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Project Monolith-E Series

Monolith-E Series の開発コンセプトなど
2017-06-26

Monolith-E シリーズは、
私が長年研究してきた Back Loaded Horn (BLH) システムの集大成とも言える作品として、
そして、究極の小口径フルレンジ1発のシステム を目指して、開発したものです。

ちなみに、"Monolith" という名前は、
SF映画の名作、『2001年宇宙の旅』 に出てくる Monolith (モノリス)と同じものです。
ルックス的に、映画の モノリス に似ているという理由もありますが、
この映画の中で、モノリス が猿を人類へと進化させるような場面があることにあやかり、
スピーカーの Monolith も、BLH という方式のスピーカーを進化させるもの、
BLH が持つ音質的限界を、ブレイク・スルーするものになれば、
という希望のもとに、命名したものでもあります。

まず、Monolith-E シリーズは、
今まで開発した Monolith がそうであったように、
基本的には "Dual BLH " という構造を持っています。
Dual BLH とは、従来の シングル BLH が持つ
原理的な欠点を解消し、さらに、
BLH が持つ音質的限界をブレーク・スルーすべく、
私の開発した、新しい方式の BLH です。

Dual BLH について簡単に説明すると、
1つのエンクロージャー内に2本のホーンを設けて、
この2本のホーンの 長さや体積などを、適切な比率に設定することにより、
片方のホーンで生じる周波数特性上の ピーク や ディップ を、
もう片方のホーンで生じる周波数特性上の ピーク や ディップ によって相殺することで、
よりフラットな周波数特性と、より自然な音色を実現する方式です。

今までに、世界初の Dual BLH 、Korkea-08( Korkea ) を初めとして、
Monolith-08 , Monolith-10 ,Monolith-08A , Uzu-D08 , Korkea-SC08 など、
何種類かの Dual BLH エンクロージャーを開発してきましたが、
Dual BLH は、従来のBLH に比べると、
よりフラットな周波数特性と、より癖の少ない音色を実現しており、
従来の BLH とっては 比較的困難だった、モニターとしての使用に耐えうる正確性と、
BLH が持つ豊かな音楽性の両立を可能にする方式だと感じています。

そして、今回の Monolith-E シリーズ を開発するにあたり、
Dual BLH の性能と音質を、さらに、ブラッシュ・アップ し、
スピーカー・システムとしての 完成度を高めるべく、
"Extended BLH " という方式を、私は新しく考案しました。

Extended BLH は、ホーンの最後の音道の進行方向に対して、
ホーンの開口部を、90度折り曲げた方向に開口させることにより、
スロート から 開口部 までの距離に違いを設けると共に、
開口部の形状により、スロートから開口部までの距離に応じて、
開口部における気流抵抗値に違いを設けることによって、
ホーンによって再生できる周波数帯域を拡大(Extend)し、さらには、
ホーンによって生じる周波数特性上のピークを低くできることから、
ホーン自体の再生機器としての性能を、
向上させることができる方式であると考えられます。

BLH を音響迷路として考えてみると、
一般的によく見られる、ホーンの進行方向と開口部の方向が同じ BLH の場合、
振動版前面とホーンの出力の位相が完全に同相になる周波数は、
ホーンの長さを L としたとき、340/(2L) Hz の1点のみということになります。

それに対して、Extended BLH の場合は、
スロートに最も近い開口部までの長さを L1 とし、
スロートから最も遠い開口部までの長さをL2 としたとき、
振動版前面と同相で出力できる、ホーンの周波数帯域は、
340/(2L1) Hz  から  340/(2L2) Hz までの範囲となり、
普通の BLH に比べると、ホーンの再生帯域が広くなります。

もちろん、単なる方形の開口部であれば、
最もスロートに近い部分から、ほとんどの音圧が開放されてしまい、
ホーンによって再生できる周波数帯域も広くはならないので、
スロートに近くなるにしたがって、
開口部がすぼまる形状にすることにより、
スロートからの距離に応じて、
開口部における気流抵抗値をコントロールする必要があります。

そして、ホーンの持つエネルギーは、体積に比例することから、
体積が一定の場合、ホーンの再生帯域が狭いとピークが高くなり、
再生帯域が広いとピークが低くなるという、一般的な傾向があります。
それゆえに、再生帯域が広くなる Extended BLH は、
ホーンによって生じるピークがより低くなり、結果的に、
よりフラットな周波数特性が得られることになります。
音色的にも、ホーンによって生じるピークが小さくなるにしたがって、
メガホン的な音色も影を潜めることから、
Extended BLH では、より自然な音色も得られることになります。

