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Past Project - Korkea

Korkea - The World's Very First Dual Back Loaded Horn Enclosure

2011-09-07
今回のプロジェクトは、数ヶ月に渡り構想を練ってきたものであり、
私が最も実現したいと思ってきたもの、それは、「デュアル・バックロード・ホーン」です。

上の画像は、デュアル・バックロード・ホーンの模式図です。
見てのとおり、それぞれ長さと開き率が異なる2本のホーンがあります。

このスピーカの狙いは、ズバリ、
今までのバックロードホーン(BLH)が原理的に持つ欠点を根本的に解消することです。
今までのBLHの欠点とは、

  • 周波数特性にピークとディップが現れること。
  • トランジェント特性の良い低音を狙うと、ローエンドが伸ばせないこと。
  • ローエンドを伸ばすと低音が遅れ、トランジェント特性も悪くなること。
などがあります。
これらの欠点は、BLH自体が持つ欠点、
ショート・ホーンが持つ欠点、ロング・ホーンが持つ欠点に分けられます。

今回開発するデュアル・バックロードホーンの Korkea (コルケア) は、
従来のBLHが原理的に持つ上記の欠点を、
ショート・ホーンとロングホーンを組み合わせることで解消し、
トランジェント特性が良くスピード感のある低音でありながら、ローエンドが伸び、
さらに、ピークやディップの無い、平坦な周波数特性を実現することを目標としています。

もし、これが成功すれば、BLHの欠点はほぼ無くなり、
BLHファンの夢が現実のものとなるのではないでしょうか。
さて、成功しますか、失敗に終わりますか、請う御期待です。


バックロードホーンの欠点と デュアル・バックロードホーンの考え方

2011-09-13
では バックロードホーンの欠点とはどのようなものでしょうか?
先ず、下のグラフをご覧ください。
FostexのFE103Enのバックロードホーンの特性をシミュレーションしたものです(ホーン長1.7m)。

緑の線がドライバーからの出力。
青の線がホーンからの出力。
水色の線が合成出力。
赤の線がインピーダンス特性です。

結構凸凹な周波数特性ですね。
このように、周波数特性にピークとディップができるのがBLHの欠点の一つであることは前述の通りですが、このピークとディップのうち、聴感上 特に問題になるのが、150Hzのディップと75Hzのディップです。この二つのディップは低域の量感と表現力を著しく損ないます。ピークの方は、ボーカル帯域に顕著なものが無ければ、それ程気になることはないと思います。

この75Hzと150Hzのディップですが、水色の線が緑の線より低くなっているのが判ると思います。これは、ドライバーとホーンの合成出力が、ドライバーだけの出力より低くなっていることを意味しています。その原因は、ドライバー前面の音に対して、逆位相の音がホーンから出力されることで、お互いの音が相殺されて音圧が低くなっているのだと考えられます。

では、この二つのディップをどうすれば解消できるのでしょうか?
ディップは、ドライバー前面の音とホーンの音が逆位相になる帯域で発生するのなら、その帯域でドライバーの音 又はホーンの音をカットして、片方の音だけが出力されるようにすれば、ディップは発生しないはずです。バックロードホーンでは、ホーンによる負荷(ホーンロード)のかかる帯域では、もちろんホーンからの出力が増えますが、ドライバーの振動板の振動が抑えられ、インピーダンスも低下します。グラフでも、インピーダンスの低下した帯域で、ドライバーの出力も減っているのが確認できます。つまり、ディップの発生する帯域で、ホーンロードをかけることが出来れば、ホーンの出力を増やせる反面、ドライバーからの出力を減らせるので、ドライバーの音がホーンの音に干渉して出来るディップを浅くすることが出来るはずです。

では、どうすれば、ディップの発生する帯域にホーンロードをかけることができるのでしょうか?
ここで、デュアル・バックロードホーンの考え方が登場します。
デュアル・バックロードホーンの2本のホーンのうち、
長いほうを、ロングホーン(LH)。短い方をショートホーン(SH)とします。
ロングホーンでディップが発生する帯域に、ショートホーンでホーンロードをかけることによって、その帯域でのホーンの出力を増やすとともに、ドライバーの出力を減らすことで、逆位相の音の干渉を減らし、ディップの発生を抑制できるのではないかというのが、デュアル・バックロードホーンの基本的な考えです。

仮に、上のグラフをロングホーン(ホーン長1.7m)の特性、
下のグラフをショートホーン(ホーン長1.3m)の特性としておきます。

では、実際に この2つのホーンが上手く働いたとしたら、
どのような特性になるのか考えてみましょう。

  • 先ず、ドライバー背面に発生する音圧は、LHとSHに分散されるので、
    全てのピークはより低く、全てのディップはより浅くなるはずです。
  • LHの150Hzのディップは、SHの150Hzでホーンロードがかかるので、より浅くなる。
  • LHの75Hzのディップは、SHの75Hzでホーンロードがかかるので、より浅くなる。
  • SHの196Hzのディップは、LHの200Hz付近jでホーンロードがかかるので、より浅くなる。
  • SHの98Hzのディップは、LHの100Hz付近の同相*の音と相殺される。

