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Past Project Laulu-08

標準バスレフ・エンクロージャー Laulu-08 の開発コンセプトなど
2011-11-13

今回開発するLaulu-08は、8cmフルレンジ・ドライバー用の
何の変哲も無い、シンプルなバスレフ・エンクロージャーです。
何の変哲も無いといっても、出来るだけ音を良くするための工夫は勿論 施しますが。

Laulu-08 の音の目標としては、

  • モニターとして使える正確性
  • 小口径ドライバーならではのボーカルのリアルさ
  • そして、小型ながら、厚みのある音楽性の高い音
と言ったところでしょうか。

■ Laulu-08 の基本的な設計

容積は約4.5リットルで、8cmフルレンジ・ドライバーのエンクロージャーとしては標準的なものです。
使うドライバーにもよりますが、容積が大きすぎると、ローエンドを伸ばすことが出来る反面、音楽の屋台骨である中低音(ミッドロー)が痩せてしまい、低音は伸びていても、聴感的には低音が乏しく高音が強調された貧相な音になりがちです。そして、この傾向は、m0が大きく、f0が低い場合に顕著です。

反対に、容積が少なすぎる場合は、ローエンドを伸ばすことが出来ないことに加えて、エンクロージャーの空気バネが強くなることから、ドライバーの振動板の自由な振動が阻害されるので、ダイナミックレンジが狭まり、開放感に欠けるくぐもった中・高音になりがちです。そして、この傾向は、m0が小さく、f0が高い場合に顕著です。

今回採用するドライバーは、TangBandのものを想定しているので、4.5リットルという容積は妥当でしょう。FE-83Enなどはf0が高くm0も小さいので、容積をもっと大きくした方がいいかもしれません。本当は思い入れのあるFE-83Enで標準バスレフ・エンクロージャーを作りたいとも思いますが、FE-83Enは、モニターとして使うには、やや個性的な音質かもしれません。その点、TangBandのドライバーは、それ程個性的な音ではなく、どちらかと言うとニュートラルな音作りなので、モニター的に使うには、より適合するのではないでしょうか。

ダクトのチューニング周波数(fd)は、95Hzです。これも欲張らない設計です。Laulu-08はボーカルを重視するので、ボーカルの最低音域である80Hzまでは再生したいと考えています。ダクト径が小さい場合は、fd以下の周波数までグリップするので、fdが95Hzでも、95Hz以下も再生するはずです。ところで、ダクト径が大きいと背圧が少なくなると言われていますが、これは本当でしょうか?ダクトの断面積を大きくして背圧が少なくなるのは、fd以下の空振りする帯域(つまり、音が出ない帯域)だけのような気がします。そして、この帯域は、むしろ気流抵抗(背圧)を高めて、振動板の振幅を抑えたほうが良いはずでし、fd以上の帯域で背圧を低くするには、エンクロージャーの容積の拡大が、最も有効なはずです。

Laulu-08の大きな特徴は、裏板を傾斜させてあることです。これは、エンクロージャー内で発生する定在波を防ぐ狙いがあります。特に問題になるのは、ドライバーを取り付けてあるバッフルと裏板との間で発生する定在波です。バッフルとその平行面である裏板との間に定在波が発生すると、バスレフ・ダクトやドライバーの振動板を通して定在波が漏れたり、定在波がドライバーの振動板の動作に影響を与え周波数特性に乱れが生じるのです。そこで、裏板を傾斜させることで、バッフルに対して平行面を無くすことで、バッフルと裏板との間での定在波の発生を防ぎ、定在波がもたらす音への悪影響を減らすことが出来ると考えています。

その他の特徴として、ドライバーの取り付け穴の内側を削って傾斜をつけることで、ドライバー背面の音圧がスムーズに抜けるようにします。Laulu-08は比較的薄い板を使うので、この処置はそれ程必要がないのですが、少しでも音が良くなるのならば、たいした手間ではありません。板が厚い場合は、この部分で気柱共鳴が発生してf特に乱れが生じる場合もあるようです。そのほかには、ドライバーを何度取り替えても、ネジ穴が馬鹿にならないように、ツメ付きナットを使います。

使う板は比較的薄めの9mm厚です。エンクロージャーに9mmは少し薄いのではないかと感じる方もいるでしょうが、8cmドライバーには9mmがちょうど良い感じだと私は思います。エンクロージャーは、補強や制振を最小限にとどめて、適度に鳴らすことで、音に厚みと豊かさを加え、音楽性を高めたいと考えています。しかし、同じ板鳴でも、音に豊かさを与えることもあれば、悪影響を与えることもあるので、試聴をしながらチューニングをしていきたいと思います。


ダクトのチューニング
2011-11-16

Laulu-08は、ボーカルの再生を重視することから、
ボーカルの最低音域である80Hzまでは、十分な音圧をもって再生したいと考えています。
当然、ダクトのチューニングも、それを目標としたものになります。

ダクト径は、29mmとし、ダクト長は、18mm , 27mm , 36mm の三種類をテストしてみました。
なお、テストに使用したドライバーは、TangBandの W3-593SG です。