また、人間の聴覚の特性上、
周波数特性上の特定の部分に高いピークがあると、
そのピーク以外の部分が聴こえにくくなるという、
「マスキング効果」 という現象が生じてしまいますが、
ホーンによって生じるピークを低くする工夫を、それぞれのホーンに施すことで、
そのマスキング効果を抑制して、聴感的にも、
より情報量が多く、より解像度の高い BLH システムが、可能になります。

Extended BLH は、音道と開口部が
一定の条件のもとにある場合にのみ可能になりますが、
Monolith タイプの Dual BLH では、
2つのホーンとも、たまたま この条件に当てはまるので、
今回、この仕組みを取り入れてみることにしました。
結果的に、Monolith-E シリーズで採用する方式は、
Dual BLH としても、新しい方式となるため、とりあえず、
"Extended Dual BLH " と命名することにいたします。


Monolith-E Series の構造など
2017-07-01

私の作る BLH エンクロージャーは、広い フロント・バッフル を備えたものが多いのは、
BLH という方式は、どちらかと言うと、
小口径ドライバー向けのものだと考えられるのが、理由の一つです。
というのは、小口径フルレンジ・ドライバーは、振動版面積の小ささから、
波長の長い音波(低周波音)の再生が難しく、
周波数特性的にハイ上がりになりやすく、冷たく人工的な音色になりがちですが、
広い フロント・バッフル を採用することで、振動版前面において負荷が掛かりやすくなり、
より長い波長(低い音)の音を再生できるようになることから、
ハイ上がりで冷たく人工的にな音色になりがちな小口径ドライバーの音に、
自然さや温かみを与えることができるのです。

しかし、一般的に、広い フロント・バッフル は、
比較的 強度が低く振動しやすいことから、
音像が滲みやすいという欠点があります。
Monolith-E シリーズ も、非常に広い フロント・バッフル を備えていますが、
ホーンの音道の部材が、フロント・バッフル に対して補強材として働き、
フロント・バッフル が非常に強靭で振動しにくいことから、
大きな フロント・バッフル の持つ欠点が生じにくい構造となっています。

下が、Monolith-E シリーズの内部構造です。

Monoloth-E シリーズは、2本のホーンを備えた Dual BLH ですが、
基本的に2重 スパイラル・ホーン 構造を採用し、
原理的に歪が多くなると考えられる180度の折り返しが、
ショート・ホーン側で1箇所、ロング・ホーン側で2箇所と、
極力 少なくなる音道構成としています。
というのは、180度の折り返しは、
90度の折り返しが、2つ繋がったものだと考えられるため、
180度の折り返し部分で発生する音の歪みは、
90度の折り返しで発生する歪みの2倍になると考えられるからです。

そして、180度の折り返し部分には清流板を配置して、
極力、スムーズで歪みの少ない音波の折り返しを心がけています。
90度の折り返し部分にも、清流板を設置すれば
さらにスムーズなホーン形状になりそうですが、
スロートに近い部分でホーン形状を滑らかにしすぎると、
ホーン内で高音が減衰しにくくなり、
高い周波数でも ホーン・ロード(ホーン負荷) が掛かりやすくなることから、
比較的 癖の多い音色になりがちなのです。
この辺りは、楽器と再生機器では、求められる特性に違いがあり、
BLH のホーンは、構造的に、ある程度 高域を減衰させる、
ハイ・カット・フィルター の機能が必要だと考えられます。

2つのホーンの出口である開口部は、エンクロージャーの対角、
エンクロージャー内の最も遠い位置に、配置されています。
2つの開口部を、できるだけ遠い位置に配置することによって、
片方の開口部から出力される音が、
もう片方の開口部から出力される、位相の違う音により相殺される量を、
極力 減らすことができることから、
お互いのホーンの再生効率を高めることができます。
これによって、ホーンの再生効率の上昇が可能となり、
より高能率なドライバーの採用も可能となります。

