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Project Uzu-10

Spiral Back Loaded horn Uzu-10 の開発コンセプトや構造など
2013-03-29

Uzu-10 は、10cmフルレンジドライバー用のバックロードホーンエンクロージャー(以下、BLH)です。
Uzu-10の最も大きな特徴は、ホーンの各コーナーが、すべて90度であることで、
ホーンの構造は、空気室から渦巻状に広がっていくスパイラルホーンです。
Uzu-10の"Uzu"は、「渦・スパイラル」と言う意味です。

Uzu-10の音道は、7本の直管から構成された直管BLHです。
7本の音道部は、それぞれ違った長さになっているので、
各音道部で気柱共鳴が発生したり、
また、それぞれの音道部の対向面で定在波が発生する場合でも、
その周波数が分散されることによって、より癖の無い再生音が期待できます。

Uzu-10の各コーナーは、すべて90度のコーナーで構成されていますが、
それに加えて、コーナーでの板の組み方にも一工夫加えています。
上の画像でも、コーナーの部分で少し板が飛び出しているのが判ると思います。
このようにすることで、コーナーの回転半径がより小さくなるので、
デッドスペースの体積を、さらに減少させることができることから、
エンクロージャーの容積が、より有効に低音再生に寄与できるだろうと考えられます。
そして、折り返し部分での、この板の組み方によって、
音道の延長、定在波の減少、ダンピングの向上なども期待できます。

直管BLHの折り返し部分(コーナー)は、90度のものと、180度のものが考えられます。
そして、それぞれに利点がありますが、
90度の折り返しの利点として、

  1. デッドスペースの発生が少ない。
  2. 癖やひずみの発生が少ない。
  3. エンクロージャーの不要振動の発生が少ない。

などが考えられます。

1について:ホーンの各コーナーでは、ホーンとしての動作に寄与しない部分、すなわち、デッドスペースが発生します(下図参照、隅のグレーの部分)。このデッドスペースの発生は、各コーナーにつき、90度の折り返しでは1箇所、180度の折り返しでは2箇所発生します。このデッドスペースは、ホーンとしての動作に寄与しないと仮定すると、デッドスペースの発生部分が少ないほど、エンクロージャーの容積を有効に使え、低音の再生においても有利になると考えられます。

2について:ホーンの折り返し部分では、音波がスムーズに進行できないため、この部分では、不要な反射が多くなります。そしてこの部分での反射が多くなるほど、音が歪んだり、エンクロージャー内での定在波の発生も多くなり、癖の多い音になると考えられます。180度の折り返しは、1コーナーにつき、90度の折り返し部分が2箇所あると考えられるので、90度の折り返しに比べると、より多くの反射や歪が発生すると考えられます。
そして、ホーンの各折り返し部分における断面積は、音波の進行に伴い、デッドスペース部分で一度断面積が広がり、再び狭くなります。ホーンは、開口部に向かって、徐々に断面積が増加する形状が望ましく、折り返し部分における、このような不自然な断面積の変化も、ホーンの再生音にひずみを発生させる原因になるのではないかと考えられます。

3について:各コーナーでは、音波の進行方向を変えるために、ある程度のエネルギーのロスが生じます。そして、音波エネルギーのロスは、エンクロージャーの不要振動などに変換され、エンクロージャーが発生させるノイズの原因になります。当然、エンクロージャーの不要振動に変換された音波エネルギーは、ホーンが再生する帯域、つまり低音域での音圧での減少となります。そして、180度の折り返しは、1つの折り返し部分につき、90度の折り返しが2箇所あると考えることができるので、折り返し部分において、音波の進行方向を変えるのに、より多くのエネルギーが必要になり、その結果、エンクロージャーの不要振動の増加や、ホーンの出力の低下も、90度の折り返しに比べると、より大きくなるだろうと考えられます。

上記の三点を総合すると、
スパイラルホーンは、180度の折り返しを多用した構造のものに比べると、
音質的にも、低域の再生においても、原理的には有利だと考えられます。
しかし、90度の折り返しは、中域・高域の減衰効果(ハイカット効果)が弱いため、
ホーン開口部からの、中・高音の漏れが多くなるというディメリットも考えられます。

