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Past Project Nuottikorva-S08

上の写真は現在開発中のFE-83En用のバックロードホーン”Nuottikorva S”です。

バックロードホーンとしては大変コンパクトで、
高さ:40cm 幅:24.6cm 奥行:13.8cm となっています。

まだ試作段階の機種ですが、音質的には大変満足のいくレベルとなっています。
このエンクロージャーは最初の試聴の時から、意外なほど癖が無く、素直な音質でした。
もちろん、エージングの効果もあるのですが、試聴とチューニングを繰り返した結果、
質と表現力の高さ、自然さを兼ね備えた音楽性の高い音質に仕上がりました。

バックロードホーンでは、低音について語られることが多いのですが、
スピーカーで最も大切なのは、やはり中音です。
中音のクオリティーが低いスピーカーは、それ以外の部分が良くても、
長く使えば使うほど、不満が募ってくるものです。
このエンクロージャーでは、標準よりも空気室をやや大き目とした結果、
中高音も詰まった感じが無く、伸びやかで繊細です。

肝心のボーカルも、自然かつリアルです。
このサイズのドライバーは、女性ボーカルが良くても、男性ボーカルが細くなるものですが、
Nuottikorva Sでは、ホーンの効きがとても自然で、男性ボーカルも細ることなく、
かといって野太くなることも無く、自然な音質で再生されています。

ホーンの設計としては、低音の量感やローエンドの伸びよりも、
低音楽器の表情や質感を描き分ける上で大切な中低域の質の高さを重視した設計です。

ホーンの折り返しには、音質と効率に優れた90°の折り曲げを多用し、
最も回転半径が大きく、音質的な影響の少ない最後のカーブのみ180°の
折り返しとすることで、音質的にも、デザイン的にも
均整の取れたスピーカーが出来たと自負しております。

ホーンの各コーナーには三角材または整流板を配置し、
コーナーでの効率の低下や、不要な反射や歪の発生を最小限に抑え、
癖の無い滑らかな音質を実現しています。

ミッドローでの表現力を高めるために、ホーン長をやや短めの設定とし、
スピード感があり解像度の優れた低音を得ています。
また、ホーンの開き率をやや大き目とすることで、
低音楽器のリアルなスケール感とエネルギー感を得ることに成功しています。

Nuottikorva S -新しい試作機

先ず、新しい試作品と前作との違いですが、前作では音道がいわゆる長岡式で、
複数本の直管から構成される擬似エクスポネンシャルホーンでしたが、
今回は斜め音道を採用し、より正確で滑らかなエクスポネンシャルホーンに近づけています。
サイズは、やや大きくなり、幅が4mm広く、高さが5mm高くなりました。

この新しい試作品を聴きき、先入観を覆されるような印象が多くあり、
まだ出来たてほやほやで、エージング未了ですが、レビューしてみたいと思います。

先ずは女性ボーカル。声量がありパワフルな声質の人より、
透明感と繊細感のある声質の人のほうがスピーカーの中・高音の癖がわかりやすいので
谷山浩子さんや手嶋葵さんの曲を聴いてみました。

前作と違い、吸音材を入れない状態でも癖を感じません。
空気室に平行面がほとんどないので、有害な停在波の発生が抑えられているようです。
中域・高域は前作より透明かつ繊細で音の切れが増しています。
アカペラに近い手嶌葵さんの曲でも、彼女の剥き出しの繊細な声が、
ありのままの声で、目の前で歌っているような現実感を持って再生されます。
子音がやや鋭くなる感がするので、吸音材を少し入れたほうがよいかもしれません。

そして、高い声のスピッツや、低い声の福山正治さんの曲や、
バッハのマタイ受難曲で男性ボーカルを聴いてみました。
今回一番驚かされたのは、意外にも男性ボーカルの良さで、
正直言って、ちょっと信じられないような心境でもあります。
通常、バックロードホーンでは、男性ボーカルが長い音道を通って再生されるので、
共鳴音やエコー感など、多少なりとも癖が付くものですが、
今回の作品では大変に自然で全く癖を感じません。