ショート・ホーン は上面に開口し、ロング・ホーン は側面に開口しています。
それぞれのホーンの開口部が、ドライバーから最も遠い位置にあることから、
音像が膨らむのではないかと想像されますが、実際の試聴においては、
低音には方向性が無い(人間の耳には低音の方向性を感知できない)ので、
音像が膨らんだり、音の定位がずれたりするようには感じられません。

または、2つのスピーカーによる ステレオ再生 においては、
2つのスピーカーの間に音源があると感じられるのと同じ様に、
Dual BLH でも、2つのホーンの開口部が離れていている場合、
2つのホーンの開口部の中間に、音源があると感じられるのだとすれば、
2つのホーンからの出力は、結果的に、ドライバーの位置に近い部分に、
聴感上は、音源がある様に感じられるのかもしれません。

BLH スピーカに求めるものが何であるかによって、
最適な開口部の向きも、当然 違ってきます。
例えば、一般的なBLHのように、開口部が正面であれば、再生音の能率は最大となりますが、
ホーンからの出力とドライバーの出力の時間差が少なくなるため、
ホーンからの出力を、脳がドライバーからの直接音の滲みとして認識しやすくなり、
聴感上の音質低下をもたらします。

しかし、ホーンの開口部が前面に向いていない場合、
ホーンから出力される音のうち、周波数の高い音ほど、指向性が鋭く直進性が高くなるため、
壁と壁との間、床と天上の間で、反射を繰り返しながら減衰し、
また、より大きな時間差を伴ってリスナーの耳に届くため、
再生音の品質を下げる、直接音の滲みとしては認識されず、むしろ、
音にエレガントさと音楽性を加える「ディレイ・エフェクト」の様な間接音として認識されるのです。

つまり、ホーンから出力される中域・高域が、
ドライバーからの直接音に悪影響を及ぼさないためには、
適切に減衰し、十分な時間差を伴うことが条件になりますが、
その様な条件を満たしていれば、より音楽性を高める要素ともなりえるのです。

そして、Monolith-E08 の特徴的な開口部の向きは、
ドライバーからの直接音の品質を高めると同時に、
音楽性を増す効果を最大限にするために、
最適化されたものだと言えます。

2つのホーンの入り口である2つのスロートは、
空気室の対角、空気室内の最も遠い位置にあります。
これは、ドライバーの振動によって生じる空気振動が、
2つのスロートに均等に伝わりやすく、
なおかつ、片方のスロート付近での空気の挙動が、
もう片方のスロートに与える影響を、最も少なくできる位置でもあるため、
2つのホーンの独立性を、最も高くできる構造です。

また、振動版背面に生じる音波のエネルギーが、
エンクロージャーを振動させるエネルギーに変換されることにより、
失われることを極力 抑制するために、
空気室やスロート部分は、補強を施すことによって強度を高めています。
これは、ホーンの再生効率を高めると共に、
ホーンから出力される音の純度を高めることを、意図しています。

ホーンの再生音の癖の少なさや、それぞれのホーンの独立性の高さに応じて、
空気室の容積を小さくすることができますが、
これによって、ホーンのトランジェント特性の改善と共に、
軟らかくなりがちな、ホーンの音色の改善にも寄与することができます。

この空気質の構造も、2本のホーンの音道の構成も、
実は、Monolith の基本的なアイデアを思いついたときの最初のもので、
私としては、理想的な設計だと考えていますが、
Monolith-E 以前の Monolith では、設計的に なかなか上手くまとまらず、
Monolith-E シリーズ において、Extended BLH の構造を取り入れることによって、
やっと実現することができました。

以上のことから、Monolith-E シリーズのエンクロージャーは、
BLH としては、従来のものとは一線を画すものであり、
設計的にも構造的にも、非常に洗練された理想的なものだと思われますし、
小口径フルレンジ・ドライバーの性能と魅力を、
限界まで引き出す、優れた構造を備えたものではないかと、
自画自賛ではありますが、私は考えています。

2018-11-24 追記:
実は、のっぴきならない事情により、Dual BLH の開発から離れている間に、
Dual BLH の設計における、ある仮説が沸きあがってきました。
そして、この仮説を実証するために、実験と検証を繰り返した結果、
この仮説の正しさを確認することができました。

今回、新たに発見した知見は、Dual BLH の設計において、
非常に重要な最後のピースと言えるものであり、これにより、経験と勘に頼らずに、
Dual BLH の設計に必要な全てのファクターを、計算によって数値化できるようになったことから、
私独自の、Dual BLH の設計方法が、完成したと言ってよいかもしれません。

