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Project Laulu-08II

Laulu-08II の開発コンセプトや構造など
2013-05-16

Laulu-08II は、以前開発した、8cmフルレンジ・ドライバー用の
小型バスレフ・エンクロージャー Laulu-08 の新しいバージョンです。
旧バージョンのLaulu-08も、特に欠点はなく、完成度の高いエンクロージャーでしたが、
今回の新しいバージョンは、旧バージョンの開発コンセプトを引き継ぎつつ、
いくつかの改善点を加えることで、より完成度と再生音の品質を高めています。

なお、旧バージョンの Laulu-08 の開発コンセプトなどについては、
こちらの記事 を参照してください。

Laulu-08 の基本的な構造を引き継ぎつつ、今回、新しく加える主な変更点は、
底板を傾斜させることで、天板に対する平行面を無くすことです。

上の画像が、Laulu-08II の基本的な構造です。
裏板と底板が傾斜していることが分かると思います。
このような構造にすることによって、フロントバッフルと天板に対する平行面が無くなり、
フロントバッフルと裏板の間、及び、天板と底板の間で、
定在波の発生を抑制することができます。

フロントバッフルと裏板との間で発生する定在波は、
ドライバーの振動板の動作に影響を与えたり、バスレフダクトや、薄い振動板を通して漏れ、
周波数特性に、ピークやディップなどの乱れが生じる可能性が考えられますが、
裏板を傾斜させることで、フロントバッフルと裏板との間で発生する定在波を抑制し、
周波数特性の乱れや、癖の少ない音を実現しようという意図があります。

エンクロージャー内で発生する定在波の波長は、
エンクロージャーの平行面間の距離に比例して長くなります。
つまり、平行面間の距離が長くなればなる程、
その平行面間で発生する定在波の周波数は低くなります。

定在波は、その周波数が低くなればなる程、吸音材による吸音率が低くなります。
(音は周波数が低い程、吸音しにくいということです)
そして、吸音材の使用量が同じならば、波長の長い定在波ほど、
より長時間、エンクロージャー内に滞留することから、
再生音に与える悪影響も、より大きくなると考えらます。

バスレフエンクロージャーは一般的に、
天板と底板との距離が最も長くなる形状をしています。
ですから、バスレフエンクロージャー内で発生するす定在波の周波数は、
天板と底板の間で発生する定在波のものが最も低くなることから、
各並行面間で発生する定在波のうち、最も吸音しにくいものにとなります。

そして、エンクロージャー内で発生する定在波のうち、
比較的 波長が長く吸音しにくい性質を持つものは、
底板に傾斜をつけることによって、効果的に減らせると考えられることから、
Laulu-08 への主な改良点として、底板の傾斜というものを付け加えたというわけです。

両側板には傾斜が付けられていませんが、
この平行面間で発生する定在波は、波長が短いため、比較的 吸音されやすく、
再生音への悪影響も、比較的 少ないと考えられます。

Laulu-08II は、すべての部材に違う固有振動数を持たせています。
このようにすることによって、それぞれの部材が共振を起こした場合でも、
違う周波数で振動することによって、他の部材の共振を阻害すると共に、
特定の周波数で強く共振が起こることを避けることができます。

しかし、このエンクロージャーの場合、両側板が同じ形状になるため、
片方の側板に三角材を接着し、質量と強度に違いを持たせることで、
それぞれの固有振動数にも、僅かですが、違いを持たせています。
また、この側板に貼られた三角材には、両側板間で発生する定在波を、
抑制する効果も、もちろん、期待できます。

Laulu-08II の別のコンセプトとして、
「エンクロージャーは、第二の振動板」 というものがあります。
これは、エンクロージャーを、ドライバーの振動板の延長として考え、
エンクロージャーにも、ある程度、振動板の特性を持たせるという考え方です。
このコンセプトについて興味のある方は、
コラム No.10 , No.11 , No.12 を参照してください。

このエンクロージャーは、ドライバーの振動を、
エンクロージャーに素早く逃がすために、やや薄めの板を使用して作られており、
かつ、その振動を素早く減衰させることを目的として、エンクロージャー内部には、
ブチルゴムとコルクシートからなる制振材(ダンパー)が使用されています。

特に、フロントバッフルの振動は、高域を濁らせ透明感を損うことがあることから、
この部分には、4層構造の制振材を使用することで、他の部分よりも、
大きな内部損失を与えて、強力にダンプしています。

この制振材を貼った板は、叩いたときの響きが、「コンコン」から「コツコツ」という風に変わります。
これは、制振材が板の振動を効果的に吸収することで、振動の減衰時間が短くなり、
よりデッドな響きになるからです。

エンクロージャーを第二の振動板と考えるというコンセプトは、少々 奇異に感じるかもしれません。
しかし、エンクロージャーは重く強固であればあるほど良いのであれば、
少なくとも、高級なスピーカー・システムには、鉄製などのエンクロージャーを採用して、
徹底的に振動を排除したようなものがあってもよさそう思いますが、
実際には、その様なものは無く (私が知らないだけで、あるだろうと想像しますが)、
かえって、高級なシステムには、響きの良い木材を採用することで、
エンクロージャーの響きを、音楽性を高めることに寄与させようと、
意図したのではないか?と、思われるものが多いようです。