テノール、バリトン、バスの各パートにおける自然さは、
小口径バックロードホーンとしては異例で、ホーンから再生されている音という感じではなく、FE-83Enの中・高音のクオリティーを保ったまま、
振動板の面積を増やして大口径化し、低音を伸ばしたような音です。
前作では、女性ボーカルに比べて、男性ボーカルがやや緩く解像度が劣っていましたが、
新作では、全てのボーカル帯域において、
音色や解像度、スピード感が統一されており、違和感がありません。

私は、ボーカルの自然さを聴くときには、16cmフルレンジ・ドライバー(ロクハン)の密閉型システムと比較することを常としています。
それは、このロクハン・システムが、ボーカル再生において、
もっとも自然で癖が少ないと感じるからです。
女性ボーカルがやや太くなる感じはしますが、全ボーカル帯域において、
音色の変化がなく自然なのです。

今回もこのシステムと、新作を聴き比べてみると、
小口径ドライバーの弱点であるはずの男性ボーカルの再生で、
意外にも、もっとも自然で癖がないと感じていたロクハン密閉型の弱点に気づきました。
新作nuottikorva Sの男性ボーカルは解像度が高く、ダイナミックレンジが広く、
明るく軽快にのびのびと歌い上げる表現をしますが、
ロクハンシステムは、f0c付近では量感が増しますが、ダイナミックレンジが狭まり、
解像度が低下し、つまった音になり、音量が増すにも関わらず
押さえつけられたような表現になるのです。
ロクハン・システムだけを聴いていれば、その弱点に気づくことはないでしょうが、 nuottikorva Sとの比較では、はっきりと手に取るように確認できます。

そして、nuottikorva Sは、男性ボーカルがホーンから再生されているのにも関わらず、
振動板から直接再生されているロクハン・システムより、
明るく鮮明で解像度が高いのです。
明るく軽やかにのびのびと歌い上げるnuttikorva Sに比べて、
ロクハン・システムの男性ボーカルは、
毛布を被せたようにくぐもった音、ダイナミックレンジの狭い音に聞こえます。

と言っても、このロクハン・システムの低域が特に劣っていると言うわけではなく、
低音が良く出るという定評がある某8cmフルレンジドライバーのバスレフシステムとの比較では、ロクハンの低域の厚みや解像度・表現力の違いを見せつけられ、
やはり口径による違いは大きいなと感じたものでした。
小口径ドライバーは量的に低音が出ていても、質的には大口径に適わないのだなと・・・

しかし、nuottikorva Sとの比較で、ロクハン・システムの低域での解像度や表現力の弱点があらわになり、 f0c付近で音量が増えるのにもかかわらず、
表現力が狭くなる現象を確認できたことや、ホーンを通って出てくる音が、
直接振動板から再生される音よりも、透明かつ鮮明で、
ストレスのない表現をすることに驚かされました。

そして、もっとも質の違いに敏感な人の声の再生において、
振動板から直接再生される音を、折り曲げたホーンを通って再生される音が、
量ではなく質において、凌駕するという事実。
これが、今回得られた最も大きく意外な収穫でした。

Nuottikorva-S 完成!

久しぶりの更新となります。
最近どうも気分が落ち込んで、作業が捗らずHPの更新も滞っていましたが、
Nuottikorva-Sが完成したのでレポートさせていただきます。

前作との違いは、ドライバーの取り付け位置が5mm上に上がったことと、
ホーンの開口面積が僅かに増えて約190cm2となったことです。

前作でもそうでしたが、このスピーカもほとんどエージング無しの状態でも
癖の無い良い音でなります。
音は、前作よりも厚みや透明感が向上しており、
前作より悪くなったところは無いようです。
前作までは試作品と言うこともあり、内部配線を半田付けしていませんでしたが、
今回はしっかり半田付けしており、それが音に良い影響を与えているようで、
かなり質・品位の違いを感じます。
開口面積を増やした効果か、ローエンドの量感も増して、
60Hz付近はかなり強い出力があり、この帯域が重要な映画音楽なども楽しく聴けます。

ボーカルも一通り聴きましたが、前作同様 癖が無く自然な音で再生されます。
しかし、このスピーカーのボーカルは素晴らしい・・・透明で繊細で自然、
聴く人を陶然とさせ 引き込むものがあります。
極論すれば、スピーカの価値は「どれだけ脳内麻薬物質を分泌させることが出来るか」
とも言えるわけで、そういう観点からしても、このスピーカーはなかなかの物だと言えます。

