Laulu-08II は、以前開発した、8cmフルレンジ・ドライバー用の
小型バスレフ・エンクロージャー Laulu-08
の新しいバージョンです。
旧バージョンのLaulu-08も、特に欠点はなく、完成度の高いエンクロージャーでしたが、
今回の新しいバージョンは、旧バージョンの開発コンセプトを引き継ぎつつ、
いくつかの改善点を加えることで、より完成度と再生音の品質を高めています。
なお、旧バージョンの Laulu-08 の開発コンセプトなどについては、
こちらの記事 を参照してください。
Laulu-08
の基本的な構造を引き継ぎつつ、今回、新しく加える主な変更点は、
底板を傾斜させることで、天板に対する平行面を無くすことです。
上の画像が、Laulu-08II
の基本的な構造です。
裏板と底板が傾斜していることが分かると思います。
このような構造にすることによって、フロントバッフルと天板に対する平行面が無くなり、
フロントバッフルと裏板の間、及び、天板と底板の間で、
定在波の発生を抑制することができます。
フロントバッフルと裏板との間で発生する定在波は、
ドライバーの振動板の動作に影響を与えたり、バスレフダクトや、薄い振動板を通して漏れ、
周波数特性に、ピークやディップなどの乱れが生じる可能性が考えられますが、
裏板を傾斜させることで、フロントバッフルと裏板との間で発生する定在波を抑制し、
周波数特性の乱れや、癖の少ない音を実現しようという意図があります。
エンクロージャー内で発生する定在波の波長は、
エンクロージャーの平行面間の距離に比例して長くなります。
つまり、平行面間の距離が長くなればなる程、
その平行面間で発生する定在波の周波数は低くなります。
定在波は、その周波数が低くなればなる程、吸音材による吸音率が低くなります。
(音は周波数が低い程、吸音しにくいということです)
そして、吸音材の使用量が同じならば、波長の長い定在波ほど、
より長時間、エンクロージャー内に滞留することから、
再生音に与える悪影響も、より大きくなると考えらます。
バスレフエンクロージャーは一般的に、
天板と底板との距離が最も長くなる形状をしています。
ですから、バスレフエンクロージャー内で発生するす定在波の周波数は、
天板と底板の間で発生する定在波のものが最も低くなることから、
各並行面間で発生する定在波のうち、最も吸音しにくいものにとなります。
そして、エンクロージャー内で発生する定在波のうち、
比較的
波長が長く吸音しにくい性質を持つものは、
底板に傾斜をつけることによって、効果的に減らせると考えられることから、
Laulu-08
への主な改良点として、底板の傾斜というものを付け加えたというわけです。
両側板には傾斜が付けられていませんが、
この平行面間で発生する定在波は、波長が短いため、比較的
吸音されやすく、
再生音への悪影響も、比較的 少ないと考えられます。
Laulu-08II
は、すべての部材に違う固有振動数を持たせています。
このようにすることによって、それぞれの部材が共振を起こした場合でも、
違う周波数で振動することによって、他の部材の共振を阻害すると共に、
特定の周波数で強く共振が起こることを避けることができます。
しかし、このエンクロージャーの場合、両側板が同じ形状になるため、
片方の側板に三角材を接着し、質量と強度に違いを持たせることで、
それぞれの固有振動数にも、僅かですが、違いを持たせています。
また、この側板に貼られた三角材には、両側板間で発生する定在波を、
抑制する効果も、もちろん、期待できます。
Laulu-08II の別のコンセプトとして、
「エンクロージャーは、第二の振動板」
というものがあります。
これは、エンクロージャーを、ドライバーの振動板の延長として考え、
エンクロージャーにも、ある程度、振動板の特性を持たせるという考え方です。
このコンセプトについて興味のある方は、
コラム
No.10 , No.11 , No.12 を参照してください。
このエンクロージャーは、ドライバーの振動を、
エンクロージャーに素早く逃がすために、やや薄めの板を使用して作られており、
かつ、その振動を素早く減衰させることを目的として、エンクロージャー内部には、
ブチルゴムとコルクシートからなる制振材(ダンパー)が使用されています。
特に、フロントバッフルの振動は、高域を濁らせ透明感を損うことがあることから、
この部分には、4層構造の制振材を使用することで、他の部分よりも、
大きな内部損失を与えて、強力にダンプしています。
この制振材を貼った板は、叩いたときの響きが、「コンコン」から「コツコツ」という風に変わります。
これは、制振材が板の振動を効果的に吸収することで、振動の減衰時間が短くなり、
よりデッドな響きになるからです。
エンクロージャーを第二の振動板と考えるというコンセプトは、少々
奇異に感じるかもしれません。
しかし、エンクロージャーは重く強固であればあるほど良いのであれば、
少なくとも、高級なスピーカー・システムには、鉄製などのエンクロージャーを採用して、
徹底的に振動を排除したようなものがあってもよさそう思いますが、
実際には、その様なものは無く
(私が知らないだけで、あるだろうと想像しますが)、
かえって、高級なシステムには、響きの良い木材を採用することで、
エンクロージャーの響きを、音楽性を高めることに寄与させようと、
意図したのではないか?と、思われるものが多いようです。
そして、その様な事実は、少なくとも、エンクロージャーは、
強固であればあるほど、重ければ重いほど良いとは言えず、
ある程度、エンクロージャーの響きを、音作りの一環として活かす事によって、
音楽性を高めることができるということを、示しているのではないかと思います。