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Fostex FF105WK

FF105WK は、Fostex社による、10cmフルレンジドライバーです。
同じシリーズのFF85WKと、サイズが違うだけで、ルックス的には ほぼ同じで、
グレーのペーパーコーンと、リッジドーム型のアルミ合金製センターキャップが特徴的な、
なかなか美しい外観となっています。

FF105WKの特徴は、何と言っても、
その驚くべき完成度の高さと、バランスの良さです。
欠点については、細かいことを言えば言えなくもないのですが、
このフルレンジドライバーには、取り立てて言うべき顕著な欠点が見当たりません。
しかし、これほど欠点の少ないフルレンジというのは、他に存在するのでしょうか?

8cm口径のFF85WK も、なかなか良い機種でしたが、
FF105WK は、低域・中域・高域の各音域のバランスの良さ、
音色的な自然さと癖の無さ、完成度と音楽性の高さなど、
その全ての要素が、一枚上手という感じです。

FF85WKでは、少し人工的で違和感のあった高域も、
FF105WKでは、サイズ的な理由から、中域・低域の厚みがあり、
各音域のバランスが良いせいか、聴感上は、より自然で上品な音色になっています。

そして、このシリーズの特徴であるセンターキャップも、金属製であることを意識させず、
紙コーンの音と金属製センターキャップの音が、音色的にシームレスに繋がり、
素材の違いから来る、音色的な違和感を感じることがほとんどありません。

このFF105WKのセンターキャップは、非常に優秀なようで、
金属製ダイアフラムでよく感じる、シンシン、キンキン、シリシリ、シャリシャリ、という、
共振性の固有音や付帯音はおろか、金属的な質感すらも、
ほとんど感じないほどの完成度の高さです。
このアルミ合金製センターキャップは、リッジドーム形状によって、
共振の発生を抑えることで、金属的な固有音を減らすと共に、
他の材質に比べて内部損失が小さい分、微小信号が良く再現されるという、
メタルダイアフラムの良いところだけを引き出すことに成功した、
非常に素晴らしいものだと感じます。

フルレンジの振動板は、コーンもセンターキャップも、
同じ材質である方が、音色的な違和感が生じにくいことから、
音色的な統一感と完成度が高くなるずだと、私は考えていました。
しかし、FF105WKでは、センターキャップが金属製であることから、
紙製のセンターキャップのようなざらつき感などの雑味が少なく、
また、その独特の形状によって、素材の固有音の発生を抑制することで、
よりエレガントで無色透明な音色になっており、
もともとのソースの音色の再現性においても、
より正確になっているようです。

そして、フルレンジドライバーの音質的な品位を下げる主な要素の1つが、
高音域での雑味の多さや質の低さだとすれば、
このFF105WKの音質的な美点や優位性は、
このセンターキャップの完成度の高さによるところが、
大きいのではないかと感じます。

聴覚が敏感なボーカルの再生においても、金属的質感や音色的な違和感が少なく、
ボーカルが冷たくなることも、人工的に響くこともほとんどありません。
f特的には、ハイ上がりではないので、ギスギスした神経質な感じはありませんが、
解像度自体は高く、細かい表情もよく分かり、見通しのよい再生音だと思います。

音色的には、ややクールかもしれませんが、ほぼニュートラルと言ってよく、
暖かさや優しさなどの、血の通った表現力にも問題はありません。
子音の再生も非常に優れており、強調感や音色的な違和感がなく、繊細かつ自然です。
そして、自然な再生が比較的 難しいとされる、サ行の自然さと品の良さは、
特筆すべきものがあり、このドライバーのボーカルは、文句の付け所がありません。

Fostexのフルレンジは、低域が弱いという先入観が、私にはありますが、
FF105WKは、低域に十分な厚みと力感があり、
質感的にも、硬い芯のある良質な低音を再生します。
マグネットの重量が340gと、10cm口径のフルレンジとしては、かなり大きいので、
優れた高域特性を得るために、ボイスコイルが小さめであったとしても、
低域での駆動力は、比較的 強いのだろうと思います。

Fostexの新しいペーパーコーンである、2層抄紙コーンの完成度も非常に高いようで、
ペーパーコーンによくある、ざらざらした質感もなく、
きめの細かさと、暖かい透明感のある、エレガントな再生音です。
3.4gと、やや重めな振動板ながら、決して、眠く重い音ではなく、
Fostexらしい解像度の高さや、明るさ、軽やかさがあり、
細部の強調感がないのに、表現の幅が広く、表情が豊かです。
Fostexは、ペーパーコーン研究の歴史が長いだけのことはあり、
やはり、この分野では、他のメーカーに対して一日の長があるようです。

FF105WKは、バスレフ向けの設計と言うことですが、
比較的ダイナミックレンジも広いようで、バックロードホーンにも適合します。
コンパクトなバックロードホーンエンクロージャーとFF105WKだけでも、
完成度の高いスピーカーシステムに仕上げることができ、
10cmフルレンジドライバーらしくない厚みとスケールの大きさ、
バックロードホーンならではの「音が吹っ飛んでくる感じ」を楽しむことができます。

FF105WKの、紙臭さの少ない2層構造の紙コーンと、
金属的質感をほとんど感じさせないリッジドームの組み合わせからなる、
この振動板の完成度と音楽性の高さは、素晴らしいの一言です。
また、このドライバーに投入されている、様々な新しい技術的な試みも、
高いレベルのバランス感覚で、非常に上手くまとめられており、
フルレンジドライバーとしては、ほぼ、非のうちどことがありません。

そして、この FF105WK は、フルレンジとしての、一つの完成形を示すと共に、
これからのフルレンジの、可能性の一端をも示しているように感じます。

Last Updated 2013-03-09



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