バックロードホーン(BLH)は、よく向き不向きがあると言われますが、
そう言われるBLHは完成度が低く癖が強いのではないかと思います。
と言うのは、Nuottikorva-Sのように癖の無いBLHで聴く限り、
ジャンルの向き不向きと言うのは特に感じないのです。
完成度の低いBLHは癖が強いので、その癖によって、
どうしても合う音楽と合わない音楽と言うのが出来てしまうのだと思います。

とは言っても、BLHの完成度を高めれば普通のスピーカーの音に近づくのかと言えばそうではなく、BLHでしか表現できない境地と言うものが残されます。
それば、トランジェント特性の良さであり、ダイナミックレンジの広さです。
この二つの特性の優秀さが必要なソースを聴くと、BLH以外のスピーカーは、
圧縮音源ならぬ圧縮再生装置なのではないかと思うくらい表現できる音の幅が違います。

スピーカーの試聴は、どうしても粗探しという感じになってしまいますが、
今回も小型スピーカーの苦手とするfレンジ・ダイナミックレンジ共に広い映画音楽
「タイタニック」のサウンドトラック"BACK TO TITANIC"をじっくり聴いてみました。

先ずは1曲目の"TITANIC SUITE"の聴きどころ、6分あたりからのパートはローエンドの厚みが増した恩恵で「エレガントな鉄塊の重厚なる疾走感」が楽しめます。
適度な厚みがあり全域にわたって雑味がなくクリアーな再生音は、
このエンクロージャーの設計思想の成功を、控えめに言っても、その方向性が間違っていないことを示唆しているようです。

そして、スピーカーチェック用のソースとしては、
このサウンドトラックの白眉ともいえる6曲目の"A BUILDING PANIC"、
この曲は静かな曲調からドンッ!バンッ!!と爆発的に大音量で立ち上がる部分が連続するので、小型スピーカーには厳しいソースですが、
Nuottikorva-Sでは、これぞBLHと言える特徴が存分に発揮され、爆発的な音の変化にも軽々と追従し「神聖なる破壊・荘厳なる恐怖」が遺憾なく再生されます。この鬼気迫る表現はダイナミックレンジが狭く芯の無いフニャフニャの低音では再現できないもの。
しかしこの曲を聴くと、このスピーカーの視覚的印象と再生音の違和感が凄く、
この小さな8cmドライバーの再生音としては望外のものです。

やはり、ショートホーンは良い。
瞬時に立ち上がるハイスピードな低音、ゴリッとしたソリッドな低音の質感、
駆動できる空気の多さがもたらす浪々としたスケール感、
そのスケール感の大きさが喚起するある種の偉大さを感じさせるもの・・・

そして、この映画のテーマ曲である11曲目のCeline Dionの"MY HEART WILL GO ON"
彼女のボーカルの再生は、まさにBLHの面目躍如たるものがあります。
透明でありながら圧倒的な声量と伸びを併せ持つ彼女のボーカルの再生音は、
BLH以外のスピーカーの再生音とは一線を隔するもので、
このスピーカーの超軽量振動板からもたらされるダイナミックレンジの広さと
トランジェント特性の良さが十分に活かされており、
ささやくように静かに歌う部分、ありったけの声を張り上げて歌う部分、
そのどちらもリアルに再生され、情感の表現が豊かで表現の幅が広いのです。

特に"You're here there's nothing I fear"から始まるのサビの部分を聴いて感じる、
鍛え抜かれた声帯を持つ歌手の歌声が放つ「凄み」や「壮絶さ」は、広いダイナミックレンジをもつスピーカーでしか聴くことの出来ない ある種の異質な表現領域かもしれません。
そして、それはダイナミックレンジの狭いスピーカーの「のっぺりした音」では到達することは叶わないBLHらしい表現の高みと言えるのではないでしょうか。

スピーカーは人の声の再生が最も大切だと私は考えていますが、
その意味からも、このスピーカーのボーカルは自然で癖が無く、
安心して聴くことのできる品位、そして
BLHらしいエネルギー感とダイナミズムを持っています。

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