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Project Torvi-SL08

HBLH Torvi-SL08 の開発コンセプトや構造など
2014-02-28

Torvi-SL08 は、8cmフルレンジ・ドライバー用のバックロードホーン(BLH)で、
私がこのサイトを始めたときから、好んで作っている形式のスパイラル・バックロードホーンです。

Torvi-SL08 は、初代のTorvi-S08 と比べると、音道が1本増えて、
ホーン長も約164cmと、Torvi-S08よりも30cm程度 長くなっています。
このため、エンクロージャーも一回り大きくなっていますし、
ドライバーの位置にも少し変更があります。

その内、ページを改めて詳しく述べたいと思っていますが、
最近、私は、ドライバーの持つf0の周波数によって、
ホーンの最適な長さが自ずと、ある程度の範囲に定まると考えています。
そして、Torvi-SL08のホーン長は、その様な考え方に基づき、
導き出されたホーン長でもあります。

Torvi-SL08の基本的なホーンの構造は、計8本の直管から構成される直管ホーンです。

8本の音道は、それぞれ異なる長さを持っているため、
それぞれの音道が共鳴管として機能した場合でも、
共鳴周波数が分散し、それぞれの共振周波数における共鳴強度も弱くなることから、
ピーク感などの癖の少ない音になるだろうと考えられます。

また、それぞれの音道の長さが違う利点として、
音道の対向面間で発生する定在波の周波数にも違いが生じるため、
定在波の発生も抑制でき、ホーンがホーンとして機能する場合も共鳴管として機能する場合も、
特定の周波数での強調感が少なくなるだろうと考えられます。

計7箇所の折り返し部分の内、最後の折り返し部分のみ180度のもので、
それ以外の6箇所は90度の折り返しとなっていますが、各折り返し部分では、
音質向上のための、ちょっとした工夫を施しています。

90度の折り返し部分で、板が少し飛び出しているのが、上の画像でも確認できると思います。
こうすることで、僅かですが、ホーン長を延長するとともに、
コーナーでの回転半径を小さくすることで、
コーナーで生じるデッドスペースの体積を減らすこともできます。
ホーンの出力は、ホーンの体積に比例しますから、
デッドスペースを減らすことは、ホーンの出力低下を避けることにつながるのです。

また、この工夫により、各音道の対向面間において、2種類の距離を生じるため、
それぞれの対向面間で生じる定在波を、僅かなものだとは思いますが、
減らす効果も考えられます。

そして、最後の1箇所のみが180度の折り返しになりますが、
この折り返しでは、僅かですが、ホーン長を稼ぐとともに、折り返しを緩やかにすることで、
音波のスムーズな進行を妨げない為の工夫をしています。

この180度の折り返し部分には、音波がスムーズに折り返すことができるように、
2枚の整流板を配置しているため、 Torvi-SL08の音道は、1箇所、
180度の折り返しを持ってはいますが、実質的な構造は、
完全なスパイラルホーンに近いものであると言えます。

私が、BLHにおいて、90度の折り返しを好んで採用するのは、
以下のような様々なメリットが考えられるからです。

  • 折り返し部分の角度が緩やかなため、音波の方向が変わる際に生じる
    エネルギーロスが少なく、低音の再生効率が高い。
  • 折り返し部分で、音波エネルギーが振動エネルギーに変換されることで生じる
    エンクロージャーの不要振動の増加が少ない。
  • 折り返し部分でのデッドスペースの体積が少なくなるため、
    エンクロージャーの体積をホーンの体積として有効に使える。
  • 折り返し部分での、デッドスペースの発生箇所が少なくなるため、
    ホーンの形状のいびつな箇所が少なくなり、
    ホーンによって再生する帯域での歪みの増加が抑えられる。

それに対して、180度の折り返しは、
デザイン上の制約が少なくなることが、メリットとして考えられます。

全ての折り返し部分が90度のものからなる
Uzu-10のような完全なスパイラルBLH は、
構造的には、最も無駄が少ないものだと考えられますが、
デザイン上の自由度が非常に制限されているため、
ある程度、デザイン的な自由度を得るためには、1箇所以上、
どこかで180度の折り返しを入れる必要があります。

Torvi-SL08は、 Uzu-10のような、
全ての折り返しが90度のものから構成される完全なスパイラルBLHではなく、
最後の折り返しのみ180度のものを取り入れているので、
準スパイラルBLHといった感じのものです。