以下にその特性を示します。

() ダクト長18mm - チューニング周波数 105Hz

() ダクト長27mm - チューニング周 95Hz

() ダクト長36mm - チューニング周波数 87Hz

この3つの低域の特性を比べてみると、
S M に比べて、110Hzを頂点としたピークが高い反面、90Hz以下の音圧が低く、ローエンドの伸びがありません。そして、M に比べると、70Hz以下は M より音圧が高く、ローエンドが伸びています、80Hzは M と変わらず、90Hz以上は M よりレベルが低くなっています。

この3つのうち、低域特性が最もフラットに近く、ローエンドが伸びているのはです。
モニター的な正確性を求めるのなら、を選択するのが正しいのかも知れませんが、
実際に音楽を聴いてみると、が一番良いとも言えないのです。

実は、人の聴覚は、低域がフラットだとフラットに聴こえないという特性があります。
と言うのは、人の聴覚は、低音に対して鈍感なので、
低域がフラットだと低音不足に聞こえるのです。
下の図をご覧ください。

これはラウドネス曲線と言って、それぞれの音量と周波数における、
人の聴覚の特性を示したものです。
例えば、80ホーンの曲線を見てみると、250Hzでは約84dB、125Hzでは約90dBです。
これは、125Hzでは90dBで、250Hzでは84dBで、人も耳には同じ80ホーンの音圧に感じるということを示しています。つまり、人の聴覚は周波数が低くなるほど、鈍感になるということです。そして、40ホーンの曲線を見てみると、250Hzでは約51dB、125Hzでは約61dBで、10dBの差があり、80ホーンの曲線の6dBの差より大きくなっています。これは音量が小さくなるほど、人の聴覚は低音に対して、より鈍感になることを示しています。

人の聴覚にはこのような特性があるので、
スピーカーの低域をフラットに伸ばした場合は、低音不足に感じるのです。
そして、低域がフラットに伸びていると感じるためには、
低域を持ち上げる必要があるということです。
特に小型スピーカーは、小音量で聴くことが多いため、大音量で聴く場合よりも、
聴覚が低音に対して さらに鈍感になるので、より低域を持ち上げる必要があります。

話を戻しますと、
は周波数特性では、低域がフラットに近くローエンドも伸びていますが、
実際に音楽を聴くと、低域が痩せて厚みがなく、物足りない感じがします。
は元気のいい感じがしますが、低音の伸びが足りないせいか、
やや軽薄で音に深みが無く、安っぽい音に感じます。
は低音に適度な厚みと深みがあり、バランスの良い音に聴こえます。
何より、音楽を聴いていて、他の2つより楽しいと感じます。

以上のことから、このエンクロージャーのダクトのチューニング周波数は、
最初の設計の通り、95Hzを採用したいと思います。

Laulu-08のような小型のシステムの場合、
低音域において、低音の音圧、又は、ローエンドの伸び、どちらかが犠牲になり、
この二つを両立することは、物理的に困難です。
ですから、小型システムにおいては、いかにローエンドを伸ばすかよりも、
いかに聴感上の 低音感 を得るかに主眼を置いた設計をするほうが、
音楽を聴く道具としては、結果的に満足度の高いシステムが得られると、私は思います。


エンクロージャーの構造について
2012-01-12

Laulu-08のエンクロージャーの特徴として、特に、以下のものが挙げられます。

  • 裏板を傾斜させることで、エンクロージャー内で発生する定在波を抑制し、
    癖の無い中・高音を再生する。
  • 薄めの板を積極的に使うことで、ある程度、板を鳴らし、
    再生音に、厚み、自然さ、温かみ、優しさ、といった要素を付加する。

前者の裏板を傾斜させることのメリットとして、特にフロントバッフルと裏板との間で発生する定在波を抑制できます。フロントバッフルと裏板との間で発生する定在波が特に問題なのは、薄い振動板やバスレフダクトを通して、エンクロージャー内の響きが漏れ、再生音に濁りを与えたり、振動板の動作に影響を与え周波数特性に乱れを生じる可能性が最も高いと考えられるからです。

後者の薄めの板を使うことのメリットとして、特に小口径のフルレンジ・ドライバーを使って小型のシステムを作る場合は、厚い板を使うと、エンクロージャーの強度が高くなりすぎ、高音の強調された、冷たく硬い人工的な音になりがちです。もともと、小型エンクロージャーは、板の振動エネルギーが小さいので、板鳴りによって、問題が発生するよりは、小口径ドライバーの高域に重点のある偏った周波数特性に、厚みや豊かさを加味することで、より自然な再生音を得られることが多いのです。

エンクロージャーは、全ての部材を違う大きさとし、全ての部材にそれぞれ違う固有振動数を持たせることで、より自然で癖の無い板鳴りの響きを得ることが出来ます。また、それぞれの部材が、違う固有振動数を持っていると、板の共振が持続しにくくなるメリットも期待できます。

