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Project Torvi-S10

Torvi-S10 の開発コンセプトなど
2012-08-09

今回開発する Torvi-S10C は、以前8cmフルレンジドライバー用に開発した
バックロードホーン・エンクロージャー、 Torvi-S08II  の10cm版です。

Torvi-S10は、10cmフルレンジ用ということで、8cmフルレンジ用のTorvi-S08IIに比べると、
2回り程サイズが大きくなりますが、エンクロージャーの構造は全く同じものです。
Torvi-S08IIがどのようなエンクロージャーかについては、こちら を参照してください。

Torvi-s08II は成功したエンクロージャーですが、紹介ページが無かったので、
Torvi-s08IIと共通の構造を持つ、Torvi-S10の紹介ページを今回 作ることにしました。

Torvi-S10、及び Torvi-S08II は共に、
穴開きダンプド・バックロードホーン(HD-BLH)というタイプのエンクロージャーです。
穴開きバックロードーホーン(HBLH)については、コラムNo.13Torvi-C08の開発記事
HD-BLH については、Torvi-F08の開発記事を参照してください。

Torvi-S10は、7本の直管から構成されている、スパイラル(渦巻き)バックロードホーンです。
7本の音道はそれぞれ違う長さを持っているので、
ホーンの各音道部において、気柱共鳴や定在波が発生する場合でも、
各音道部の長さに応じて、違う周波数に分散させることができることから、
ホーン内部で発生する癖を低減できると考えられます。 

音道の各コーナーは、6箇所の90°のコーナーと、1箇所の180°のコーナーからなります。
この音道構成は、もっとも無駄が少なく合理的なものとして、私が気に入っているものです。
全てのコーナーが90°の折り返しからなる、完全なスパイラルホーンの方が
音道構成としては、より無駄が少なく合理的ですが、
完全スパイラルホーンは、デザイン的にあまり良くできませんし、
開口部がドライバーに近いため、ホーンから漏れる中・高音が
ドライバーの音に干渉して音を濁す可能性も、少し高くなると思われます。

Torvi-S10は1箇所、180°の折り返しを設けることで、
開口部をドライバーから遠ざけることができるので、
開口部からの音がドライバーの音に悪影響を及ぼす可能性を低くできると共に、
デザイン的にも、最も美しい長方形の比率(黄金比)とされる、
1 : 1.618 に近い比率を採用することができます。

90度の折り返しを多用した設計にしている理由として、
急峻な折り返しに比べて、緩やかな折り返しの方が、
音波が折り返す際のエネルギーのロスが少なくなることや、
ホーンの連続性が高くなることで、分断された管として機能しにくくなり、
耳につきやすい高い周波数での共鳴を避けることができることなどが挙げられます。

なお、音波が折り返す際のエネルギーのロスは、
エンクロージャーの振動に変換されるので、
このロスが多いほど、エンクロージャーの不要振動が多くなり、
また、音波が折り返す際に、エンクロージャーの振動に変換されたエネルギーの分だけ、
音波のエネルギーが減るので、低音の量も少なくなると考えられます。

ドライバーの取り付け位置は、
フロントバッフルの 上辺、下辺、右辺、左辺、から、
それぞれ違う距離に位置する場所に取り付けることによって、
フロンとバッフルのそれぞれのエッジにおいて起こる音の反射によって、
周波数特性上に現れる特性の乱れを分散させる効果を期待できます。

そして、広いフロントバッフルは、狭いものに比べると、
音場感や音像の明瞭さにおいて1歩劣るものの、
ドライバー前面の再生音に、より低い周波数まで負荷をかけることができるので、
小口径ドライバーの、高音にエネルギーが偏った神経質な再生音に、
厚みや温かみを付加し、より自然な再生音を得られると考えています。

開口部は側面に設けられています。
側面開口型は、低音が直接リスナーに向けて放射される前面開口型に比べると、
低域の量感において劣るものの、
開口部から漏れる中音・高音が、ある程度減衰してからリスナーの耳に届くので、
ホーンから漏れる中・高音がドライバーの音に干渉して、
再生音のクオリティーを下げる可能性を、
前面開口型に比べて少なくできるというメリットがあります。

今回使用するドライバーは、
TangBandの10cmフルレンジドライバー、W4-930SG を想定しています。
TangBandの10cmドライバーは、ネジ穴の位置がFostexのものと同じで、
ドライバーの取り付け穴の径もFostexのものより僅かに大きいですが、
Fostexのドライバーも問題なく取り付けることができるので、
Torvi-S10はTorvi-S08IIに比べると、汎用性の高いエンクロージャーだと言えます。