しかし、こうすることによって、
最も美しい長方形の比率だとされる、
1:1.618 の黄金比に近いデザインを採用できるため、
ルックス的には、完全なスパイラルホーンよりも、
かなり良くできるという利点があり、私個人としては、
この音道構成は、シングル・BLHの音道構成としては、
最も無駄が少なく合理的なものの一つだろうと考えています。

Torvi-SL08は、HBLHなので、ホーンの途中(開口部の上)に小穴があります。
HBLHについて興味のあるかたは、コラム No.13 をご参照ください。
HBLHの小穴の最適な位置は、理論上、ホーン長/1.5の位置ですが、
Torvi-SL08では、ちょうどその位置に小穴を開けることができるので、
HBLHとしても、構造的な問題がありません。

HBLHの効果としては、
ホーンの音響迷路的動作によって生じるディップを軽減できることに加えて、
ホーンが共鳴管として機能する場合でも、共鳴周波数が分散することによって、
いわゆるホーン鳴き言われる、ピーク感などの癖も少なくなるのではないかと、
私は、経験的に感じています。

Torvi-SL08は、側面開口型なので、低音の迫力という点では、
開口部からの低音が、直接リスナーに向かって放射される前面開口型には及びませんが、
開口部から漏れる中音・高音が、その指向性により、リスナーの耳に到達するまでに、
ある程度 減衰するため、ドライバーからの再生音に対する干渉が比較的少なくなり、
音楽情報としては最も重要な、ドライバーからの直接音の品質を高く保つことにおいては有利です。

また、開口部が側面にあるので、部屋のコーナーの近くに設置することで、
部屋のコーナーをホーンの延長として機能させることで、擬似的にホーンを延長することができ、
実際よりも大きく長いホーンとして機能させることができることから、
コンパクトなエンクロージャーであっても、
サイズを超える豊かな低音と、ローエンドの伸びを楽しむことができます。

最後に、ドライバーの左右非対称・上下非対称の奇妙な位置についてですが、
ドライバーから、エンクロージャーの右端、上端、左端、下端、までの距離が、
それぞれ異なっているため、音波の回折によって生じる、
周波数特性上の乱れを分散し小さくすることが出来ると考えられます。

このように、Torvi-SL08は、非常にシンプルな構造ながら、
音質的に有利に働く条件を数多く備えており、
原理的には、優れたエンクロージャーではないかと思います。

Torvi-SL08 の周波数特性など
2014-03-06

上の画像は、完成したTorvi-SL08 です。
一般的な、前面開口型BLH とは異質なデザインなので、
見慣れていない方は違和感を感じるかと思いますが、
このタイプの側面開口型BLHとしては、バランス良くまとまったデザインだと思います。

初代の Torvi-S08 や 2代目の Torvi-S08II よりも、
ドライバーの位置が下がっていますが、ルックス的には、
この位置の方が安定感があり、より好ましいかもしれません。

下のグラフが、Torvi-SL08 の軸上1mでの周波数特性です。
測定に使用したドライバーは、Tang Band W3-881SJF です。

BLH の周波数特性としては、非常にスムーズ、かつ、ワイド な特性になっています。
190Hz に狭いディップと、260Hz に小さいピークがありますが、
全体としては、ピークもディップもよく抑えられ、BLH の特性としては、
フルフラットと言っても差し支えない特性です。

190Hz のディップについては、小穴のディップ軽減効果によって、
幅が非常に狭くなっているので、情報の欠損量としては非常に小さく、
実際の音楽鑑賞において、問題を感じることはありません。

ちなみに、15kHz のピークは、W3-881SJF の癖によるもので、
エンクロージャーに由来するものではありません。
ハイエンドはそれほど伸びていませんが、
これは、使うドライバーの高域特性に依存する部分です。

W3-881SJF は、88dB と、かなり高能率なため、中域が少し盛り上がっていますが、
それほど高能率ではない他のドライバーを使えば、
中域がもう少し減って、さらにフラットな特性になるはずです。

低域特性は、驚くことに、45Hz 辺りまで十分な音圧を保っており、
低域再生限界は、32Hz 辺りでしょうか。
聴感的にも、低域の量感は十分で、このサイズのBLHとしては、非常に優秀です。
ホーンからの音圧は、開口方向において最大となるため、側面開口型BLH の場合は、
測定上、実際よりも低域の音圧が少し低めに測定されることを考えれば、
この低域特性の優秀さが分かるかと思います。

