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Project Laulu-D10

Laulu-D10 の開発コンセプトや構造など
2014-07-03

Laulu-D10は、以前から作りたいと思っていた、デュアル・ポート・バスレフ (以下、DPBR) です。

DPBR 大きな特徴は、バスレフポートの構造にあります。
一般的なバスレフエンクロージャーのバスレフポートは、1つのみですが、
DPBR 、長さの異なる2つのバスレフポートを備えています。

市販品にも、バスレフポートが2つのものはありますが、
それは、同じ長さのポートが2つの、ツイン・ポート・バスレフで、
デュアル・ポート・バスレフとは、コンセプトが少々異なります。

バスレフポートは、容積+ポート という、一連の共振系により、
低い帯域で共振し、低域の補強をするのは普通に知られた動作ですが、
異なる長さのポートが複数あっても、容積とポートからなる共振系が、
バスレフとして機能する場合の、共振周波数は複数になるわけではなく、
シングル・ポート・バスレフと同じく、単一です。

しかし、バスレフポートは、それ自体が共鳴管としての動作により、
中域や高域において、余計な付帯音を発生させることで、
再生音に、特定のカラーレーションを加えてしまうという弊害があるのです。
この問題については、こちらのページ を参照してください。

筒を吹いてみれば分かりますが、一定の周波数で「ポーポー」鳴りますよね。
楽器のパンフルートみたいなものです。

それと同じ現象で、バスレフポートも、それ自体が単独で、共鳴管としても機能するため、
それが固有に持つ共鳴周波数に近い振動を与えられた場合に、
一定の共鳴周波数で鳴るわけです。
ただし、バスレフポートの場合は、
エンクロージャーの容積の空気バネが、ハイカットフィルターとして機能するので、
パンフルートのように大きな音では鳴るわけではありません。

しかし、原理的には、ポートが発生する共鳴音を減らすことができれば、
再生音に混入する、ポートからの付帯音が減少するため、
よりカラーレーションが少なく、よりソースに忠実な再生音を期待することができるのです。

つまり、このデュアルポート・バスレフの基本的な考えかたは、
長さの違う2本のポートによって、ポート自体が共鳴管として共鳴する周波数を分散し、
特定の周波数での強い共鳴音の発生を抑えることで、
付帯音が少なく、癖の無い中・高音を実現しようというものです。

バスレフポートが共鳴管として発生する付帯音の大きさは、
ポートの長さが一定の場合、ポートの断面積に比例するので、
より大きな断面積を持つポートを採用した場合は、
ポートが発生する共鳴音による問題も、より大きくなります。
そして、DPBR は、このような場合に、特に効果的だと考えられます。

ポートが共鳴管として機能する場合の共鳴周波数は、
ポートの長さに開口補正を加味した値に比例するので、
2つのポートの長さの比率を変えることにより、
ポートの共鳴周波数も分散することが出来ると考えられます。

それぞれのポートの共鳴周波数を、できるだけ分散するために、
2つのポートの長さの比率は、公倍数の少なくなる比率が良いと考えられます。
今回は、短い方のポートの長さを1とした場合に、
長い方のポートの長さが1.3となる様に設定しました。

この場合、最低共鳴周波数を f とした場合、
それぞれのポートが共鳴する周波数は、
1f , 1.3f , 2f, 2.6f , 3f , 3.9f , 4f , 5f , 5.2f , 6f , 6.5f , 7f , 7.8f ・・・
のようになります。

片側が閉じた共鳴管の場合は、fの奇数倍で共鳴しますが、
両端の開いた共鳴管の場合は、fの整数倍共鳴します。

そして、ポートが共鳴管として機能する場合の、ポートの実効長は、
ポートの長さに開口補正を加味した値になります。

計算では大体、3.9f と 4f で、共鳴周波数が近くなりますが、
周波数が高くなるほど、ポートの共鳴音の音圧も低下するので、
人の聴覚では、この辺りの周波数の共鳴音を感知することはきないはずです。

そして、1本辺りのポートが発生する付帯音を減らすためには、
当然、1本あたりのポートの断面積も、ポートの本数に応じて、減らす必要があります。
例えば、DPBRのように、ポートが2本ある場合は、1本辺りのポートの断面積は、
シングルポートの断面積に比べると、半分になります。