最初は、Uzu-10 を、穴開きバックロードホーン(HBLH)として、開発したのですが、
周波数特性を測定した結果、低域のディップを埋める効果を確認できなかったので、
新たに、純粋なBLHとして開発しなおしました。
最初のHBLHとしての設計は、いつもHBLHを作るときの設計法とは違い、
ホーン長/1.3の辺りに小穴を開けたことが、主な失敗の原因だと考えられますが、
HBLHは、10cmのドライバーより、8cmのドライバーを使ったほうが、
成功の確率が高いのではないかと感じています。
今のところ、HBLHとして良い結果を得るためには、ディップのできる帯域において、
ある程度Q値の高くなるドライバーのほうが、成功の確率が高いのではないかと予想しています。
いずれにしても、HBLHで上手くいく条件と、そうでない条件があるのは確かなようです。

Uzu-10をHBLHからBLHに変更するにあたり、
空気室容積を僅かに小さく、スロートの断面積を僅かに大きくしています。
これは、ディップのできる帯域で、強くホーンロード(ホーン負荷)を欠けることで、
当該帯域での、ホーンの出力を大きくすると共に、振動板の振幅を小さくして、
逆相の音によって相殺されることによって生じるディップを、小さくするという意図があります。


Uzu-10 の周波数特性など
2013-06-27

上の画像は、完成した Uzu-10 の第2作目のバージョンです。
第1作目に比べると、幅が少し広く、奥行きが少し深くなり、
僅かに大型化していますが、見た目はほとんど同じです。

スパイラルBLHということもあり、ルックス的には、それほど良くすることはできないのですが、
見慣れてきたからか、私には、ずんくりとした愛嬌のあるルックスに見えて、
それほど悪くないように感じるようになりました。

設計上の変更点をまとめると、第2作目は、第1作目に比べると、
空気室が少し小さく、スロートが少し大きく、開口部が少し小さくなっています。
当然、ホーンの開き率は、より小さくなっていますが、
ホーンの体積自体は、より大きくなっています。

下2つのグラフは、Uzu-10 の軸上 1mでの周波数特性です。
上のグラフが第1作目の周波数特性で、下のグラフは第2作目のものです。
測定に使用したドライバーは、Fostex FF105WK です。


グラフ上の違いはほとんど無く、誤差の範囲内と言ってよいと思いますが、
第2作目の方が、220Hzのピークが少し低くなるとともに、
170Hzのディップから下の低域が僅かに上昇し、改善している様に見えます。

エンクロージャーをさらに大きくすれば、グラフ上では、
もっと低域が上昇し、さらに改善しているように見えると思いますが、
低域の量は、聴感的には、第1作目でも十分な感じで、
第2作目だと、低域の量が多すぎるように感じ、聴き疲れすることも、時々あります。

そして、このエンクロージャーは、12mm厚、182cm * 91cm の板1枚から、
ぎりぎり2台作れるという経済的な設計でもあるので、単に、グラフの見た目をよくするために、
そのメリットを捨ててまで、さらに大きくする必要もないでしょう。

周波数特性は、220Hzのピークが気になりますが、まずまずフラットで、悪くない特性です。
170Hz のディップは、普通のBLH では、原理的に発生するもので、避けることはできません。
1800Hz 辺りが薄くなっていますが、Tang Band W4-930SG では、ここはフラットなので、
部屋の癖ではなく、おそらく、FF105WK の癖だと考えられます。

高域は、16kHz 辺りまでフラットで、そこから10dB 落ちるのが、18kHz という感じです。
低域は、ホーンの開き率が小さいので、ダラ下がりに良く伸びて、
70Hz 辺りまでは十分で、そこから10dB 落ちるのが、35Hz 辺りです。
実用的な周波数特性は、40Hz-17kHz という感じでしょうか。

音楽の試聴では、やはり10cmドライバー用のBLH ということで、
低域の伸びと力感が、8cmドライバー用のBLH とは次元が違うという感じですし、
エネルギーが高域に偏ることが無いため、各音域のバランスが良く、
音に自然な厚みと実在感があり、音楽性の高さという点では、
8cmドライバー用のBLH に勝ると感じます。

