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Project Laulu-E08

EXバスレフ Laulu-E08 の開発コンセプトなど
2012-04-10

今回開発する Laulu-E08 は、
従来のダブルバスレフが持つ様々な欠点を、
根本的に解消するために考案した EXバスレフ・エンクロージャーです。
右の画像が、そのラフスケッチです。

このEXバスレフ・エンクロージャーの詳細について
興味のある方は、オーディオコラムの
No.9No.14 をご覧ください。

この2つのコラムを読んだ方の中には、
と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に以前 作ったEXバスレフの試作機では、
ダブルバスレフ程のローエンドの厚みはありませんが、
ダブルバスレフでは発生するディップが発生せず、
ダブルバスレフより低域がソリッドで開放感があり、
ローエンドを無理に伸ばしたシングルバスレフのような
ミッドローの薄さが無く、ミッドローに自然な厚みと表情の豊かさがあり、
かつ、シングルバスレフのようにFd以下で低音がバッサリ無くなることもなく、
だら下がりに伸びる自然な低域特性で、最初のもくろみ通り、なかなか良好な結果が得られました。

ただ惜しむらくは、第1空気室と第2空気室を仕切る板を
最初に接着してしまったので、第1空気室と第2空気室との比率を変えると
どのように音が変化するのかを、確かめることができませんでした。

今回は、その様な反省点も踏まえて、
EXバスレフの最適な条件を探っていこうと考えています。

デザインは、シングルバスレフの Laulu-08 とほぼ同じで、
サイズは、それより一回り大きいものを予定しています。

そして、今回開発する Laulu-E08 の目標とする音は、

  • 低域でディップが発生しないか、無視できるほど小さい。
  • ダブルバスレフに比べて、低音がソリッドで開放的で解像度が高い。
  • ミッドローに厚みがあり、音域のバランスが良く、音楽性が高い。
  • シングルバスレフに比べて、だら下がりにローエンドが伸びている。
といった感じです。

ちなみに、"Laulu"というのは、フィンランド語の「歌」という意味の言葉で、
人の声を、自然にリアルに再生したいという思いから命名しています。


Laulu-E08 の構造や周波数特性など
2012-06-15

上の画像は、完成した Laulu-E08 です。
デザイン的には、バスレフと言うこともあり、端正な感じにまとまっているのではないでしょうか。
サイズも、ドライバーに比して大きすぎず、こじんまりした手ごろな感じです。

そして、上の画像が内部の様子です。
定在波を減らすために、第1空気室と第2空気室を隔てる板を傾斜させています。

第1空気室と第2空気室の容積の比率は、一般的なダブルバスレフと同じように、
第2空気室容積 > 第1空気室容積 、となっています。

最初は、第2空気室の容積が小さいほうが、第1ダクトから先の共振系が、
振動板前面と逆の位相で共振する周波数での、共振エネルギーが小さくなって良いのでは?
と考えていましたが、実験と試聴を繰り返したところ、
第1空気室が小さいほうが、f0c が適度に上昇するためか、ミッドローがより厚くなり、
周波数特性的にも、よりフラットに近づき、
音色的にも、ソリッドかつアコースティックな質感で、より好ましい感じでした。

第3ダクトは、背面に開口しています。
前面には、第3ダクトを設置するスペースが無い、
と言うこともありますが、第3ダクトを背面に設けることで
第3ダクトから漏れる中・高音が、ドライバーの音に
濁りや歪などの悪影響を与えることを、
避けたいという意図もあります。

前面に開口している第2ダクトから漏れる中・高音は、
第2空気室がアコースティック・ハイカットフィルターとして
働き、ここで十分に減衰させることができるので、
ドライバーの音に悪影響を与えることは無いはずです。

第1空気室と第2空気室を繋ぐ第1ダクトには、
密度の低いポリエステルの吸音材を少量、軽く充填しています。
第1ダクトをダンプして、この部分での共振を少なくすることで、
第1ダクトと第2ダクトが逆相で共振する周波数において、
逆位相での共振エネルギーを減らせるのではないかと考えたのです。
この予想が正しかったかどうかは不明ですが、
低域の周波数特性ががよりフラットになり、結果的には良かったようです。

