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Tang Band W3-517SB

W3-517SB は、TangBand社による、8cmフルレンジドライバーです。
見ての通り、木製フェイズプラグが特徴的で、非常に個性的な外観となっています。
このドライバーは、その特徴的なフェイズプラグの形から、
通称「キノコ」と呼ばれているようですが、言い得て妙なネーミングだと思います。

しかし、このドライバーは、その個性的な外観のため、見た目で損をしている可能性があります。
人によっては嫌悪感を感じそうな、その異様な外観とは裏腹に、
このドライバーの音質は非常に素晴らしく、8cmフルレンジドライバーの中では、
おそらく、最良な物の一つだと思われます。(もちろん、私の個人的な好みですが)

私も最初は、このドライバーの外観が好きではありませんでしたが、その音を聞いてからは、
逆にこの外観が、愛嬌のある大変好ましいものに感じるようになりました。
人の好みとは、いい加減なものですね。

この木製のフェイズプラグは、コーン中央部から出力される音を、
フェイズプラグの出っ張りによって回り道をさせることで、音波の位相を遅らせる働きがあり、
波長の短い高域において、位相を1音波分遅らせることで、
コーン外周部から出力される音との位相のずれを補正することにより、
高域での周波数特性の乱れを防ぎ、ハイエンドを伸ばす効果もあると考えられます。

その昔、松下電器から同じコンセプトで、
「ゲンコツ」という愛称で呼ばれる、20cm口径の
フルレンジドライバー、8PW1 が販売されていましたが、
「キノコ」と呼ばれる W3-517SB  は、現代に蘇った
8cm版の「ゲンコツ」だと言えるかもしれません。

W3-517SB の振動板は、
センターキャップを持たない 1枚のシンプルな紙コーンのみということもあり、
低音から高音まで音色的な違和感が無く、非常にナチュラルな音質です。
周波数特性もワイドでバランスが良く、クリアーでシャープな質感ながら音に厚みがあり、
音楽性の高さを感じさせる音作りです。

音色的には、紙コーンらしく、ややシャープで硬質な印象ですが、
刺々しさが無く、透明感や繊細さも兼ね備えています。
唯一の欠点とも言えるのは、ミッドハイがやや硬質なことでしょうか。
ソースによっては、ボーカルの子音が少し強くなるので、
ボーカルに優しさや潤いが少し足りないかなと感じることがありますが、
神経質さやヒステリックさは無く、問題を感じるほどではありません。
この点では、同社の W3-593SG の暖かい肉声感に分があるようですが、
透明感や繊細さでは、やはり W3-517SB に軍配が上がるようです。
(これは完全に好みの問題)

同社の8cmフルレンジは、
振動系質量が 2g 程度、能率が 86dB 程度のものが多いですが、
W3-571SB は、振動系質量が 1.79g とやや軽く、能率が 87dB とやや高めとなっており、
その振動系の軽さから、ダイナミックレンジも広く、情報量も比較的多く感じます。
数字にすると、僅かな差でしかありませんが、聴感上の違いはかなり大きいようです。

能率がやや高めなことから、解像度が高く、ダイナミックレンジも広いので、
バックロードホーンとの相性も、なかなか良いようです。
バックロードホーンにマウントした W3-517SB は、
8cmフルレンジとしては、非常にワイドレンジで、
その低音は小口径ながら、深みと味わいがあり、
フルレンジ1発で、十分音楽を楽しむことができます。

総合的に見て、このフルレンジドライバーは欠点らしい欠点が無く、
音の様々な要素が、高いレベルで上手くバランスしています。
そして、音楽性という観点からは、その価格からは考えられない出色の逸品で、
8cmフルレンジの傑作ではないかと思います。

特に、Tang Band の音が好きだけど、
その異様なルックスから購入をためらっている方は、
一度 試してみるのも一興かと思います。

Last Updated 2012-04-30



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