8cm版のTorvi-S08IIは、
TangBandの8cmフルレンジドライバー向けに開発したものですが、
こちらは、取り付け穴がFostexの8cmフルレンジには少し大きめなので、
Fostexのドライバーを使うには気密性に不安があり、
Fostexのドライバーを使うには、専用のエンクロージャーを別に開発する必要があるので、
Torvi-S10に比べると、汎用性が低くなります。

そう言えば、Torviシリーズは数種類作ってきましたが、
"Torvi"という言葉の意味をまだ説明していませんでした。
"Torvi"というのは、フィンランド語の「ホーン」という意味の言葉です。


Torvi-S10 の周波数特性など
2013-07-17

前回の記事の日付を見ると、なんと、もう1年近く経過しています。
実は、Torvi-S10 は、作ってから、チューニング無しの状態で試聴した際に、
ソースによっては、ボーカル帯域の一部に、共鳴音を感じたので、少々失望して放置していました。
しかし、このページを完成させずに、いつまでも放置しているわけにもいかないので、
今回、空気室内の吸音材の調整などにより、チューニングしてみました。

上の画像は、完成した Torvi-S10 です。
スパイラル・バックロードホーンなので、一般的なスピーカとは違って、左右非対称のデザインです。
私はこのタイプのスピーカーをよく作り、見慣れているため、特に変だとは感じないのですが、
見慣れていない方は、奇妙なルックスだと感じるかもしれません。

下のグラフは、Torvi-S10 の軸上1mの周波数特性です。
測定に使用したフルレンジ・ドライバーは、Tang Band W4-930SG です。

BLH としては、フラットかつワイドで、なかなか優秀な周波数特性です。
このエンクロージャーでは、ホーンの途中に開けられた小穴が、効果的に機能しているようで、
普通の BLH で生じる、低域のディップがありません。
200Hz のピークが気になる感じですが、幸い、幅が狭く、高さも低めなので、
実際の音楽鑑賞において、問題になることは、ほとんどないようです。
(長岡鉄男氏のD-55 にも、200Hz にピークがありますが、
名器と言われていることですし・・・と我田引水をしてみる)

ハイエンドは、10cmフルレンジとしては良く伸びて、きっちり、20kHz まで再生されます。
この W4-930SG は、聴感的には、少しハイ上がりな印象がありますが、
音色もナチュラルで、非常に完成度の高い、優秀なドライバーだと感じます。

開口部をダンプしているため、ローエンドもよく伸びて、30Hz 辺りからレスポンスがあります。
実用的な周波数帯域は、40Hz-20kHz といった感じで、
10cmドライバー用のBLH としては、かなりワイドな特性になっています。
しかし、バランスとしては、開口部をダンプして、ローエンドを伸ばすよりも、
低域の厚みを優先した方が、さらに良かったかもしれません。

そして、肝心の中域ですが、
期待してなかった吸音材によるチューニングが、意外にも上手く行った様で、
ボーカル帯域での共鳴音も無くなり、気なる部分がほとんどなくなりました。
谷山浩子さんのような、繊細な声質のボーカルを聴いても、
特に癖らしい癖を感じませんし、男性ボーカルも自然です。

もともと、Torvi-S10 と同じ構造を持つ Torvi-S08II は、中域での癖がありませんでした。
しかし、このTorvi-S10では、裏板を接着してエンクロージャーを閉じる前に、
少しでも音が良くなればと思い、音道のコーナーに三角財を配置したことが、
逆に、災いしたのかもしれません(下の画像を参照)。

と言うのは、
コーナーに三角材を配置したことにより、コーナーでのハイカット効果が低下するのに加えて、
Torvi-S10 の場合、開口部ダンプにより、中・高音が排出されにくい構造のため、
エンクロージャー内で、中・高音の滞留時間が長くなるという、
ホーンが比較的高い帯域で、共鳴しやすくなる条件が重なるからです。

しかし、吸音材でのチューニングにより、
空気室内で、中・高音を十分に吸音し、ホーンへの中・高音の進入量を減らすことで、
ホーンが中・高音で共鳴しにくくなり、ボーカル帯域での癖も無くなったのだと考えられます。
今回は、運良く、吸音材によるチューニングにより救われ、
周波数特性もフル・フラットに近く、BLH としては、非常に優秀な結果が得られました。

また、三角材の功罪として、コーナーでのハイカット効果が低下する代わりに、
エンクロージャーの不要振動の増加が抑えられるというメリットがあるため、
(コーナーで減衰した中・高音の多くは、エンクロージャーの不要振動に変換されるので)
副産物として、同じ構造を持つ Torvi-S08II に比べると、
よりクリアーで雑味の少ない再生音を得ることができたようです。


Last Updated 2013-07-17


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