というわけで、以下の測定や試聴の感想なども、
マイナー・チェンジ後のバージョンで行われたものだということを、
おことわりしておきます。


Monolith-E08 の周波数特性や試聴感想など
2018-12-01

上が完成した Monolith-E08 です。
一見したところ、薄型であるため、細長い「平面バッフル」のようにも見えますが、
内部は、非常に複雑な構造を持つ Extended Dual BLH エンクロージャーです。

フロント・バッフルの幅と高さの比率は、ほぼ「第2黄金比」になっており、
シンプルかつ端正なルックスだと思います。
ドライバーの位置も良く、バランス的な違和感を感じません。
ちなみに、ドライバーは 撮影のために、
ルックスの良い Tang Band W3-1318SA を使用しています。
BLHエンクロージャーは内部に複雑な構造を持つことから、
ルックス的に上手くまとめるのが難しいのですが、
Monolith-E08 は、BLH のエンクロージャーとしては、一つの完成形だと言える様な、
高度に洗練された、非常に完成度の高いデザインだと、
僭越ながら、私は感じています。

開口部は、Extended BLH 独特の形状をしていますが、
この開口部のエレガントで美しい形状も、
Monolith-E08 のルックス的な魅力の一つに数えられると思います。

8cm フルレンジ・ドライバー用のエンクロージャーとしては、
フロント・バッフルの面積が大きいこともあり、かなり大きなサイズに見えますが、
占有面積自体は、一般的なスピーカーと比べても、それほど大きくはなく、
長岡鉄男氏の有名な BLH 「スワン」 などに比べると、かなり小さい方です。
Monolith-E を形状的に分類すると、いわゆる トール・ボーイ と言われるタイプであり、
ドライバーも、比較的 高い位置にあることから、
スピーカー・スタンドを使わなくても使用可能なことを考えると、
スピーカー・スタンド を使った場合の ブックシェルフ・スピーカー などよりも、
実質的な占有面積は、むしろ小さい方かもしれません。

下が、Monolith-E08 の軸上 1m の周波数特性です。(クリックして拡大できます)
なお、今回は、周波数特性の細部がよく判るように、
グラフの縦軸のスケールを -80dB までとしています。
Monilith-E08 は汎用エンクロージャーであり、
取り付け可能ならば、様々なドライバーが使用できますが、
今回は、比較的高能率で BLH に好適な Tang Band W3-815SJF を使用しました。
測定に使用した DAC は Topping の D1、 アンプ は FX-AUDIO の FX-98E です。

周波数特性が暴れやすい BLH としては、
ピークもディップもよく抑えられた非常に平坦な周波数特性を実現しており、
一見したところ、BLH の周波数特性に見えません。

BLH は元々、能率の高さを追求したシステムであり、
高能率なシステムほど、ロー・エンドを伸ばすのが難しくなりますが、
Monolith-E08 は、比較的高能率な
8cmフルレンジ・ドライバー1発の BLH システムであるにもかかわらず、
非常に広大な周波数レンジを実現しています。

低域は、50Hz 当りまではフラットさを保ち、
そこから 10dB 落ちるのが 35Hz 辺りです。
ロー・エンドは 30Hz 辺りと、サブ・ウーファーの帯域まで伸びており、
普通の使い方であれば、サブ・ウーファーの追加を必要としないはずです。

小口径システムとしては、非常に広大な周波数レンジを持っているため、
ついつい調子に乗って大音量再生をしたくなりますが、
8cmドライバーは もちろん、振動版面積も小さく、振動系に許容される振幅も小さいので、
ドライバーを壊さない様に、音量には注意が必要です。
とは言っても、過大な要求をしなければ、実用上は、十分な音量が得られるはずです。

実際の試聴では、全体として、小口径フルレンジ・ドライバー1発のシステムとは思えない、
大きなスケールを感しさせる、朗々とした鳴りっぷりです。
そして、ドライバーとエンクロージャーが一体化して聴こえる様は 非常に心地よく、
これが、自分の求めていたスピーカー・システムのあり方だと感じさせます。