高能率なドライバーを使用した場合、周波数特性が狭くなる傾向がありますが、
このドライバーを使用した場合の実用的な周波数特性は、
大体、40Hz-18kHz といったところでしょうか。

私のリスニングルームでは、開口部を内側に向けた方が、
壁からの反射が減り、周波数特性が綺麗になる場合が多いのですが、
今回は、一般的な使用条件を考慮して、開口部を外側に向けた状態で測定しています。
もちろん、部屋のコーナーからは十分離れた位置に設置しており、なおかつ、
スピーカースタンドに乗せた状態での測定なので、ホーンの延長効果は考えられません。

高域特性も、15kHzのピーク以外は、完全にフラットで、非常に綺麗な特性になっています。
これは、W3-881SJF の優秀さもさることながら、ドライバーの位置によって、
周波数特性の乱れを分散するという設計も、少なからず貢献していると思います。

実際の音楽鑑賞においても抜群で、特に欠点らしい欠点はなく、
8cmフルレンジを使用した、このサイズのBLHとしては、申し分のない音です。
各帯域のバランスが良く、音に厚みがあるので、小音量でも音が痩せず、
音楽性の高さを感じさせる再生音です。

ホーンの効き方が気持ちよく、ついつい音量を上げたくなりますが、
8cmドライバーなので、許容できる振幅に余裕がなく、音量には注意が必要です。
大音量にすると、ホーンが効くというより、
ホーンが「ほえる、雄たけびを上げる」という感じの鳴り方をし、
このホーンの再生効率の高さを感じさせます。

しかも、高い帯域でのホーン鳴きが無いので、
女性ボーカルも自然ですし、男性ボーカルに妙な響きが乗ることも無いようで、
小型BLHにおいて癖の出やすいボーカル再生も、問題がありません。

低音が豊かで、ローエンドも伸びていることから、
ジャンルの適合範囲が広く、クラシックなども意外と行けます。
特に、部屋のコーナー近くに設置して鳴らすと、音場感は僅かに後退しますが、
空間そのものが鳴っているような、とても 8cmフルレンジだとは思えない、
スケールの大きな音を楽しむことができます。

今回の Torvi-SL08 は、特に欠点らしい欠点もなく、
周波数特性もワイドで、フルフラットに近く、音質的な癖も少なく、
非常に高い完成度と音楽性を持ち合わせた作品に仕上がったのではないかと、
私自身は感じています。

Torvi-SL08 のマイナー・チェンジ
2016-02-03

Torvi-SL08 にマイナー・チェンジを施しました。
名前は、Torvi-SL08 II とします。

Torvi-SL08 II の基本的な構造や設計のコンセプトは、
Torvi-SL08 のそれを継承しておりますが、
改良のために、僅かですが、変更を加えています。

先ず、Torvi-SL08 においては、ハイパボリック・カーブ 気味だったホーンの広がり方を、
Torvi-SL08 II においては、より エクスポネンシャル・カーブに近づけています。
これは、低域において、ある程度 強調感を得ることを意図した設計を、
より癖が少なく、飽きの来ない再生音を志向する設計へと、
少しばかり変更することを意図したものです。

ホーンの長さと体積が一定の場合、
エクスポネンシャルホーンは、ローエンドの伸びと癖の少ない再生音が期待できる反面、
ローエンド付近での強調感が比較的 少なくなることから、
聴感上の周波数特性において、ナロー・レンジに感じやすい欠点があります。
それに対して、ハイパボリック・ホーンは、ホーンの癖はやや多くなりますが、
ローエンド付近での強調感が得られることから、特に、小口径ドライバー用のBLH では、
聴感上の周波数特性において、ワイド・レンジに感じやすいという利点があります。

そして、小口径フルレンジ・ドライバーは、振動系質量が小さいことから、
トランジェント特性が良く、解像度の高い再生音を期待できる半面、
最低共振周波数(fs) が高いことから、ローエンドを伸ばすこと、及び、
低域において十分な量感を得ることが難しいという短所を持っています。

これらのことから、小口径ドライバーを採用した BLH では、
ドライバーの能力からすると、過大な要求と思える超低域の再生を諦めて、
「音楽を楽しく聴く上で必要となる周波数レンジ」の、
充実した再生というものに焦点を当てることによって、
再生音という観点からも、エンクロージャー大きさという観点からも、
バランスの良い常識的な設計というものが可能になることが多いのです。