以上のことを考慮すると、全体として、ピークやディップがならされて、
平坦な周波数特性が期待できるのではないかと予想します。

*音は1秒間に 約340m 進みますので、1音波の波長は 340m/周波数 ということになります
そして、音の位相は、音源から音波の長さ分(340m/周波数)離れた位置の位相は同相ということになります。例えば、100Hzの音であれば、波長は340m/100=3.4mですので、音源と3.4m離れた場所の音は同相になります。ドライバー(スピーカーユニット)の音を考えてみると、ドライバーの振動板前面の音に対して、振動板背面の音は逆相ですから、振動板背面の音を振動板前面の音に対して同相にするには、波長の半分の距離を進めばよいので、100Hz場合は、3.4m/2=1.7mの距離で同相になります。ちなみに、シミュレーションのロングホーンは1.7mにしてありますので、100Hzでは、ドライバー前面の音とホーンの開口部の音は同相になります。


Korkea の周波数特性と その改善策について

2011-12-27
下の画像は、完成した Korkea です。
ロングホーンの開口部が左下に見えます。

下の画像はロングホーンの内部の様子です。
ホーン長は約 151cm です。
ロングホーンは8本の直管から構成されており、
最後の1本は裏側(ショート・ホーン側)に抜けます。

そして次の画像は、反対側から撮影したもので、ショートホーンの開口部が見えます

下の画像はショートホーンの内部の様子とロング・ホーンの開口部です。
ショートホーンも、ロングホーンと同じく8本構成。
ホーン長は約 115cm です。
ロングホーンより耳に付きやすい高い帯域の再生を受け持つため、
癖の少ない完全なスパイラル・ホーンにしました。

そして、次のグラフは、Korkea の周波数特性です。
測定に使用したドライバーは、Fostex FF85WK です。

パッと見た感じでは、190Hzを中心とした浅いディップがあるように見えます。
見方を変えると、55Hz-200Hzがフラットで、120Hzと270Hzにピークがあるとも見えますが、
やはり、190Hzに 浅いディップがある と見るのが妥当でしょう。

では、なぜ190Hzに浅いディップが生じたのでしょうか?
実は、デュアルバックロードホーンの思考実験に、
少し間違いがあったのではないかと思います。
どういう事かと言うと、
ロングホーンによって負荷のかからない帯域に、
ショートホーンによって負荷をかけることで、
ドライバーの振動板の振動を小さくできるという仮説に、
少々間違いがあるのではないか、ということです。

デュアル・バックロードホーンは一つの空気室に、2本のホーンが接続されていますから、
片方のホーンによって負荷がかかっても、もう片方のホーンから空気が逃げられるので、
片方のホーンによる負荷によって、ドライバーの振動板の振動を、ある程度は小さく出来ても、
音響迷路的動作によって出来るディップを、完全に無くせるほどには、
振動板の振動を、十分に小さくできないのではないか、と考えられるのです。

改善策としては、ロングホーンの周波数特性にディップが出来る帯域(fd)に、
ショートホーンの音響迷路としての動作でピークが出来る帯域をあわせることで、
上記のディップをより浅くできるのではないかと考えています。
この場合、ショートホーンの長さは、(340/(fd*2))m になり、
ロングホーンとショートホーンの長さの比率は、1.5 : 1 になります。
具体的には、ショートホーンをもう少し短くすることで、
周波数特性を改善できる可能性があるということです。

肝心の音ですが、これが なかなかに素晴らしく、
音質について言えば、成功だと言えます。
シングル・バックロードホーンのような荒々しさが無く、
癖や歪感が少ない非常に滑らかでエレガントな音です。
おそらく、ホーンが2本あるおかげで、
ホーンで発生する癖や歪、定在波などが、上手く分散されているのだと思います。
バックロードホーン以外でも、音を良くするには、
この「分散」という考えは、大切なポイントだと思います。

そして、このスピーカーの特徴として、情報量が多いことが挙げられます。
全ての楽器やパートが埋没することなく、それぞれ対等に自分の存在を主張し、
全ての音がおろそかにされず、微小な音まで再生されている感じがします。

その理由として、ホーンで発生するピークが分散されるので、
シングル・バックロードホーンに比べて、周波数特性の乱れが少くなることが考えれれます。
なぜなら、音自体の解像度がいくら高くても、周波数特性に大きなピークがあると、
そこばかりが目立ってしまい、他の帯域の音がマスキングされることで、
その存在が霞んでしまい、聴感的な情報量が少なくなってしまうからです。
デュアル・バックロードホーンは2本のホーンによってピークが分散され、
なおかつ、それぞれのピークが小さくなるので、他の帯域の音がマスキングされず、
バックロードホーン本来の解像度の良さが活かされているのかもしれません。

周波数特性は完璧ではありませでしたが、
(バックロードホーンとしては、十分にフラットな周波数特性だと思います)
音の良さという点では、非常に可能性を感じました。
Korkea の今後の開発予定は、8cmドライバーだと、設計も難しく、特性的にも限界があるので、
10cm又は12cmのドライバーを使って、新たに設計しようと考えています。
説明が遅れましたが、"Korkea" というのは、
「高度な」とか「高貴な」という意味のフィンランド語です。

Last Updated 2011-12-27


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