高能率タイプの小口径フルレンジ・ドライバーででワイド・レンジを実現した場合、
周波数特性上の凸凹が多く、音色的にも、密度感のない薄い音色になりがちですが、
Monolith-E08 は、能率の高さと周波数特性の平坦さとワイド・レンジ、
及び、音色的密度感など、両立困難なものを上手く両立できていると思います。

また、一般的に、小口径フルレンジ・システムは、クラシック音楽の再生には向きませんが、
実際に試聴した印象としては、Monolith-E08 の平坦な周波数的特性や、
重厚で密度感のある音色は、クラシック音楽との相性も良いようです。
そして、この様な鳴り方を実現させるためには、
広い帯域で癖の無い鳴り方をするエンクロージャーが必要になりますが、
多くのソースを試聴した印象からは、Extended Dual BLH の成功を感じ取ることができます。

それぞれの帯域について、少し詳しく見ていくと、
中域は、鮮明かつナチュラルで、音色的な癖が殆ど感じられません。
小口径ドライバーらしい人工的な線の細さを感じさせない、豊かな再生音で、
小口径ドライバーを使用したシステムが一般的に持っているデメリットは、特に感じられません。
これは、広いフロント・バッフルによって、
ドライバーの振動版前面で、より低い周波数まで負荷を掛けられることも、
小口径ドライバーの「ハイ上がり」気味な特性を是正する上で、
功を奏しているのだと考えられます。

そして、今回設計に取り入れた Extended BLH の構造は、
原理的に、波長の長い低域より、波長の短い中域や高域で、より効果を発揮する構造、
つまり、ホーンの出力に由来して生じる、周波数特性上の凸凹を小さくする効果が、
周波数が高くなる程、大きくなる構造であることから、
音楽の情報として、最も重要である中域のクオリティーを高める上で、
むしろ重要な技術ではないかと、実際の試聴を通して感じています。

高域は、空気室の容積が小さすぎるというような、設計上の問題がなければ、
その殆どが、ドライバーの性能に依存する部分ですが、
癖は特に感じられず、問題はありません。

中低域(ミッドロー)は、BLHシステムらしい張りと厚みとエネルギー感があります。
チェロの演奏などは、弦ごとの音色の違いや、
弓が弦を引っかくゴリゴリした硬い音と、銅鳴りの豊かな音の質感の違いも、
リアル描き分ける、解像度と表現力の高さを有しています。

低域は、反応がよく、ダンピングも良いようです。
Dual BLH は、幅広い帯域にホーン負荷を掛けることができるので、
特定の帯域における強調感の無い、自然な低域ですが、
低域全体に、8cmドライバーとは思えない、力感が漲っており、
構造的にドライバーの背圧が少なくなる ホーン・システム らしい爆発力や躍動感と共に、
ダイナミック・レンジの広さも感じさせます。
そして、ほぼホーンのみによって再生する帯域でも、フワフワした柔らかい低音ではなく、
エネルギー感と緊張感を感じさせる、ゴツゴツとした硬さと弾力感のある低音です。
低域の表現力においても、低域楽器の演奏における音階の僅かな違いや、
微妙なニュアンスの違い、質感の違いも、正確に表現します。

一般的に、小口径システムで低域を欲張ったシステムでは、
大量の空気を、非力なモーターと小さい振動板で駆動しなけらばならないことから、
低域においては、過渡特性が悪く、解像度や表現力が乏しくなりがちですが、
Monolith-E08 の低域は、容積の大きさに由来する豊かさ、及び、
設計に由来する高い解像度と、正確な表現力を兼ね備えていると感じます。

BLH では、ドライバーが駆動する空気量が大幅に増加することから、
小口径フルレンジ・ドライバーでは乏しくなりがちなスケール感の改善も顕著で、
バスレフなどではミニチュアだった低音楽器も、
聴感上、より大きなスケールで再現されていると感じます。
そして、リアルなスケール感の再現は、音の生々しさを表現する上で、
非常に重要な要素だということも再認識しました。

また、開口部の方向によって生じる音の指向性を加味して考えると、
Monolith-E08 の場合は、それぞれの開口部から出力される低音が、
別の開口部からの逆相の音によって相殺される量が最小となることから、
Monolith-E08 の開口部の位置と方向は、低音楽器に大きなスケール感を与える上でも、
最も合理的かつ有利なものであると考えられます。

