blue*drop
Home > Documents > Reviews > W3-881SJF
Tang Band W3-881SJF

W3-881SJF は、Tang Band による 8cmフルレンジ・ドライバーです。

Tang Band のドライバーらしく、フレームは高級感のあるダイキャスト・フレームですが、
振動板の背面が広く開き、ダンパーの背圧を逃がすための空気孔も備えられていたりと、
振動系の動きを妨げる要素を極力 排除した設計になっています。

フレームの形状はラウンド・フレームで、なかなか好ましい端正なルックスとなっています。
ラウンドタイプのフレームは、バッフル面の広いエンクロージャーなど、
組み合わせるエンクロージャーによっては、
スクエア・タイプのフレームより、見栄えがよくなる場合があるようです。

振動板は、定評のあるポリプロピレン(PP)・コーンで、
おそらく、W3-582SC の振動板と同一のものだと思われますが、
上品な半透明のこげ茶色のコーンと艶消しブラックのセンターキャップの組み合わせは、
ルックス的にも悪くありません。

このドライバーの振動板は、小口径フルレンジの振動板としては、
オーディオマニアの心をくすぐるような目新しい工夫も無く、
シンプルかつ基本的な構造のものですが、
音色的にはニュートラルで、周波数特性的にもフラットで癖が少なく、
特に欠点らしい欠点も無く、非常に完成度の高い音質を実現しており、
W3-582SC と同様に、モニター的な性格を持っていると感じます。

PPコーンは、強度が少し低めなのか、
大口径フルレンジでは、音に張りが足りないような印象を受けることがありますが、
小口径フルレンジでは、その様な短所が露呈するような印象は無く、
PPという素材が持つ長所のみが活かされているようで、
小口径フルレンジの振動板として使うには、なかなか良い素材だと感じます。

このドライバーの特徴は、画像を見ても分かると思いますが、
なんと言っても、その強力な磁気回路にあります。
振動板の直径を上回る、直径70mm の大型のフェライト磁石を採用した強力なモーターで、
2.0gの軽量な振動系を軽々と駆動することができるため、
特に強力な駆動力を必要とする、バックロードホーン(BLH)などのエンクロージャーには、
最適なドライバーの一つだと思われます。

fs は 100Hz と、8cmフルレンジとしては低めで、
Qts も 0.39 と、こちらも8cmフルレンジとしては、かなり低くなっているため、
特性から見ても、十分にBLH に適合すると考えられます。

このモーターの力強さは、88dB という能率の高さに反映されていますが、
PPコーンの内部損失の高さのせいか、
高域は煩さが少なく、サラサラとした繊細な質感となっています。
低域も、駆動力の高さが活かされダイナミックですし、
中域についても、ナチュラルかつクリアーで、文句のつけようがありません。

キャンセル・マグネットを使って磁気回路を強化することで、
さらに能率と駆動力を高めることができますが、
その場合でも、ハイ上がりの煩い音になることは無いので、
ノーマルの状態の音色的メリットを失うことなく、
BLH により適合した特性を得ることもできます。

そして、その強力な駆動力で、8cmフルレンジ・ドライバーでは持て余しそうな、
かなり大きなエンクロージャーでも軽々と駆動できるため、
その小さな振動板からは想像できないような雄大な低音と、広大な周波数特性が得られ、
8cmフルレンジとは思えない、スケールの大きな再生音を実現することができます。

もちろん、いかに駆動力が高くても、実際の低域の再生能力は、
エンクロージャーの設計に依存しますが、
その設計が適切であれば、大口径フルレンジの必要性を感じさせない充実した低域と、
大口径フルレンジでは得られない、軽やかな中域・高域を得ることが可能です。

とは言っても、サイズ的な限界からは逃れることができないため、
やはり、再生可能な音量には限りがありますが、
大音量を必要としない環境ならば、実用上の問題は少ない思います。

結論として、W3-881SJF は、その値段からは望外とも言える、
高級感のある造りと、ナチュラルかつ端正な音質で、
フルレンジ・ドライバーとしての完成度が非常に高く、
これも、8cmフルレンジの傑作と言って差し支えのない逸品だと感じます。

Last Updated 2015-05-20



Back


inserted by FC2 system