第1空気室と第2空気室との比率や、各ダクトの長さなどの条件は、
虱潰し式に、実験と試聴を繰り返して決めたものなので、
ベストではなくても、最適な条件から、それほど遠くないと思います。

本当は、それぞれの条件における、周波数特性の一覧なども作りたかったのですが、
実験の途中から、データが多くなりすぎて、保存をするのが面倒になってしまったので、
完璧なデータがそろわず、今回は見送ることにしました。
いつか、気力の充実しているときに作るかもしれません。

下のグラフは Laulu-E08 の軸上1mの周波数特性です。
測定に使用したフルレンジドライバーは、TangBand W3-582SC です。

140Hzに小さいディップが生じていますが、
概ねフラットで、ほぼ狙い通りの特性が得られています。

この140Hzのディップですが、大体このあたりで、鳴り出すダクトが切り替わっていて、
140Hzより高い周波数では第3ダクトが鳴っており、
音色的には、シングルバスレフの比較的ソリッドな質感です。
そして、140Hzより低い周波数では第2ダクトが鳴っており、
音色的には、ダブルバスレフのソフトな質感になっています。

140Hzは少し薄いですが、しっかりとした出力があるので、
聴感的には、ディップがあるという感じではなく、140Hzの上と下で、
ダクトの出力により音圧が上がっているので、グラフでは見かけ上、
140Hzにディップが生じているように見えるという感じです。

ローエンドはダラ下がりに伸びて、驚くことに、40Hz辺りからレスポンスがあります。
55Hz辺りからは実用的な出力があり、
このサイズのエンクロージャーとしては、かなり優秀だと思います。

8cmのフルレンジドライバーで、ここまでローエンドを伸ばすと、
シングルバスレフでは、ミッドローが痩せて、厚みの無い貧相な音になりますが、
EXバスレフのLaulu-E08は、ミッドローに十分な厚みがあり、
わずか8cmのフルレンジドライバーだとは感じさせないリッチな音です。

普通、8cmフルレンジドライバーは、女性ボーカルは良くても、
振動板面積の不足から、男性ボーカルが薄くリアリティーの無い音になりがちですが、
このエンクロージャーでは、第3ダクトの効果で、
男性ボーカルに、自然でリアルな厚みが加わっています。

そして、低域の質感も、周波数が低くなると、
徐々にダブルバスレフのような柔らかい質感になり、解像度も低下しますが、
ダクトが鳴り始めるミッドローの質感が、ダブルバスレフに比べてソリッドなので、
ドライバーの音とのつながりが良く、ドライバーとエンクロージャーの
音色の乖離から来る違和感が、少ないようです。

Laulu-E08は、8cmフルレンジシステムとしては、周波数特性も完璧に近く、
音色的にも、ドライバーの音とダクトの音がスムーズにつながり、
ダブルバスレフで感じるような、音色的な乖離の問題を感じませんし、
このエンクロージャーは、かなり完成度と音楽性の高い作品に
仕上がったのではないかと思います。

しかし、バスレフエ型ンクロージャーとしては良く出来ていると思いますが、
例えば、和太鼓などの激しい打撃音や、ダイナミックレンジの広いソースは、
バックロードホーンと聴き比べると、別の録音ではないのかと感じるほど聴感上の違いがあり、
バスレフのみだと、不満を感じるジャンルがあるのは確かで、やはりスピーカーは、
周波数特性だけでは分からない重要な要素があると感じます。

とは言っても、深夜にしんみりと音楽を聴きたいときなどは、
できれば、激しい打撃音などで神経を刺激したくはありませんから、
バスレフの穏やかな音のほうが好ましく、音楽を聴く道具としては、

  • オールマイティー系
    (どんな分野もそつなくこなすもの、周波数特性重視、音色重視)
  • リアル系
    (生の音に近いもの、ダイナミックレンジ重視、解像度重視)
の最低2系統のスピーカーは必要かなと思います。

Last Updated 2012-06-15



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