欠点を見つけるために聴くという、意地悪な聴き方をすれば、
僅かにホーン鳴き(ピーク感)を感じる帯域も、なくはないですが、
普通に聴いていれば、欠点らしい欠点を感じることはありませんし、
一般的には、癖が多いとされる BLH という方式を、
ほとんど感じさせないレベルには達しており、
目隠しをして聴けば、BLH だとは判らないかもしれません。

人の聴覚の敏感なボーカル再生でも、
ほとんど癖らしい癖を感じさせない素直な再生音です。
ヘッドフォントの再生音と比べながら聴くと、
ホーンロードの掛かる帯域と、掛からない帯域との音色的な違いによって、
僅かに、ボーカル帯域での揺らぎを感じますが、
空気室に吸音材を適量入れることで、この問題も、ほとんど解消するようです。
そして、8cmのドライバー用BLH と比べると、より自然で、肉声感のあるボーカル再生です。

吸音材を使用しても、周波数特性のグラフはほとんど変化しませんが、
聴感上の変化は明らかで、中域がより滑らかになり、高域のうるささが減り、
音のにじみの少ない、フォーカスの合った音になります。

吸音材によって、僅かに低域の量は減りますが、
それ以上に、音楽にとって最も重要な、中域でのクオリティーが改善されるので、
BLH においても、特に神経質な人には、吸音材は必須だと考えられます。

Uzu-10 は、バッフルの面積が広いため、バッフル面での反射が多くなり、
ある程度、音場感が損なわれるのでは?と予想していましたが、
ドライバーを、できるだけ端に寄せているからか、それほど音場感が悪いとは感じませんし、
定位もはっきりしていて、バッフルの広さから来る問題は、特に感じません。

この Uzu-10 は、スパイラルBLHということで、デザイン上の制約があり、
ルックス的には、問題を感じる人も多いとは思いますが、
10cmフルレンジ・ドライバー用のBLH としては、非常にコンパクトで、
構造的に無駄が少なく、音道も、BLH の基本中の基本ともいえる構成ですし、
音質上の問題も少なく、私としては、かなり完成度の高い作品に仕上がっていると思います。

Uzu-10 の第2作目( Uzu-10II )の設計図 も公開していますので、
興味のある方は、試してみてはいかがでしょうか。


Spiral Back Loaded horn Uzu-10III
2014-10-22

上の画像は、マイナーチェンジを施して完成した、Uzu-10 シリーズの第3代目、Uzu-10III です。
高さは45cm、幅はUzu-10II より7mm広がって 36cm となり、
幅と高さの比率は一応、4:5 と、切りの良い数字になっています。

このドライバーの取り付け位置には、
フロントバッフルのエッジでの音の回折の影響で生じる、
周波数特性上の乱れを分散するという意図があります。
これは、左端から13.5cm、上端から18cm、右端から22.5cm、下端から27cm、という位置ですが、
ドライバーの中心から、フロントバッフルのそれぞれの端までの距離は、
13.5+4.5=18 , 18+4.5=22.5 , 22.5+4.5=27 , 27/2=13.5 というふうに、
一定の規則性を持った数字になっています。

上の画像は、Uzu-10III の内部の様子です。

音道を蛇行させた部分が2箇所ありますが、これは、ホーン長を僅かに延長するとともに、
ホーンの広がり方を、よりなだらかにするための工夫です。

Uzu-10II からの一番の変更点は、空気室の拡大です。
容積にして、8% 程度の違いでしかありませんが、
聴感上は、中域・高域がより伸びやかになり、
ホーンの効き方がマイルドで、聴き疲れのしない音になっていると感じます。

ホーンの効き方を強くしたい場合は、ウッドブロックなどを入れて、
空気室の容積を減らすことで対応できるので、
最初の設計では、空気室を少し大きめにしておいた方が、
調節の自由度が増して良いだろうと思われます。

