W3-582SCは、TangBand社による8cmフルレンジドライバーです。
このモデルは、おそらく同社の戦略的モデルとして位置づけられているのではないかと思います。
2,000円未満という価格からは考えられない、高級感のある高品質な作りと音質からは、
TangBandの意気込みが伝わってきます。
実は、W3-582SBがモデルチェンジして、新しく、W3-582SCに生まれ変わっていたことに、
私は気がついていませんでした。
見た目は全くと言ってよいほど同じなので、型番を憶えていない人は、
私と同じく、モデルチェンジをしたことに、気づいていない人も結構いると思います。
前モデルのW3-582SBは、かなり以前に購入したもので、
かなり汚れて、くたびれた感じなので、このページに載せる画像を撮るために、
1年ほど前に購入したまま、仕舞い込んでいたW3-582SCを引っ張り出してきたところ、
なんとなく、センターキャップの形が違う感じがしたので、
調べてみたところ、モデルチェンジしていたことが分かったのです。
センターキャップの変化にすぐに気がついたのは、
前モデルの W3-582SB
が、このセンターキャップのせいで、
音の品位が下がっているような気がして、ずっと気になっていたからです。
前モデルのW3-582SBは、高域の解像度が低く、音色にも少し癖があり、
高域の荒れたソースだと、ミッドハイに、チリチリした感じや、ジャリジャリした感じが現れ、
ポリプロピレン(PP)コーンにも関わらず、荒れたソースを優しく聴かせるという使い方ができず、
残念ながら、ソースを選ぶ傾向がありました。
そして、センターキャップがコーンと同じく樹脂製なのに、
なぜか中域と高域で音色が微妙に違い、
ソースによっては、ボーカルの子音が人工的に響き、
金属製センターキャップとはまた別の不自然さがありました。
もちろんこれは、かなり意地悪な聴き方をしたときに感じることなので、
普通に聴いていれば、ナチュラルで色付けの少ない優等生的な音ですが。
前モデルのW3-582SB も現行モデルのW3-582SC
も、
振動板はPPコーンで、センターキャップも、材質は不明ですが、樹脂製のものです。
センターキャップの形を比べてみると、現行モデルのものは、前モデルにのものに比べて、
径がやや小さく、少し盛り上がった形状になっています。
前モデルでは、ボビンから離れた位置にセンターキャップが接着されており、そのせいで高域の解像度が悪くなっているのではと疑っていましたが、現行モデル(右の画像参照)では、センターキャップが小さくなったことで、ボビンの直近に接着されており、センターキャップがボビンに直付けされた、メカニカル2wayに近い構造になっています。
そして、前モデルでは平面的だったセンターキャップの形状も、少し盛り上がった形状になったことで、強度が増して分割振動が減り、高域の雑味が減っているのかもしれません。
前モデルでは問題を感じた高域も、
現行モデルでは、より解像度が増し、よりシャープで透明な質感になっていますが、
チリチリ感やジャリジャリ感といった雑味は無くなり、
粒子の細かいサラサラとした高音になっています。
周波数特性のハイエンドは、前モデルは 20kHz まで伸びていましたが、
現行モデルは 18kHz
止まりとなっており、前モデルよりナローな周波数特性になっています。
聴感的な、高域の音の良さは、ハイエンドの伸びより、
ミッドハイのクオリティーに、より多く依存しているというのが私の見解ですが、
実際に、高域での音の良さは、ハイエンドが18kHz止まりの現行モデルの圧勝で、
これは、スペック上の数字より、聴感的な音の良さを優先した結果だと思います。
高域のクオリティーが向上し雑味が減ったことで、
中域もPPコーン本来のエレガントな質感になり、
中域と高域の音色の違いから生じる違和感も無くなり、
全音域を通して、癖や不自然さが少なく、
8cmフルレンジの基準となりえる、モニター的な端正な音になっています。
センターキャップのみの変更で、こんなに音が変わるものかと疑問に思い調べてみたところ、
磁石の重さや、ボイスコイル径なども変わっており、
振動系だけではなく、駆動系にも変更があったようです。
低域も、マグネットの重量や振動系の重さが減っているのにもかかわらず、
どっしりと腰の据わった力感のある音になっているのが不思議ですが、
磁気回路やボイスコイルに、何かしらの改善があったのかもしれません。
見た目の変化は
ごく僅かですが、前モデルで感じた不満が一掃され、
音のクオリティーは、別のモデルと言ってよいほど大幅に向上しています。
いやはや、この価格でこの音は大したものです。
気の早い話ですが、次回のモデルチェンジが楽しみです。
「釣りは鮒に始まり鮒に終わる」という格言がありますが、
このフルレンジドライバーも、その格言のように、取っ付きやすい敷居の低さと、
ソースに妙な色付けをせずに、ありのままを提示する素直な音質には、
汲んでも尽きない奥の深い魅力を感じます。