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Mark Audio Alpair 6P

Alpair 6P は、Mark Audio による 8cmフルレンジ・ドライバーです。

Alpair 6P のフレームは、一般的な金属製ではなく、
Mark Audio 伝統の、共振を起こしにくい樹脂製のフレームです。
樹脂製なので、近くから見ればチープな印象を受けますが、
ラウンド・フレームなので、ルックス的には、それほど悪くはないと思いますし、
遠くから見ると、むしろ見栄えが良い方かもしれません。

Alpair 6P は、小口径ドライバーなので重量が小さく、
樹脂製のフレームでも、強度的な問題は無いようですし、
むしろ、樹脂という内部損失の大きい素材を使うことにより、
フレームの共振が少なくなるという、音質的なメリットを期待できるようです。
そして、自由な形成が可能な、樹脂という素材の特性を活かして、
フレームの背面は、気流抵抗が極力 少なくなる形状に形成されていますが、
バッフル・ホールが、10cmフルレンジ・ドライバー並みに大きくなるので、
バック・ロード・ホーンなどに使う場合は、空気室が小さめに作れないので、注意が必要です。
また、フレームの共振周波数を分散する工夫だと思いますが、
ネジ穴の位置が特殊なことにも、注意が必要です。

振動版は、シンプルなペーパー・コーンで、
フルレンジ・ドライバーの振動版としては、一般的なものです。
コーンをよく観察してみると、キラキラしたものは混ざっていない様なので、
グラス・ファイバーなどは混入されていないようです。
構造的には、センター・キャップ がボビンに直付けされた メカニカル 2Way なので、
フルレンジ・ドライバーとしては、高域も良く伸びています。

8cmフルレンジ・ドライバーの振動版の有効面積は、例えば、
Fostex の8cmドライバーだと、28cm2
Tang Band の8cmドライバーだと、32cm2 となっており、
大体、30cm2 程度が平均的な数値だと思われますが、
Alpair 6P の振動版の有効面積は、
8cmドライバーとしては、やや大きめの 36cm2 となっています。
8cmドライバーとしては、平均的な値より、2割程度、大きな値ですが、
振動系の質量は 2.32g と、8cmドライバーとしても、非常に小さくなっており、
スペックからは、トランジェント特性の良さが伺われます。

リードの引き出し方も、左右対称になっていますが、
これは、振動系の動作における、
リニアリティーの高さを確保できる方式で、
フルレンジ・ドライバーの振動系の設計としては、
理想的なものだと思います。

X-max の値も、8cmドライバーとしては比較的大きく、
一般的な 10cmドライバーに匹敵する大きさなので、
振幅の大きくなる低域の再生においても、
余裕があると感じます。

Alapir 6P のモーターは、8cmドライバーとしても、
それほど、強力なモーターではないので、ガツンと来るような力感はあまり感じませんが、
おそらく、振動系が軽く、信号への追従性が高いことから、トランジェント特性が良く、
解像度は比較的 高いようで、微小な信号の再現に優れているように感じます。

音色は、全体的に、やや線が細くクールでドライな感じですが、
ペーパーコーンらしく自然な音色で、変な癖は特に感じませんし、
聴き飽きしにくく、聴き疲れしにくい音なので、
力強さより、優しさや繊細さを重視する方や、長時間リスニングをする方には、
好まれる音作りなのではないかと感じます。

周波数特性的には、全域でフラット感があり、
質的にも、フルレンジ的な煩さが少なく、Hi-Fi 感があります。

癖の多い振動版は、エージングによって、癖が減少することはあっても、
それが完全に消失してしまうことは期待できませんが、
Alpair 6P の振動版は、非常に癖が少なく完成度が高いため、
エージングによって音質が向上する過程を、純粋に楽しむことができると思います。

一般的に、小口径ドライバーによる超低域の再生には、
大きなエンクロージャーを必要とします。
Alapir 6P は、その磁気回路の大きさからすると、
それほどの駆動力は期待できないようにも思えますが、
意外にも、かなり大きなエンクロージャーでも、特に問題なく駆動でき、
ドライバーの中域・高域の能率に釣り合う低域の量感を得ることができます。

Alpair 6P の振動系は、非常に軽量ですが、支持系も非常に軟らかく、
最低共振周波数(fs) が 74Hz と、10cmドライバー並みに低いので、
大型エンクロージャーにより、その低域再生能力を十分に引き出すことができれば、
サブ・ウーファー並みの超低音の再生も可能ですが、
当然、小口径ドライバーの宿命として、耐入力の小ささから来る音量的な制限があり、
ドライバーを壊さないように、注意が必要です。

しかし、fs の低さから、音色的に、中低域、中域に少し線の細さを感じますが、
これは、繊細感のある音色だとも言えるので、
繊細な声質の女性ボーカルなどには、特に好適なドライバーだと感じます。

高域は、金属製のボビンの影響からか、
少し硬質でクールな質感を感じますが、変な癖は感じられず、
ツイーターのような、繊細かつ解像度の高い高音だと感じます。
コーン型のツイーターは、8cm口径の物も普通に存在することを考えると、
8cmフルレンジ・ドライバーは、
低域方向に再生域を拡大したコーン・ツイーターだという風にも考えられ、
もともと備わった性質として、高域の特性が優れているのだと思います。
そして、高域の質は、超高域の伸びより、
ミッド・ハイ(中高域)のクオリティに由来すると感じますが、
Alpair 6P は、ミッド・ハイ のクオリティーが高く、またミッド・ハイの出力も控えめなので、
フルレンジ・ドライバーによくある、ミッド・ハイのガチャガチャした煩さが少なく、
上品で繊細感のある高域だと感じます。

フルレンジ・ドライバーは大別すると、
周波数レンジが広めで、ダイナミック・レンジが狭めのものと、
ダイナミック・レンジが広めで、周波数レンジが狭めのものに分かれますが、
Aplair 6P は、ダイナミック・レンジの広さが中庸なので、
自然な音色と表現力を保っていますが、
支持系が軟らかく、fs が低くいことから、エンクロージャーの工夫により、
広大な周波数レンジを持つフルレンジ・システムを実現できる可能性を有しています。

小口径フルレンジ・ドライバーを主役として、ワイド・レンジ・システムを構築する場合、
別途、ツイーター と サブ・ウーファー を追加しなければならないことを考えると、
Alpair 6P は、比較的 丁寧に作られていることもあり、
8cmフルレンジ・ドライバーとしては、なかなか高価な部類ですが、
エンクロージャーの設計によっては、これのみで音楽に必要な全帯域の再生が可能なので、
結果的には、シンプル かつ コスト・パフォーマンスの高い
スピーカー・システムに纏めることが可能です。
もっとも、小口径フルレンジ・ドライバー1発によって、ワイド・レンジを実現した場合は、
マルチ・ウェイ の システムなどに比べると、耐入力の問題や、能率の問題などもあり、
大音量再生が求められるシステムには向きませんが。

Alpair 6P は、その淡白で繊細な音色が好みに合えば、
周波数特性的には、欠点らしい欠点が無く、周波数レンジも広いことから、
フルレンジ・ドライバーとしては、稀に見る、完璧に近い製品と言えるだろうと思います。

Last Updated 2017-05-09



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