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Tang Band W3-315D

W3-315D は、Tang Band による 8cmフルレンジ・ドライバーで、
現行モデルの W3-315E の前モデルだと思われます。
そして、W3-315E の防磁型が、W3-315SE ということの様です。

能率は、W3-315D 及び W3-515E が 87dB で、
防磁型の W3-315SE が 85dB と、2dBの差があるので、
前者は、バックロードホーン向きのドライバー、
後者は、バスレフ向きのドライバー、ということが言えるかもしれません。

フレームは、ラウンド・タイプのダイキャスト製でルックスが好く、
他のTang Band の8cmフルレンジ・ドライバー同様、振動板背面が広く開き、
ダンパー背面にも空気孔を備えたもので、強度的にも構造的にも優れたものです。

このドライバーの磁気回路には、
他のTang Band の8cmドライバーのそれには無い、ある特徴があります。
それは、ポール・ピースにベント孔を備えていることです。
これによって、ボビン内の圧力を逃がすことができるため、
振動系の動きを妨げる要素が、他のドライバーに比べて、より少なく、
磁気回路の構造としては、ほぼ理想的なものとなっています。

そして、優れたフレームと優れた磁気回路を採用した、このドライバーの構造は、
8cmフルレンジ・ドライバーのプラット・フォームとしては理想的なもので、
このドライバーを背面から眺めていると、惚れ惚れとします。

振動板は、アルミ・マグネシウム合金のコーンと
樹脂製のセンター・キャップからなるものですが、
見た目は、DIY AUDIO の SA/F80AMG と全く同じで、
音色的にも共通したキャラクターを持っています。

このコーンは、金属製ゆえに、内部損失が足りないせいか、
全ての音に、高域での共振性の付帯音がまとわりついているように聴こえ、
少し静寂感の足りない、ざわついた音に聴こえます。
しかし、この付帯音は、聴く人によっては、
情報量が多いという評価になるかもしれません。

そして、基本的に、このドライバーは、周波数特性的にハイ上がりで、
高域での音圧が高いことから、音色の違いが強調されるタイプです。
もともと、微小信号の再現性に優れるメタル製の振動板が、
強力なモーターによって駆動され、さらに、高域も強調されていることから、
結果的に、このドライバーの持つ解像度は、かなり高くなっています。

相対的に高音域が目立つせいで、
それほど低音が豊かだという印象はありませんが、
丈夫なメタル・コーンと強力なモーターから繰り出される低音は、
小口径ながら、適度な硬さと力強さがあり、
低音だけを聞けば、質感的に優れた低音が再生されているのが判ります。
X-max も、1.25mmと、8cmドライバーとしては大きく、
低域でのリニアリティーも、比較的 優れていると考えられます。

このドライバーは、ボーカルとの相性はあまり良くないようで、
独特のヒリヒリ・ザワザワした質感を伴った、
肉声感と自然さに欠けるボーカルに聴こえます。
特に、ビットレートの低い、圧縮音源のボーカルとの相性は最悪です。

しかし、器楽曲は、それほど違和感なく聴くことができます。
ハイ上がりの特性から、倍音域が強調されるためか、
それぞれの楽器が持つ固有の音色が強調されるので、
むしろ、他のドライバーよりも、魅力的に聴こえる場合も多く、
この辺りは、一長一短と言ったところでしょうか。

今のところ、金属製の振動板の音色は、
自然さを欠き、緊張を強いる音に聴こえるため、私は好まないのですが、
金属性の振動板を高く評価する方も多いことから、
人によって、評価の分かれる素材なのだろうと思います。

しかし、かく言う私も、このドライバーを買った当初の印象と、
10年以上経た今、聴いて感じる印象には、かなりの隔たりがあります。
昔は、相当に酷い音だと感じたのですが、
今は、「それほど悪くはなく、ソースによっては、かなり良い」という印象です。
この事実は、同じリスナーであっても、年齢が違えば、聴覚の特性が違ってくるため、
同じ音に対する印象も変わってくる、ということを示唆しています。

そして、人間は、生まれてから死ぬまで、自分の主観しか経験できない以上、
このドライバーの音が良い音に聴こえる方は、
違う聴覚特性を持った他人の主観に惑わされることなく、
このドライバーを愛用すべきかと思います。

メーカーとしても、リスナーの聴覚の特性の違いに対応するために、
ドライバーの特性や音色に多様性を持たせていると考えることもできます。

このドライバーは、SA/F80AMG がそうである様に、
高域での付帯音が気にならない場合には、
高解像度な再生音が得られる、優れたものだと言えるかも知れません。

今のところ、私は、このドライバーの音をあまり好みませんが、
年齢を重ねて聴覚の特性が変化すれば、そのうち、このドライバーの音が、
良い音に聴こえる日がくるかも知れないと想像しています。

Last Updated 2015-05-25



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