スピーカーにおいて、最も重要な要素だと言える ボーカル の再生も優秀です。
女性ボーカルの再生を得意とする8cmフルレンジ・ドライバーとしては、
小口径的なハイ上がりで機械的な冷たさはなく、血の通った自然な温かさがあり、
目の前で歌っているような実在感と臨場感があります。
8cmドライバーでは細くなりがちな男性ボーカルも、
適度な厚みと、リアルな肉声感があります。

Monolith-E08 のボーカルの音色的な自然さは、
私が 今まで開発したBLHシステムの中では、随一のものだと感じます。
音楽におけるのボーカルも自然ですし、映画におけるボーカルも自然ですが、
ホーン・システム独特の、倍音が増すような、艶やかな音色的な魅力が加わることから、
やはり、音楽鑑賞においては、特に魅力的に聞こえます。

そして、再生音にエレガントさを加えることができる Dual BLH の構造は、
どちらかと言えば、素朴な音色を持つ、小口径フルレンジ・ドライバーを、
音色的に補完するものであるとも、言えると思います。

今回、Dual BLH の構造に Extended BLH の構造を組み合わせたことから、
特性的、音色的に癖の少ないシステムになることを見越して、
空気室の容量をやや少なめに設定し、少し強めにホーンが掛かるようにしました。
しかし、ホーンが強く掛かる設計は、音色的な癖を増すことにも繋がり、
特に、ボーカル帯域では、聴感上、その傾向が顕著ですが、
Monolith-E08 の癖の少ない素直なボーカル再生は、
Extended Dual BLH の優位性を物語るものだと、
言ってよいものかもしれません。

そして、ホーンを強めにかけても癖が生じにくい構造は、
音の厚みや低域の力強さという、
小口径フルレンジ・ドライバーが苦手とする要素を補完する上でも、
非常に有用な特徴であることは言うまでもありません。

また、Monolith-E08 の開口部の方向も、
再生音、特にボーカル帯域の品質を高める上で、寄与しているはずです。
というのは、ホーンから出力される音のうち、特に指向性の鋭い、波長の短い音、
つまり周波数の高い音ほど、リスナーの耳に届くまでに、減衰しやすくなり、
ドライバーからの直接音に与える影響を少なくできるという性質があるため、
ボーカル帯域の品質を高める上で、有利に働いているのだとも考えられるからです。

ボーカル帯域は、ミッド・ロー から ミッド・ハイ までの広い範囲に渡りますが、
この範囲は ホーンからの出力音に比較的影響を受けやすい範囲でもあるため、
BLH システムは、一般的に、自然なボーカル再生が比較的難しくなり、
映画鑑賞用のスピーカー・システムとしては、少し使いにくいところがあるのです。

と言うのは、音楽再生用のスピーカーであれば、スピーカーの音響的な癖であるものが、
ソースの録音現場の音響的な癖であるとか、音楽表現の一つであるとか解釈されて、
心理的に許容されるのですが、
映画であれば、様々な俳優が、様々な環境で発する、あらゆる台詞が、
ごく自然に聴こえることが要求され、
しかも、人間の聴覚は、ボーカル帯域において非常に敏感であることから、
映画鑑賞用のスピーカーには、ボーカル帯域において、音楽鑑賞用のスピーカーよりも、
一般的な先入観に反し、さらに高い品質が要求されるのです。
これは、BLH 設計者として著名であり、私自身も敬愛する長岡鉄男氏が、
ご自身が設計した数多くのBLHシステムを、
映画鑑賞用のシステムとしては使用していなかったという事実からも、
ある程度は推測できるかと思います。

例えば、バスレフなどのシステムであれば、
エンクロージャーから出力される周波数帯域が狭く、ほぼ低域に限定され、
ボーカル帯域では、ドライバーの振動版前面からの出力が主な音源となることから、
ボーカル帯域でのクオリティーを維持しやすいのですが、
BLH システムでは、ホーンからの出力が比較的 広い帯域に渡り、中域にも及ぶため、
ボーカル帯域でも、周波数特性上に凸凹が生じやすく、
ボーカル再生において癖が生じやすいのです。

しかし、音楽に含まれる情報も、映画の音声情報も、
人間の聴覚的な特性上、中域が特に重要であることから、
スピーカーの再生能力も、当然、中域の品質が重要になるのですが、
BLH というシステムは、能率の高さを得るために、
周波数特性の平坦さや再生音の品質を、ある程 度犠牲にした面があるのです。