そして、その様な事実は、少なくとも、エンクロージャーは、
強固であればあるほど、重ければ重いほど良いとは言えず、
ある程度、エンクロージャーの響きを、音作りの一環として活かす事によって、
音楽性を高めることができるということを、示しているのではないかと思います。


Laulu-08II の周波数特性など
2013-06-04

上の画像は、完成した Laulu-08II です。
ルックスは、バスレフエンクロージャーということもあり、
特に問題も無く、端正な感じにまとまっていると思います。

そして、下のグラフは、Laulu-08II の 軸上1mでの周波数特性です。
測定に使用したドライバーは、Tang Band W3-582SC です。

75Hz-18kHz がフラットで、再生可能周波数は、53Hz-20kHz という感じでしょうか。
このサイズのエンクロージャーとしては、かなりワイドで申し分の無い特性になっています。

上のグラフからは、もう少しダクトを延長した方が良さそうな印象を受けますが、
同じTangBandの8cmフルレンジドライバーでも、フェイズプラグ付きのものをマウントした場合は、
低域が少し減って、多分、ちょうど良い感じになるだろうと思います。
フェイズプラグ無しのものであれば、低域に余裕があるので、
もう少しダクトを延長して、ローエンドを下げた方が、
100Hz辺りの盛り上がりも小さくなり、バランスが良くなるかもしれません。

もともと、旧 Laulu-08 は、8cmフルレンジ用のミニモニターとして開発しました。
そして、その後継機の Laulu-08II も当然、ミニモニターとして、
より癖の少ない、よりニュートラルな再生音を目標として、開発しました。

使用するドライバーは、音色的にニュートラルで、モニター的な再生音を持つ、
Tang Band の W3-582SC を想定しています。
このドライバーは、安価ながら、バランスが良く、大変に優れたドライバーで、
入門用の1本として、最初の8cmフルレンジとして買うと、
それ以降、これを越えるものを見つけるのに、苦労するかもしれません。

試聴も、このドライバーをマウントして行いましたが、
Laulu-08II と W3-582SC の組み合わせからなる、
このミニ・モニター・システムは、このサイズのフルレンジ・スピーカー・システムとしては、
ほぼ、非の打ち所の無い、完璧とも言える再生音だと感じます。

吸音材を入れない状態でも、箱の中で「ウヮンウヮン」響く感じが少なく、
定在波の少なさと言う点では、明らかに、旧タイプのものより改善しており、
底板に傾斜をつけることに対する、設計上の問題はなさそうです。
そして、Laulu-08II は、少量の吸音材を入れた状態では、
ほぼ、エンクロージャー内部の響きを感じなくなり、
ドライバーの持ち味を、そのまま活かすことのできる、
モニターとして相応しい性格の、癖の無いエンクロージャーだと感じます。

しかし、モニター的な再生音だとは言っても、
冷たさや硬さ、非日常的な よそよそしさは無く、
普段の生活に自然に溶け込む、優しさや暖かさを感じさせる音です。
そして、優しさや暖かさを感じると言っても、
濁りや雑味が多いということはなく、繊細かつ透明感のある音です。
このエンクロージャーでは、一般的には、音の相反しがちな要素が、
上手くバランスを保ちながら、高い完成度にまとまっていると感じます。

Laulu-08II は、
「エンクロージャーは第2の振動板」という、コンセプトに基づき、
ある程度、エンクロージャーの響きを、音作りの一環として活かす
という方針で設計されており、実際に聴いた感じでも、
ドライバーがエンクロージャーから独立して、勝手に鳴っているという感じではなく、
ドライバーとエンクロージャーの響きが溶け合い、
まさに一つのシステムとしてして、一体化して響いていると感じますが、
それぞれの部材の、固有振動数が違っているためか、
または、制振材によるダンピングが、効果的に機能しているためか、
ある程度、板鳴があるはずですが、板が鳴っているという感じがありませんし、
板鳴りによって、音が濁るという印象もありません。

  • 板鳴りの起こる周波数が分散している
  • 板鳴りの強度が弱い
  • 板鳴りが素早く減衰する
という条件下では、
板が振動しても、音色的には、エンクロージャーの響きだとは感じられず、
聴感上は、ドライバーの振動板の延長として、
エンクロージャーが振動しているように感じられるということが、
システムとしての響きを豊かにすることに、貢献しているのかもしれません。

また、エンクロージャー内で、定在波が発生しにくい構造のため、
吸音材が少なくできることから、中域や高域が沈んだ響きにならず、
明るく快活な響きになっていますし、
低域はバックロードホーンで感じるような大きなスケール感は、あまりありませんが、
音階も明瞭で、自然な厚みがあり、質感もバスレフとしては硬く、
トランジェント特性も比較的優れていると感じます。

Laulu-08II は、小型エンクロージャーとしては、周波数特性もワイドで、
低域も厚みがあり、各音域のバランスもよく、音もクリアーで、情報量も多く、
音楽を聴く上で、特に不満を感じることもありませんし、
小型バスレフ・システムが備えうる性能と音楽性ということでは、
かなり高い水準に達しているのではないかと思います。


Laulu-08II FF85WK version の周波数特性など
2014-01-10

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Last Updated 2013-06-04



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