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Tang Band W3-1319SA

W3-1319SA は、Tang Band社による、8cmフルレンジドライバーです。
このフルレンジドライバーのフレームは、ダイキャストではなく、鉄板プレスですが、
ラウンドフレームなのでルックスが好く、チープな感じはそれほどありません。
そして、グレーのコーンの中心に、キラリト光るアルミ製のフェイズプラグによって、
高級感と精悍さが加えられ、ルックス的には、理想に近い、なかなか美しい外観となっています。

このドライバーの磁気回路は、見てのとおり、
他のTangBandの8cmフルレンジに比べると、一回り大きくなっています。
私は、この巨大な磁気回路に魅力を感じて購入したのですが、
しかし、その音色的な傾向は、巨大な磁気回路から想像されるような、
シャープでダイナミックなものではなく、比較的おとなしく控えめなものとなっており、
この巨大な磁気回路には、強い駆動力よりも、デッドマス効果を期待した方がよさそうです。

このフルレンジドライバーの大きな特徴の1つである、竹繊維配合の紙コーンは、
なかなか完成度が高いようで、全域を通じてフラット感があり、歪感や癖が少なく、
フルレンジらしくない、端正かつ聴き疲れしない音を再生します。
しかし、人の聴覚は、付帯音であっても、音が多ければ、情報量が多いと感じるようで、
W3-1319SAは、歪感や付帯音が少ない分、
聴感的には、やや地味であっさりとした音に聴こえますし、
ダイナミックレンジが狭く、躍動感に欠ける退屈な音にも感じます。

そして、この個性的なコーンは完成度が高いとは言え、
おそらく、強度が高いからだと考えられますが、かなりエージングに時間がかかります。
鳴らし始めの頃は、地味で沈んだ音色ですが、
エージングによって、徐々に透明感や繊細さが出てきます。

「Fostex は エージングに時間がかかる」 とは、良く聞きますが、
正しくは、「フルレンジは エージングに時間がかかる」 だと思います。
フルレンジドライバーの構造は、どこのメーカーでも、それほど大きな違いはなく、
振動板の材質が似たようなものならば、メーカーによって、
エージング時間に大きな違いが出るとは思えません。
昔は、フルレンジの代名詞と言えば、Fostex という感じだったので、
「Fostex は エージングに時間がかかる」 と思われたのだと思います。

ボーカルは、音色的にやや固さがありますが、
子音の再生も、強調感や音色的な違和感が無く、十分にナチュラルですし、
かなりクオリティーの高い、Hi-Fi な再生音だと思います。

低音は、質感自体は悪くありませんが、
TangBandのドライバーにしては、意外なくらい量感が控えめで、
鳴らし始めの頃は、失望を感じるかもしれません。
エージングによって、ある程度の低音は出るようになるものの、
十分な低音が出るまでには、かなり長いエージング期間を要します。

W3-1319SAのフレームは、前述のとおり、鉄板プレスで、
他のTangBandのドライバーで多く採用されている、ダイキャスト製のものとは、
構造的な違いがあり、ダンパー背面のベント孔がありません。
このため、コーン背面や、ダンパー背面のエアフローが悪く、
振動系が他のモデルに比べて動きにくいことから、
低音再生においては、他のモデルに劣るのかもしれません。

また、ボビンが金属製なのが理由だと考えられますが、
高域の表情が硬く、金属的な質感があります。
フェイズプラグ付のドライバーは、センターキャップ付のドライバーとは違い、
ボビンが大気に露出しており、ボビンから直接 高音が放出されることから、
ボビンの材質が、高域の音色に影響するようです。

このドライバーは、中域での癖や色付けが少ないために、
相対的に、高域での、金属的で硬い音色が余計に気になります。
そして、金属性のボビンは、紙製のそれに比べると、
内部損失が少ない分、微細信号の再現性が良くなるはずですが
W3-1319SAでは、高域の金属的質感に意識が引っ張られ、
高域の音色が、モノトーンで平板に感じられることから、
かえって、微小信号の再現性が阻害されているように思います。

そして、振動板の固有音がよく出る、解像度の高いアンプで鳴らした場合は、
紙コーンなのにも関わらず、メタルコーンに近い音色になるので、
アンプとの相性にも、注意する必要があります。

W3-1319SAは、全体として見れば、歪感や癖が少ないく、
聴き疲れのしない、完成度の高い音に仕上がっていますが、
中域の躍動感が乏しく、高域は金属的質感があるためにモノトーンに感じ、
低域の質感は悪くありませんが、量的には控えめで、
バスレフで使うにしても、バックロードホーンで使うにしても、
他に、もっと良いドライバーがあるので、この美しいフルレンジドライバーは、
一体どのように使えば良いのだろうかと、少し頭を悩ませる物件ではあります。

もしかすると、このドライバーは、フルレンジとして使うよりも、
歪感の少ない中域のクオリティーの高さを活かして、
ミッドレンジ・ドライバーとして使うほうが、その真価を発揮できる可能性もあります。

Last Updated 2013-03-03



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