Laulu-D10は、以前から作りたいと思っていた、デュアル・ポート・バスレフ (以下、DPBR) です。
DPBR
大きな特徴は、バスレフポートの構造にあります。
一般的なバスレフエンクロージャーのバスレフポートは、1つのみですが、
DPBR
、長さの異なる2つのバスレフポートを備えています。
市販品にも、バスレフポートが2つのものはありますが、
それは、同じ長さのポートが2つの、ツイン・ポート・バスレフで、
デュアル・ポート・バスレフとは、コンセプトが少々異なります。
バスレフポートは、容積+ポート
という、一連の共振系により、
低い帯域で共振し、低域の補強をするのは普通に知られた動作ですが、
異なる長さのポートが複数あっても、容積とポートからなる共振系が、
バスレフとして機能する場合の、共振周波数は複数になるわけではなく、
シングル・ポート・バスレフと同じく、単一です。
しかし、バスレフポートは、それ自体が共鳴管としての動作により、
中域や高域において、余計な付帯音を発生させることで、
再生音に、特定のカラーレーションを加えてしまうという弊害があるのです。
この問題については、こちらのページ
を参照してください。
筒を吹いてみれば分かりますが、一定の周波数で「ポーポー」鳴りますよね。
楽器のパンフルートみたいなものです。
それと同じ現象で、バスレフポートも、それ自体が単独で、共鳴管としても機能するため、
それが固有に持つ共鳴周波数に近い振動を与えられた場合に、
一定の共鳴周波数で鳴るわけです。
ただし、バスレフポートの場合は、
エンクロージャーの容積の空気バネが、ハイカットフィルターとして機能するので、
パンフルートのように大きな音では鳴るわけではありません。
しかし、原理的には、ポートが発生する共鳴音を減らすことができれば、
再生音に混入する、ポートからの付帯音が減少するため、
よりカラーレーションが少なく、よりソースに忠実な再生音を期待することができるのです。
つまり、このデュアルポート・バスレフの基本的な考えかたは、
長さの違う2本のポートによって、ポート自体が共鳴管として共鳴する周波数を分散し、
特定の周波数での強い共鳴音の発生を抑えることで、
付帯音が少なく、癖の無い中・高音を実現しようというものです。
バスレフポートが共鳴管として発生する付帯音の大きさは、
ポートの長さが一定の場合、ポートの断面積に比例するので、
より大きな断面積を持つポートを採用した場合は、
ポートが発生する共鳴音による問題も、より大きくなります。
そして、DPBR
は、このような場合に、特に効果的だと考えられます。
ポートが共鳴管として機能する場合の共鳴周波数は、
ポートの長さに開口補正を加味した値に比例するので、
2つのポートの長さの比率を変えることにより、
ポートの共鳴周波数も分散することが出来ると考えられます。
それぞれのポートの共鳴周波数を、できるだけ分散するために、
2つのポートの長さの比率は、公倍数の少なくなる比率が良いと考えられます。
今回は、短い方のポートの長さを1とした場合に、
長い方のポートの長さが1.3となる様に設定しました。
この場合、最低共鳴周波数を f とした場合、
それぞれのポートが共鳴する周波数は、
1f , 1.3f , 2f,
2.6f , 3f , 3.9f , 4f , 5f , 5.2f , 6f , 6.5f , 7f , 7.8f
・・・
のようになります。
片側が閉じた共鳴管の場合は、fの奇数倍で共鳴しますが、
両端の開いた共鳴管の場合は、fの整数倍共鳴します。
そして、ポートが共鳴管として機能する場合の、ポートの実効長は、
ポートの長さに開口補正を加味した値になります。
計算では大体、3.9f と 4f
で、共鳴周波数が近くなりますが、
周波数が高くなるほど、ポートの共鳴音の音圧も低下するので、
人の聴覚では、この辺りの周波数の共鳴音を感知することはきないはずです。
そして、1本辺りのポートが発生する付帯音を減らすためには、
当然、1本あたりのポートの断面積も、ポートの本数に応じて、減らす必要があります。
例えば、DPBRのように、ポートが2本ある場合は、1本辺りのポートの断面積は、
シングルポートの断面積に比べると、半分になります。
しかし、このLaulu-D10のように、細いポートの場合は、
付帯音自体が小さい筈なので、デュアルポートにしても、
実際に耳で聴いて効果が分かるかどうか怪しい感じですが、
原理的には、この方式により、ポートの発する付帯音自体は少なくなるはずなので、
普通のシングルポート・バスレフよりは、中域・高域のクオリティーは向上すると考えられます。
Laulu-D10が、細いポートを採用しているのは、
ポートが共鳴管として発する共鳴音を小さくすること以外に、
エンクロージャー内の響きが漏れにくくなるため、再生音に与える濁りが少なくなることや、
容積+ポートの共振系がバスレフ動作をする場合に、
太いポートに比べて、fd以下の帯域でもグリップするなど、
バスレフ共振する帯域が広くなることで、よりワイドレンジな周波数特性が期待できること、
負荷がかかる帯域が広くなる反面、
その帯域内では、特定の周波数での共振強度が弱くなることによって、
バスレフ的な質感や強調感の少ない、自然な音色が得られること、
また、バスレフ共振による負荷がかからない低域において、
気流抵抗を高め、コーンの振幅を抑えることにより、
ドップラー歪の減少が期待できることなどが、理由として挙げられます。
Laulu-D10の基本的な構造は、裏板と底板に傾斜をつけることで、
定在波の発生を抑制する構造となっており、8cmフルレンジ用の
Laulu-08II と共通です。
Laulu-08IIについては、こちら を参照してください。
しかし、Laulu-D10は、10cmフルレンジ用のエンクロージャーなので、
サイズ的には、もちろん、一回り大きくなっていますし、
使用しているMDFの板厚も、Laulu-08II
の 9mm に対して、
Laulu-D10 では 12mm と、3mm厚くなっています。
定在波の発生を抑制するこの構造は、特定の周波数での強調感などが少なくなり、
モニターとしても使える、フラットな周波数特性を実現できるものですが、
Laulu-D10では、さらに、DPBR
構造を採用し、
中域・高域におけるカラーレーションを少なくすることで、
よりソースに忠実で、高品位な音質を実現することを意図しています。