: S (cm2)
  • 開口面積: M (cm2)
  • 空気室容積: C (cm3)


■小型BLHの最適化条件

早速ですが、下のグラフが、条件を最適化した場合の、FE103Enを使用した小型BLHの特性です。

グラフの見方は、
緑の線がドライバーの出力青い線がホーンの出力
水色の線が合成出力赤い線がインピーダンス特性、です。

顕著なディップは160Hzの狭いディップのみで、情報の欠損量は少なく、
ローエンドも70Hzまで十分な音圧があり、大変に優れた特性になっています。

この条件における、それぞれのファクターの値は次のとおりです。
L=170 / S=50 / M=250 / C=2000

これらのファクターが、どのような意図を持って設定されているかを説明します。

先ずLですが、小型化する必要から当然ホーンを長くすることはできませんので、ある程度短くする必要があります。ホーンを短くすると、ホーンロードがかかる帯域も、より高い周波数にずれるので、ローエンドを伸ばすことができないと考えがちですが、BLHはホーンとしての動作に加えて、音響迷路や共鳴管としても機能します。そして、ホーンを短くした場合、この音響迷路や共鳴管としての動作を上手く活用することによって、優れた特性を実現することができると考えられます。L=170の場合、音響迷路の動作としては、100Hz付近を増強することができますし、共鳴管の動作としては50Hz付近を増強できますので、Lを短くすることで、比較的低音感を感じやすい帯域を、音響迷路や共鳴管としての動作により増強することができるのです。

次にSですが、Sを大きくすることでホーンロードがかかる範囲が広くなり、ディップを狭く浅くすることができ、情報の欠損量を減らすことができます。

そして、Mも小型化する必要上それほど大きくはできませんが、これもある程度控えめにすることで、ホーンの開き率が小さくなり、構造的に共鳴管に近くなるので、ローエンドを伸ばすことができると考えられます。

最後にCですが、これもある程度小さくすることでホーンロードがかかりやすくなり、振動板の振幅を小さくできることから、逆位相の音の干渉で発生するディップを小さくすることができます。しかし、ディップの発生しにくい条件は、ピークの発生しやすい条件でもあるので、むやみにCを小さくすることはできません。

余談ですが、これらのファクターの値を見て、長岡鉄男氏のバックロードホーンに詳しい方は、D-10・バッキーの設計に近いのでは?と気付いた方がいるかもしれません。バッキーは10cmドライバー用BLHとしては大変コンパクトであり、音も良いという評判で、ネット上でもよく見かける人気機種です。バッキーは長岡氏の設計理論からは少し外れた設計ということから、異色の存在と言うか、ちょっとした変り種ということらしいのですが、シミュレーションの結果から見る限り、バッキーの特性が良いのも別に不思議なことではなく、理に適った設計の結果だと考えられます。


次に比較条件として、このような設計にすると、おそらく失敗するだろうという例を示しておきます。

このグラフにおける、ファクターの値は次のとおりです。
L=250 / S=30 / M=250 / C=3500

最適条件のファクター値に比べると、Lが長く、Sが小さく、Cが大きくなっています。

Cが大きくSが小さいことで、ホーンロードがかかりにくいことから、ピークの形が狭くなっており、ディップも比較的広く深くなっています。特に80Hzから140Hzは大きなディップが発生しています。この帯域は音楽の屋台骨になる重要な帯域であり、聴感的にも低音感を感じる帯域なので、エンクロージャーが大きくても、実際に聴いた感じとしては、低音スカスカになるだろうと思います。このように、ローエンドを欲張ってLを長くしても、設計が悪いと豊かな低音を得ることはできず、小さいエンクロージャーと比べても、低音感の乏しい貧相な音になることもあるということです。

Last Updated 2012-09-15



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