Laulu-08の場合、側板の二枚は同じ大きさになるため、違う固有振動数を持たせるために、片方の側板に制振材を貼っています。この制振材はブチルゴムとコルクシートの2層構造です。違う材質の制振材を組み合わせること、単一で使用する場合に比べて、振動が加えられたとき、柔らかい方の制振材(ブチルゴム)がより大きく変形することで、より多くの振動エネルギーを吸収することができる(内部損失が高くなる)と考えられます。この制振材は、側板のほかに、エンクロージャーの響きを調節するため、フロントバッフルと底板にも張りました。フロントバッフルに張った制振材は、特に高音に効いたようで、試聴では、より透明感のある高音が得られました。

その他の特徴としては、振動板の背面の音圧がスムーズに抜けるように、ドライバーの取り付け穴の内側に傾斜をつけています。Laulu-08は板が薄く、TangBandのドライバーもフレームに高さ(奥行き)があり、振動板背面の音圧が抜けやすくなっているため、この加工はそれほど必要が無いと思いますが、少しは音が良くなるかと思い、一応 施しました。Fostexのドライバーは、フレームの高さ(奥行き)が無いので、厚い板を使ってエンクロージャーを作る場合は、背圧が抜けにくくなるため、この加工は必須だと思います。しかし、TangBandのフレームの設計は素晴らしいと思います。TangBandの設計者はフレーム・フェチなのでしょうか。TangBandのドライバーは、フレーム以外にも、様々な創意工夫が盛り込まれ、眺めてると楽しいですね。音と品質が良い割には、価格もリーズナブルですしね。


吸音材の調整と最終的な周波数特性
2012-01-30

上の画像は完成したLaulu-08です。(まだ、仕上げや塗装はしていませんが)
板の響きを妨げないように、ウッドブロックで3点支持にして、浮かせた状態で聴いています。

Laulu-08は、裏板を傾斜させることで、エンクロージャー内で発生する定在波を少なくする設計ですので、全てが平行面で構成されるエンクロージャーに比べて、吸音材の量を少なくできます。
最初は、吸音材無しでも行けるかと思いましたが、吸音材無しの状態だと、音は快活で華やかなのですが、エンクロージャー内の響きが薄い振動板やダクトを通して漏れてくるようで、微小信号の再生が阻害され、細かいニュアンスが比較的判りにくく、少しうるさく雑な音という印象を受けました。

吸音材の調節は、試聴を繰り返した結果、ポリエステルの密度の薄いものを、裏板と側板の片側と底板に張るという感じに落ち着きました。低音の量を減らすことなく、音の癖や雑味を減らすには、密度の薄い吸音材を、広い面積に使うのが効果的だと感じています。フェルトなどの密度の濃いものは、使いすぎると低音の量も音の輝きも減り、重く沈んだ響きになるようでした。密度の濃いものは、吸音材の中に空気を押し込んだり、引き出したりするのにエネルギー消費され、振動板がオイルダンパーを背負ったような状態になるのかもしれません。

吸音材の研究はなかなか面白く、音のクオリティーをある一定以上のレベルにするためには、避けて通れないテーマだと思います。吸音材無しの音は、シャープかつ明るく華やかなので、ぱっと聴いた感じでは良い音に聞こえます。これは、いわゆる店頭効果の高い音かも知れません。しかし長時間じっくり聴いていると、表情が雑で細かいニュアンスが聞こえ難く、飽きの来る音、音楽に耳を澄ませるのが楽しくない音だと感じてきます。もちろん、どのような音が良い音かは、ひとによって意見が違いますし、好みも様々ですが、私は、一聴すると静かでおとなしく地味な音だけど、じっくり聴くと表情が豊かで音に深みがあり、、細かいニュアンスが溢れ、音楽に耳を澄ませるのが楽しいスピーカー、というものが好きなのです。

■下のグラフは、最終的な Laulu-08 の周波数特性です。

コンパクトなスピーカーにしては、フラットでワイドな良い特性だと思います。
75Hz-18kHz がフラットで、再生可能周波数は、60Hz-20kHz といった感じでしょうか。
(周波数特性は、パソコンのライン出力からデジタルアンプに繋いでの測定していましたが、
先日USB-DACを購入し、パソコン→USB-DAC→デジタルアンプ→スピーカー とすることで、
試作段階のグラフより、低域も高域も伸び、よりワイドになっているようです)

このプロジェクトは、比較的低音の出やすいTangBandのバスレフ向けのドライバーを使って、
標準的なバスレフ・エンクローバーを作るという最も失敗の可能性の低いものということもあり、
音の仕上がりは、最初に意図したとおりのもの、

  • モニターとして使える正確性
  • 小口径ドライバーならではのボーカルのリアルさ
  • そして、小型ながら、厚みのある音楽性の高い音
といった特徴を実現することができたと思います。
私個人は、Laulu-08の、ナチュラルで厚みがあり、
暖かさや優しさを感じさせる、聴き疲れしない音を気に入っています。

今度、Laulu-08 の新しいバージョンを開発することがあれば、
裏板と側板の片方を、もう少し薄い板で作ってみたいと思います。


Last Updated 2012-01-30



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