もちろん、BLH には、 音の生々しさや開放感など、BLH でしか得られないメリットがあり、
私を含む BLH ファンは、BLH によって得られるメリットを重視しているのですが、
大出力アンプが簡単に実現できる現代においては、むやみに高能率であることよりも、
人間の聴覚の特性に合わせた音作りというものが、実用的なスピーカーを設計する上で、
より重要なことではないかと、私は感じています。

この Monolith-E08 は、Dual BLH という基本的構造を持つことから、
一般的な Single BLH よりも、ホーンによって再生する帯域が、
さらに広くなっているにもかかわらず、その再生音、特にボーカルの帯域は、
シングル BLH よりも、さらに癖が少なく、より自然になっており、
これまでのDual BLH と同様に、実用的なスピーカーとてして、
Dual BLH の基本的な優位性を感じ取ることができます。

そして、今回の目玉として取り入れた、Extended BLH の構造ですが、
ホーンからの出力に、特定の帯域におけるピークが感じられず、
とても素直な特性と音色を持っていると感じます。
また、この構造は、ホーンがホーンとして動作する場合だけではなく、
ホーンが共鳴管的な動作をする場合においても、ピークがより低く平坦になり、
結果的に、音色的な癖の少なさに寄与することが考えられます。
そして、実際に試聴した限りでは、非常に満足のいく結果が得られ、
Extended BLH は、成功したと言ってよいと思います。

Monolith-E08 は、Extended Dual BLH という新しいBLH の技術によって、
音楽鑑賞用のシステムとしてはもちろん、
ボーカル帯域の品質と自然さが高度に要求される、
映画鑑賞用のシステムとしても、問題がありません。
このような点から見ても、Extende Dual BLH という構造を持つ Monolith-E08 は、
BLH というシステムが原理的・宿命的に持つ限界点を ブレーク・スルー したという点で、
ある意味、画期的とも言える作品ではないかと、私は感じています。

そして、Monolith-E08 は、
8cmフルレンジ・ドライバーの持つ能力を限界まで引き出すことができるシステムであり、
8cmフルレンジ・ドライバーの持つ長所を生かしながら、
欠点を補完することができるシステムでもあります。
また、BLH としては格段に癖の少ないシステムであることから、
様々な 8cmフルレンジ・ドライバーを付け替えて、
好みの音色で音楽を楽しむための「プラットフォーム」となりえる作品だと感じています。

もともと、Dual BLH は、BLH の欠点である、凸凹の多い周波数特性や、
それに起因する音色的な癖の多さを改善し、
周波数特性の平坦さや音色的な癖の少なさをねらって開発を始めたものですが、
今回は、さらに新しい技術と知見を設計に取り入れることによって、
当初の目標であった、周波数特性の平坦さや音色的な癖の少なさのほかに、
周波数特性の拡大と低域の力感や質感の改善、
さらに低域のバランスの配分の改善をも実現できました。
結果的に得られた特性や再生音を考えると、
今回の Extended Dual Back Loaded Horn というシステムによって、
理想的と言える BLH システムが実現できたのではないかと思います。

最初の Dual BLH である Korkea-08 を作ってから、
Monolith タイプの Dual BLH は、5ペアほど試作し、また試作品を改造しながら、
かなりの長い期間、試行錯誤を繰り返しながら、
Dual BLH の最適な条件を暗中模索してきましたが、
今回の Monolith-E08 において、
設計的にもデザイン的にも高度に洗練された、妥協のないものができました。
また、実際の再生音においても、非常に満足のいく結果が得られました。
そして、BLH が持つ美点を残しつつ、BLH が原理的に持つ欠点を解消するという、
Dual BLH の開発意図は、Monolith-E08 において、
非常に高いレベルで達成されたのではないかと、私は感じています。

Monolith-E08 は、私なりに、もがきながら辿り着いた一里塚であり、
「理想の BLH を作りたい」 という、私の夢の一つが達成された作品でもあります。
そして、私のスピーカー設計の歴史、特に BLH の設計の歴史において、
単なる一つのマイルストーン的な作品としてだけではなく、
記念碑として特別な意味をもつ作品になるだろうと、
ある種の感慨に浸りながら、私は考えています。


Last Updated 2018-12-03



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