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Tang Band W3-593SD

W3-593SD は、Tang Band による、8cmフルレンジ・ドライバーです。

W3-593SD は、現行モデルの W3-593SG の前モデルだと思いますが、
見た目は全く同じなので、どの部分に変更があったのか、
または、型番が違うだけで、実質的には全く同じモデルなのかは不明です。

フレームは、スクエア型のダイキャスト製のフレームです。
振動板の背面が広く開き、ダンパー背面の空気孔を備えた、構造的に優れたものですが、
Tang Band としては一般的なものです。

フレームの色が黒く、振動板とフェイズ・プラグが銀色なので、
結果的に、モノトーン・カラーの、精悍で美しい外観が得られています。

振動板は、銀色の美しいペーパー・コーンで、
樹脂製の塗料を塗布された、いわゆる、コーテッド・ペーパー・コーンです。
その金属的な質感から、一見したところ、アルミ・コーンのようにも見えますが、
振動板を裏から見れば、紙製だと確認できます。

もともと、ペーパー・コーンは、音色的に少し硬質で乾いた質感がありますが、
この振動板は、前面が樹脂でコーティングされているため、
紙の振動板の持つ固有音が、かなり緩和されているようで、
非常にニュートラルな音色が得られていますし、
私が所有している、Tang Band の8cmフルレンジ・ドライバーの中では、
音色的な癖が最も少ないと感じます。

そして、この振動板は、音色的にも特性的にも、完成度が非常に高いようで、
全帯域を通じて歪み感や癖が少なく、非常にナチュラルな再生音が得られています。
特に、ボーカル再生は非常に優れており、
小口径ドライバーらしくない肉声感と温かみがあります。

ただし、普通のペーパー・コーンに比べると、
コーティングにより振動板が重くなり、トランジェント特性が悪くなるためか、
小口径ドライバーらしいキビキビ感が、少し足りないような印象がありますし、
また、コーティングにより振動板の内部損失が大きくなるためか、
僅かに、解像度や微小信号の再現性が劣るような印象もあります。

フェイズプラグを備えたドライバーは、ボビンが露出しているため、
ボビンの材質が音色に、特に高域で、影響を与えます。
同じような構造の W3-1319SA などは、ボビンが金属製のため、
音色に硬さと冷たさがありますが、
W3-593SD はボビンが紙製なので、高域においても、
金属的な質感の無い、自然で素直な音色が得られていますし、
また、フェイズ・プラグが特性的に寄与しているのか、
このドライバーの高域には、フルレンジらしくない上品さと伸びやかさがあります。

低域は、僅かに控えめな印象を受けますが、フェイズ・プラグを備えたドライバーは、
フェイズ・プラグの無い同じ口径のドライバーと比べると、振動板の面積が少なく、
また、フェイズ・プラグとボビンの間の隙間を通じて、
エンクロージャーの内部と外部が筒抜けになっていることから、
振動板の振幅が同じ場合、
振動板前面においては、動かせる空気量が相対的に少なくなり、
振動板背面においては、エンクロージャー内にかけられる圧力が相対的に低くなるため、
比較的、低域の再生能力が低くなくなるのではないかと考えられます。

しかし、このドライバーの音色的な自然さの持つ魅力は、
その様な僅かな欠点を考慮しても、余りあるもので、
再生装置に、何よりも「音色的な自然さ」を求める方には、
非常にお薦めのフルレンジ・ドライバーだと思います。

ちなみに、私は、私が所有している Tang Band の8cmフルレンジ・ドライバーの中では、
このドライバーの音色に、最も親しみと愛着を感じています。

Last Updated 2015-05-22



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