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Fostex FE103En

FE103En は、Fostex による 10cmフルレンジ・ドライバーです。

フレームは鉄板プレスで、現代的なフレームと比べると、
取り立てて工夫の無い、シンプルなものですが、
ルックス的にはなかなか美しく、強度的にも十分で、特に問題はありません。

振動板は、無漂白、無着色のペーパー・コーンですが、
素朴な美しさがあり、フレームの印象とも相俟って、
FE103En の外観は、なんとなく日本的ともいえる、
シンプルで素朴な美と、繊細さを感じさせるものとなっています。

FEシリーズのペーパー・コーンの材料は、一般的なパルプではなく、
芭蕉類から取れる繊維を使用した、Fostex 独自のものです。
Fostex の見解では、この繊維は、一般的なパルプよりも、
音響的に優れた特性を備えているということですが、
実際に試聴した印象でも、他社のペーパー・コーンとの違いが、
聴感上、確かに感じ取ることができます。

この繊維を使った FE103En の ESコーン は、音色的には、繊細にして無色透明で、
一般的なペーパー・コーンのような、カサつき感などの雑味が少なく、
音の純度と品位が高く、滑らかな質感を持っていますし
これと言って、癖らしい癖がありません。

元々、紙は、振動板の素材として、
特性的にも音色的にも、バランスの良い、優れたものですが、
特に、この繊維は、フルレンジ・ドライバーの振動板の素材としては、
おそらく、今のところ、最も優れたものかもしれません。

また、その様な素材的な優位性以外にも、
FE103Enの振動板は、構造的には、メカニカル2wayで、
高域の伸びも悪くありませんし、周波数特性にも比較的フラットなことから、
小口径フルレンジ・ドライバーの振動板としては、
設計的にも、完成度の高いものだと思われます。

振動系の質量は 2.55g と、10cmドライバーのものとしては非常に軽く、
かつ、能率は 89dB と、10cmドライバーとしては非常に高いことからも、
容易に想像できるように、解像度が非常に高く、微小信号の再生にも優れますが、
高能率ドライバーらしいヒステリックさや刺々しさは少なく、
意外と素直な再生音で、素性の良さを感じさせます。

能率が高い割には、磁気回路はそれほど大きくは無いので、
おそらく、ポール・ピースとトップ・プレート間のギャップにおける、
磁束密度が高くなる設計をしていると思われますが、
このような設計は、小・中音量再生時には問題なくても、
大音量再生時には、低域でのダイナミック・レンジやリニアリティーを、
いくらか犠牲にするものかもしれません。

中域・高域は解像度が高く、音色的な癖も少なく、自然ですが、
少しハイ上がりで、音がはしゃぐ印象もあり、落ち着きには少し欠けるようです。

もともと、FE103 は、ボーカルをモニターするために開発されたという経緯もあり、
このドライバーのボーカル再生は、非常に明瞭かつリアルですが、
線が少し細く、温かみや肉声感が少し足りないような印象もあります。

しかし、これは、小口径で高能率なドライバーとしては、当然のことですし、
このような傾向の音色は、繊細な声質の女性ボーカルの再生には、
かえって真価を発揮するものかもしれません。

周波数特性的には、比較的フラットで素直ですが、
高能率なドライバーの一般的な傾向と同じく、FE103En でも、
中域・高域の出力が大きいので、同社の FF105WK などに比べると、
相対的に、低域はやや控えめな印象をうけます。

f0 は 83Hz と、10cmフルレンジ・ドライバーとしては、比較的 高くなっていますが、
一方、Qts は 0.33 とかなり低くなっているため、特に小型のエンクロージャーでは、
低域での量感の確保やロー・エンドの伸張が、難しい特性だと言えます。

このことから、どちらかと言えば、ワイド・レンジなシステムよりは、
周波数特性的には、少しナローではあっても、
高能率なシステムが必要とされる場合には、重宝しそうなドライバーです。

また、このような特性は、バックロード・ホーンには適合するので、
いかにもバックロード・ホーンらしいサウンドに興味がある方には、
入門用のバックロード・ホーン・ドライバーとしても、お薦めできるものだと思います。

Fostex は、日本の自作スピーカー界を牽引してきた存在として、
特別な意味をもち、重要な地位を占める存在ですが、
FE103シリーズは、その Fostex を象徴する伝説的名機として、
また、スピーカー・ビルダーの永遠の友としても、ある種の感情とともに、
いつも、スピーカー・ビルダーの心の中にあるものです。

そして、オーディオ界において散見される、FE103 シリーズに関する、
その様な、魅力的な物語なり逸話なりを考慮しなくても、
このドライバーが持つ魅力と価値は、
このシリーズが、マイナー・チェンジを繰り返しながら、
40年以上に及ぶ長い歴史を刻むことができたという、類まれなる事実によって、
雄弁に物語られているのではないでしょうか。

Last Updated 2015-06-16



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