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Mark Audio Alpair-7P

Alpair-7P は、Mark Audio による、10cmフルレンジ・ドライバーです。

ドライバーのフレームは、金属製のものが一般的ですが、
Mark Audio のドライバーは、フレームの共振を避ける意図から、
樹脂製のものを採用することが多いようです。

樹脂製のフレームは、ダイキャスト・フレームのような、
見た目から来る高級感はありませんが、
内部損失が大きく、共振しにくい素材であるため、
フレームとして必要な強度と精度が確保できるならば、
樹脂製のフレームの方が、音響的には有利なのだと考えられます。

そして、このAlpair-7P の樹脂製フレームは、
振動板の自由な動きを妨げる空気抵抗を
極力減らす構造で、複雑な形成が可能な、
樹脂ならではの特性を活かしたものだと言えます。

ボイス・コイルのリード線の引き出し方も、
振動系のリニア駆動の正確性を保つために、
対称性のある方式が採用されています。

Tang Band のドライバーのフレームに見られるような、
ダンパー背面の背圧を逃がすためのベント孔は有りませんが、
ダンパー自体が薄く、ダンパーの網目も密でないことから、
ダンパー背面の空気は、ダンパー前面に容易に移動できるため、
ベント孔が無くても、ダンパーの動作に掛かる空気抵抗は小さいと考えられます。

また、こういう構造の方が、ボイス・コイルとコーンの接着部分の距離を近くでき、
ボビンが持つ質量と内部損失により、微小信号が失われることを避けることができるので、
解像度を高める点においては、有利だとも考えられます。

振動板は、フルレンジ・ドライバーの振動板としては一般的なペーパー・コーンですが、
周波数特性的には、ワイドかつフラットなので、
振動板自体の完成度は高いと思いますが、少し、カサつく感じがあります。

そして、振動板の強度と解像度を高めるためか、
おそらくは、グラス・ファイバーが配合されています。
コーンもセンター・キャップも同じ材質のものなので、
全帯域に渡って音色的な統一感がありますが、
グラス・ファイバーが音色に影響を与えているのか、
普通のペーパー・コーンよりも、やや硬く冷たい音色を持っていると感じます。

しかし、硬さや冷たさは、
高解像度なドライバーが持つ音色の傾向としては、一般的なものなので、
このドライバーの唯一の欠点といえるのは、ペーパー・コーンでよく感じる、
僅かな「カサつき」くらいのものでしょうか。

そして、この僅かな欠点は、残念ながら、音色的エレガンスを少しばかり損なっていますが、
一般的には、エージングにより、滑らかさが増すと同時に、カサつき感は減少していくので、
この欠点も、いずれは消失してしまうものかもしれません。

そして、高解像度なドライバーの常として、
ソースや再生機器の粗を、そのまま露にするので、
ソースと再生機器に、より高いクオリティーを要求します。

このサイズのフルレンジ・ドライバーが得意とするボーカル再生も、
リアルかつナチュラルで、特に問題はありませんが、
やはり、その硬く冷たい音色により、僅かに、温かみと肉声感に欠ける印象もあります。

スペック上の能率を見る限りは、87.5dB と、高能率ドライバーだとは言えませんが、
軽さを追求した振動系を採用しているためか、
中域・高域においては、解像度が高く繊細感がありますし、
動きやすさを追及した支持系と、X-max の大きいモーターを採用しているためか、
低域においても、ダイナミックで躍動感があり、
聴感上は、高能率ドライバーであるかのような音がします。

Alpair-7P は、非常にワイドな周波数特性を持つドライバーですが、
一般的には、ワイド・レンジ化するためには能率を上げることができないため、
ダイナミック・レンジの狭い、躍動感に欠けた、薄い音になる傾向があります。

しかし、Alpair-7P においては、
軽く反応のよい振動系と、柔らかく動きやすい支持系、
及び、X-max の大きいモーターの採用で、このような問題を上手く回避し、
ワイドな周波数特性と、ダイナミック・レンジの広さの両立に、
少なくとも聴感上は、成功しているように感じます。

軽量なペーパー・コーンを採用した10cmフルレンジ・ドライバーとしては、
f0 が 73Hz と低く、低域での駆動力も十分に大きいため、
低域方向への伸びを意識した、大きなエンクロージャーとの相性も良く、
高域の品質にも問題ありませんし、ハイ・エンドもツイーターを凌ぐ程に伸びており、
これ1発で、ワイド・レンジ・システムが実現できることから、
このドライバーの音色が好みに合えば、特性的には、欠点らしい欠点の無い、
完璧に近いフルレンジ・ドライバーだと感じます。

また、付属のキャンセリング・マグネット付のマグネット・カバーの着脱により、
より高い能率と駆動力を必要とする大型のエンクロージャーにも、
より低い能率と広帯域を必要とするコンパクトなエンクロージャーにも対応できることから、
単体のドライバーとしては、他のものより、広い適応範囲を持つという特徴も、
このドライバーに特有のメリットです。

Alpair-7P は、10cmフルレンジ・ドライバーとしては、価格的には少し高めですが、
小口径フルレンジ・ドライバーに対する要求としては、過大と思われるものにも、
十分に応えることができる能力があり、前述のように、これのみで、
クオリティーの高い、ワイド・レンジ・システムが実現できることを考慮すれば、
決して、高い買い物だとは言えないだろうと思います。

Last Updated 2015-06-13



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