下のグラフは、Uzu-10 III の軸上1mでの周波数特性です。
測定に使用した10cmフルレンジ・ドライバーは、Tang Band W4-930SG です。

僅かに、ハイ上がり傾向が見て取れますが、BLH としては比較的フラットで、
また、そのサイズから考えれば、非常にワイドな周波数特性だと言えます。

ちなみに、Uzu-10 及び Uzu-10II の周波数特性と、Uzu-10III の周波数特性との比較は、
測定に使用しているドライバーと、測定環境にも違いがあるため、あまり意味がありません。

リスニングルームの状態を、常に一定に保つのは不可能ですし、
床にしるしを付けておくわけにもいかず、
スピーカーの位置や向き、マイクの位置なども、
測定のたびに、毎回 同じにはできないので、
同一条件での測定は、実質的に不可能だからです。

Uzu-10III の周波数特性を細かく見てみると、170Hz にディップがありますが、
このディップは、普通のBLH では原理的に生じるものです。

Uzu-10III は、BLH としては最も基本的な構造で、
ディップを解消するための、特別な仕組みを有していないことから、
この帯域にディップが生じるのは、仕方のないことではありますが、
サインスイープでは少し薄いかなと感じる程度ですし、
実際の音楽鑑賞でも、情報の欠損を感じる程のものではありません。

ホーンの開口部から放射される低音は、あらゆる方向に広がるので、
直接リスナーに向かってくる成分以外にも、壁に反射してから耳に届く成分など、
時間差と位相差を伴って耳に届く成分の割合も、比較的大きくなります。
その様な間接音の影響から、実際の音楽鑑賞では、
周波数特性で見るような、はっきりとしたディップを感じないのかもしれません。
特に、Uzu-10III のような、側面開口型のBLH は、
前面開口型BLH などに比べると、間接音の割合がより大きくなるので、
聴感上は、ディップを感じにくいのかもしれません。

200Hzに幅の狭いピークが生じています。
これは部屋の定在波の影響ではなく、実際に生じているもののようですが、
ピークの幅が狭いため、実際の音楽鑑賞において、問題となることは少ないようです。

低域特性は、このサイズのBLH としては非常に優秀で、
43Hz 辺りまではフラット、低域再生限界(ローエンド)は、30Hz辺りです。

43Hz-100Hz 辺りがフラットなのは、このサイズではありえないと感じるかもしれませんが、
ホーン長が比較的 短めのスパイラルBLH は、TQWT として機能する場合に、
ホーンの連続性の高さから、TQWT としても機能しやすいため、
この帯域での出力が、大きくなる傾向があるのではないかと考えられます。

高域再生限界(ハイエンド)は、使用するドライバーの性能に依存しますが、
W4-930SG では、きっちり20kHz まで伸びています。

そして、W4-930SG を採用した場合の、 Uzu-10III の実用的な周波数特性は、
40Hz-19kHz といった感じで、 10cmフルレンジ1発のシステムとしては、
かなり広大な特性となっています。

中域は目立ったピークもディップもなく、極めてフラットで、
ほぼ一直線という感じの、申し分のない特性になっています。

私が最近作るBLH には、音道のコーナーに少量の吸音材を使っています。
この技術 (SAC) は、比較的 高い帯域で生じるホーン鳴きや、中・高域での雑味、洞穴感など、
BLH で生じがちな欠点を、かなり解消してくれるようです。
そして、Uzu-10III の中域の極端な平坦さは、この技術の恩恵かもしれません。

実際の試聴でも、Uzu-10、及び、Uzu-10II では、
特性のソースで、「ホーホー」という、ホーン鳴きが感じられましたが、
Uzu-10III では、同じソースでも、このホーン鳴きが感じられません。

そして、ホーンロードの掛かる帯域と、掛からない帯域の音色の違いから生じる、
ボーカル帯域の音色の変化や揺らぎ感も減少しており、
癖の少なさという点では、確実に改善し、
システムとしての完成度はより高まっています。

BLH らしい音の煩さも減少して、より聴き飽きの来ない音になっていますし、
中域・高域では、雑味が減少し、よりクリアーでエレガントな音になり、
音自体のクオリティーは、確実に向上していると思います。

Uzu-10II と同じく、Uzu-10III についても、設計図 を公開していますので、
興味のある方は、試してみてはいかがでしょうか。


Last Updated 2014-10-22



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