しかし、このLaulu-D10のように、細いポートの場合は、
付帯音自体が小さい筈なので、デュアルポートにしても、
実際に耳で聴いて効果が分かるかどうか怪しい感じですが、
原理的には、この方式により、ポートの発する付帯音自体は少なくなるはずなので、
普通のシングルポート・バスレフよりは、中域・高域のクオリティーは向上すると考えられます。

Laulu-D10が、細いポートを採用しているのは、
ポートが共鳴管として発する共鳴音を小さくすること以外に、
エンクロージャー内の響きが漏れにくくなるため、再生音に与える濁りが少なくなることや、
容積+ポートの共振系がバスレフ動作をする場合に、
太いポートに比べて、fd以下の帯域でもグリップするなど、
バスレフ共振する帯域が広くなることで、よりワイドレンジな周波数特性が期待できること、
負荷がかかる帯域が広くなる反面、
その帯域内では、特定の周波数での共振強度が弱くなることによって、
バスレフ的な質感や強調感の少ない、自然な音色が得られること、
また、バスレフ共振による負荷がかからない低域において、
気流抵抗を高め、コーンの振幅を抑えることにより、
ドップラー歪の減少が期待できることなどが、理由として挙げられます。

Laulu-D10の基本的な構造は、裏板と底板に傾斜をつけることで、
定在波の発生を抑制する構造となっており、8cmフルレンジ用の Laulu-08II と共通です。
Laulu-08IIについては、こちら を参照してください。

しかし、Laulu-D10は、10cmフルレンジ用のエンクロージャーなので、
サイズ的には、もちろん、一回り大きくなっていますし、
使用しているMDFの板厚も、Laulu-08II の 9mm に対して、
Laulu-D10 では 12mm と、3mm厚くなっています。

定在波の発生を抑制するこの構造は、特定の周波数での強調感などが少なくなり、
モニターとしても使える、フラットな周波数特性を実現できるものですが、
Laulu-D10では、さらに、DPBR 構造を採用し、
中域・高域におけるカラーレーションを少なくすることで、
よりソースに忠実で、高品位な音質を実現することを意図しています。

Laulu-D10 の改良と周波数特性など
2014-08-12

チューニングを経て、完成した Laulu-D10 は、
このサイズのバスレフ・システムとしては、ほぼ非の打ち所が無く、
厚みと繊細さを兼ね備えた音楽性の高い音で、非常に気に入っていたのですが、
振動板がバタバタするほどの大音量でサイン波を再生すると、
ポートから風切り音が発生するという、ちょっとした欠点を抱えていました。

実際の音楽鑑賞においては、
振動板がバタバタするほどの大入力というのは瞬間的なものなので、
実際には、この風切り音を認識することはできません。
ただ、定常的に低音の大音量再生ができるサイン波の再生で、
認識できるという程度ですが、Laulu-D10 は完成度が高いだけに、
この僅かな欠点が少し気になっていました。

この風切り音は、最初、
2つのポートの非対称性によって発生している歪みなのではないかと考え、
短い方のポートに延長ポートを取り付けて、2つのポートの長さを同じにすることで、
ツインポートバスレフと同じ構造にして実験してみましたが、
やはり、大音量にすると、同じように発生するので、
ポートの長さの非対称性が原因で発生するものではありませんでした。

その後の調査の結果、この風切り音は、
ポートの内側の縁で生じる渦気流(乱気流)によって発生していようだったので、
ポートの内側の縁に、渦気流の発生を抑制するための加工を施すことにしました。

そして、考案したのが、上の、Serrated Port (セレーティッド・ポート) です。
見てのとおり、ポートのふちに8箇所、三角の切込み(セレーション)を入れています。

このセレーションの働きによって、
ポートの縁で発生する渦気流の出来方が一様でなくなるため、
ポートからの音に、特定の周波数のノイズが混入しにくくなり、
また、渦気流そのものも、より小さい渦気流に分散されるため、
渦気流の大きさに比例する、ノイズ(風切り音)の音量も、抑制することができるのです。

