Torvi-SL08
は、8cmフルレンジ・ドライバー用のバックロードホーン(BLH)で、
私がこのサイトを始めたときから、好んで作っている形式のスパイラル・バックロードホーンです。
Torvi-SL08 は、初代のTorvi-S08
と比べると、音道が1本増えて、
ホーン長も約164cmと、Torvi-S08よりも30cm程度
長くなっています。
このため、エンクロージャーも一回り大きくなっていますし、
ドライバーの位置にも少し変更があります。
その内、ページを改めて詳しく述べたいと思っていますが、
最近、私は、ドライバーの持つf0の周波数によって、
ホーンの最適な長さが自ずと、ある程度の範囲に定まると考えています。
そして、Torvi-SL08のホーン長は、その様な考え方に基づき、
導き出されたホーン長でもあります。
Torvi-SL08の基本的なホーンの構造は、計8本の直管から構成される直管ホーンです。
8本の音道は、それぞれ異なる長さを持っているため、
それぞれの音道が共鳴管として機能した場合でも、
共鳴周波数が分散し、それぞれの共振周波数における共鳴強度も弱くなることから、
ピーク感などの癖の少ない音になるだろうと考えられます。
また、それぞれの音道の長さが違う利点として、
音道の対向面間で発生する定在波の周波数にも違いが生じるため、
定在波の発生も抑制でき、ホーンがホーンとして機能する場合も共鳴管として機能する場合も、
特定の周波数での強調感が少なくなるだろうと考えられます。
計7箇所の折り返し部分の内、最後の折り返し部分のみ180度のもので、
それ以外の6箇所は90度の折り返しとなっていますが、各折り返し部分では、
音質向上のための、ちょっとした工夫を施しています。
90度の折り返し部分で、板が少し飛び出しているのが、上の画像でも確認できると思います。
こうすることで、僅かですが、ホーン長を延長するとともに、
コーナーでの回転半径を小さくすることで、
コーナーで生じるデッドスペースの体積を減らすこともできます。
ホーンの出力は、ホーンの体積に比例しますから、
デッドスペースを減らすことは、ホーンの出力低下を避けることにつながるのです。
また、この工夫により、各音道の対向面間において、2種類の距離を生じるため、
それぞれの対向面間で生じる定在波を、僅かなものだとは思いますが、
減らす効果も考えられます。
そして、最後の1箇所のみが180度の折り返しになりますが、
この折り返しでは、僅かですが、ホーン長を稼ぐとともに、折り返しを緩やかにすることで、
音波のスムーズな進行を妨げない為の工夫をしています。
この180度の折り返し部分には、音波がスムーズに折り返すことができるように、
2枚の整流板を配置しているため、
Torvi-SL08の音道は、1箇所、
180度の折り返しを持ってはいますが、実質的な構造は、
完全なスパイラルホーンに近いものであると言えます。
私が、BLHにおいて、90度の折り返しを好んで採用するのは、
以下のような様々なメリットが考えられるからです。
- 折り返し部分の角度が緩やかなため、音波の方向が変わる際に生じる
エネルギーロスが少なく、低音の再生効率が高い。
- 折り返し部分で、音波エネルギーが振動エネルギーに変換されることで生じる
エンクロージャーの不要振動の増加が少ない。
- 折り返し部分でのデッドスペースの体積が少なくなるため、
エンクロージャーの体積をホーンの体積として有効に使える。
- 折り返し部分での、デッドスペースの発生箇所が少なくなるため、
ホーンの形状のいびつな箇所が少なくなり、
ホーンによって再生する帯域での歪みの増加が抑えられる。
それに対して、180度の折り返しは、
デザイン上の制約が少なくなることが、メリットとして考えられます。
全ての折り返し部分が90度のものからなる
Uzu-10のような完全なスパイラルBLH
は、
構造的には、最も無駄が少ないものだと考えられますが、
デザイン上の自由度が非常に制限されているため、
ある程度、デザイン的な自由度を得るためには、1箇所以上、
どこかで180度の折り返しを入れる必要があります。
Torvi-SL08は、
Uzu-10のような、
全ての折り返しが90度のものから構成される完全なスパイラルBLHではなく、
最後の折り返しのみ180度のものを取り入れているので、
準スパイラルBLHといった感じのものです。
しかし、こうすることによって、
最も美しい長方形の比率だとされる、
1:1.618
の黄金比に近いデザインを採用できるため、
ルックス的には、完全なスパイラルホーンよりも、
かなり良くできるという利点があり、私個人としては、
この音道構成は、シングル・BLHの音道構成としては、
最も無駄が少なく合理的なものの一つだろうと考えています。
Torvi-SL08は、HBLHなので、ホーンの途中(開口部の上)に小穴があります。
HBLHについて興味のあるかたは、コラム
No.13 をご参照ください。
HBLHの小穴の最適な位置は、理論上、ホーン長/1.5の位置ですが、
Torvi-SL08では、ちょうどその位置に小穴を開けることができるので、
HBLHとしても、構造的な問題がありません。
HBLHの効果としては、
ホーンの音響迷路的動作によって生じるディップを軽減できることに加えて、
ホーンが共鳴管として機能する場合でも、共鳴周波数が分散することによって、
いわゆるホーン鳴き言われる、ピーク感などの癖も少なくなるのではないかと、
私は、経験的に感じています。
Torvi-SL08は、側面開口型なので、低音の迫力という点では、
開口部からの低音が、直接リスナーに向かって放射される前面開口型には及びませんが、
開口部から漏れる中音・高音が、その指向性により、リスナーの耳に到達するまでに、
ある程度
減衰するため、ドライバーからの再生音に対する干渉が比較的少なくなり、
音楽情報としては最も重要な、ドライバーからの直接音の品質を高く保つことにおいては有利です。
また、開口部が側面にあるので、部屋のコーナーの近くに設置することで、
部屋のコーナーをホーンの延長として機能させることで、擬似的にホーンを延長することができ、
実際よりも大きく長いホーンとして機能させることができることから、
コンパクトなエンクロージャーであっても、
サイズを超える豊かな低音と、ローエンドの伸びを楽しむことができます。
最後に、ドライバーの左右非対称・上下非対称の奇妙な位置についてですが、
ドライバーから、エンクロージャーの右端、上端、左端、下端、までの距離が、
それぞれ異なっているため、音波の回折によって生じる、
周波数特性上の乱れを分散し小さくすることが出来ると考えられます。
このように、Torvi-SL08は、非常にシンプルな構造ながら、
音質的に有利に働く条件を数多く備えており、
原理的には、優れたエンクロージャーではないかと思います。