そして、ホーンの形状も、ローエンドの伸びよりも、低域の量感を重視する場合には、
ハイパボリック・カーブを採用するほうが、
小口径ドライバーを採用したBLH エンクロージャーとしては、
音楽性の高い作品になることも多いと感じます

Torvi-SL08 では、このような設計思想に基づき、
8cmフルレンジ・ドライバーの一般的な特性に最適化された設計となっていましたが、
Torvi-SL08 II においても、Torvi-SL08 の基本的な設計思想を継承しつつ、
より癖の少ない、高品質な再生音を達成するために、
エンクロージャーの構造をリファインしています。

先ず、ホーンの入り口であるスロートですが、
この部分が振動すると、ホーンの音全体に影響し、再生音に濁りを与えます。
これを避けるために、スロートに補強を施して強度を高め、振動を抑制しています。
また、この部分には三角材を配置することで、
空気室の音圧が、スムーズにホーンへと導かれる形状にしています。

そして、今回のマイナー・チェンジにおいて、
主な変更点であるホーンの形状の変更についてですが、
より癖の少ない再生音を実現するために、前述の通り、
よりエクスポネンシャル・カーブに近いホーン形状としています。

また、ホーン形状をエクスポネンシャル・カーブに近づけることによって、
ローエンド付近の量感が減る問題は、ホーンの体積を増やすこと、及び、
開口部を、文字通り、ホーン状に広がる理想的な形状とし、
Torvi-SL08 よりも、さらに大きな開口面積を確保することで、
ホーン自体の再生効率を上昇させることにより回避しています。

そして、これらの処置によって、BLH エンクロージャーのホーンとして、
音質的にも、形状的にも、より完成度を高めているのではないかと思います。

この、ホーン形状の変更に伴い、スロート面積は、約4.7%拡大するので、
クロス・オーバー周波数の維持のため、空気室の容積も、約4.3%拡大しています。
これにより、ホーン・ロード(ホーン負荷)のかからない帯域では、僅かですが、
ドライバーの振動版の背圧が低下するため、振動版のより自由な動作が可能となり、
より開放的かつ繊細な再生音を期待することができます。

Torvi-SL08II の周波数特性など
2016-02-10

上の画像は、完成した Torvi-SL08 II です。
一見したところ、Torvi-SL08 と同じような印象ですが、
開口部がホーン状に広がっていることから、
より BLH らしいルックスになっているかと思います。

下のグラフが、Torvi-SL08 II の軸上1mでの周波数特性です。
測定に使用したドライバーは、Torvi-SL08 の測定で使用したドライバーと同じく、
Tang Band W3-881SJF です。

Torvi-SL08 では、190Hz 辺りに、狭いディップが生じていましたが、
Torvi-SL08 II では、このディップが生じていません。

確認のため、190Hz のサイン波を再生しながら、部屋の中を歩き回りましたが、
部屋のどの場所からでも、190Hz のしっかりとした出力が確認できることから、
部屋の定在波や、反射波の影響で、このディップが消失したわけではないようです。

そして、Torvi-SL08 では、260Hz に生じていたピークが、
Torvi-SL08 II では、表れる位置が少しずれていて、大体 230Hz 辺りに生じていますが、
ピークの位置が低い周波数に移動したためか、ピークの高さが少し低くなっているように見えます。

100Hz 辺りの厚みは、Torvi-SL08 に一歩 譲るように見えますが、
ローエンド付近の再生能力は、53Hz 辺りのピークの高さから判断して、
Torvi-SL08 より向上しているように見えます。

全体としては、Torvi-SL08 の周波数特性と、それほどの違いはありませんが、
ディップが消失し、ピークが低くなるなど、明らかな改善点が見られることから、
よりフラットな周波数特性が得られたと、判断できると思います。

実際の音楽の試聴では、Torvi-SL08 との大きな印象の違いは感じませんが、
Torvi-SL08 II の方が、癖や煩さが減少する一方、
透明感や繊細さなどの要素は向上していると、聴感上は感じます。

以上のことから、「より癖の少ない再生音」という、
今回のマイナー・チェンジの主な目的は達成できたと考えられますし、
より愛着の持てる、聴き飽きの来ない音が、実現できたのではないかと思います。

Last Updated 2016-02-10



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