セレーティッド・ポートを採用した、第2作目の Laulu-D10 も、
実際の音楽鑑賞においては、第1作目とほとんど同じ印象ですが、
ポートそのものの音を確認するために、大音量でサイン波を再生してみると、
明らかに風切り音が減少しており、第1作目からの改善を確認できたため、
Laulu-D10 には、このセレーティッド・ポートを採用することにしました。

というわけで、この第2作目の Laulu-D10 は、
セレーション加工付きのデュアルポート・バスレフということで、
やや特徴的なバスレフ・エンクロージャーとなっています。

上の画像は、完成した Laulu-D10 です。
デザイン上の制約が少ないバスレフ・エンクロージャーということもあり、
まずまず端正な印象で、それほど悪くないルックスだと思います。

使用するドライバーによって、見た目の印象は変わりますが、
Fostex FF105WK を使用する場合のドライバーの取り付け位置は、
もう1cm程度、上にずらした方が、デザイン的に良かったかもしれません。

下のグラフは、Laulu-D10 の軸上1mでの周波数特性です。
測定に使用したドライバーは、Fostex FF105WK です。

非常にフラットで、十分にモニターとして使える優秀な周波数特性となっています。

デュアルポートによる低域も良好で、55Hz 辺りまではフラットな特性となっています。
ローエンドも、細いポートを採用した恩恵か、fd以下でバッサリ切れることもなく、
不思議とかなり低いところまでグリップし、低域再生限界は 35Hz 辺りでしょうか。
狙いどおりの、非常にワイドレンジな低域再生です。

ハイエンドは、18kHz 程度で、それほど伸びてはいませんが、
これは測定に使用するドライバーの高域特性に由来する部分です。

実用的な周波数特性は、40Hz-17kHzといったところで、
このサイズのバスレフ・システムとしては、かなりワイドな特性となっています。
Tang Band など、他の10cmドライバーを使えば、
さらにワイドな特性を期待できるかもしれませんが、
今回は、音質的に私の好みの Fostex FF105WK を使用しました。

中域と高域も、顕著なピークもディップも無く、フラットな特性になっています。
450Hz 辺りに、少しディップがありますが、この帯域をサインスイープで確認してみると、
実際にはフラットに再生されるので、これは反射波か定在波の影響だと考えらます。

この周波数特性は、無響音室で測定しているわけではないので、
実際にはフラットな特性でも、部屋の定在波や、壁からの反射波の影響で、
実際には無い凸凹が生じるのは避けられません。
聴感上の周波数特性は、グラフで見るよりも、さらにフラットな印象を受けます。

実際の試聴においても、長さの違う2本のポートを持つ DPBR の、
バスレフとしての動作に問題はないようで、fd 付近でしっかりと強い共振が起きていますし、
質感にも問題はなく、十分な硬さとリアルさを伴った低音再生です。

ジャズなどを聴くと、ウッドベースの演奏などは、音階が正確というレベルではなく、
虫眼鏡で覗くような正確さがあり、演奏者の指の動きが見えるような、
表現力の豊かさと細やかさを感じさせます。

そして、これは、FF105WK の功績かもしれませんが、
比較的、背圧の掛かるバスレフなのにも関わらず、音離れのが良いので、
音像がスピーカーの位置に制限されず、広大で奥行きのある音場が再現されます。

デュアル・ポートによって、
ダクトの付帯音の周波数が分散される効果によるのかどうかは分かりませんが、
中・高域は、雑味が少なく、解像度も良く、非常にクリアーで、エレガントな音です。
特に高域は、フルレンジらしくない透明感と繊細さがあり、
今まで作ったフルレンジ・システムの中では、最も良いかも知れません。

この品質の高さが、デュアルポートによるものか、
エンクロージャーが、構造的に素質が良いからかは不明ですが、
結果的に、Laulu-D10 の再生音は、モニターに相応しく、高い正確性と品質、
さらに、厚みと繊細さを兼ね備えた、音楽性の高い音を実現できたようです。

バスレフエンクロージャーは、比較的 完成度を高めやすいので、
完全なものを作ろうとして、ついつい細かい部分にこだわってしまいますが、
今回の改良型の Laulu-D10 は、周波数特性的にもワイドで、
音質的にも音楽的にも、非常に高い完成度が得られ、
私自身も、この音には非常に満足しており、大体この辺りで完成とさせていただきます。

Last Updated 2014-08-12



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