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Memo No.1 for Creating Bass Reflex Speakers

バスレフポートの負荷のかかる範囲と音色、付帯音ついての研究

バスレフ型エンクロージャーは、最も一般的に普及しているエンクロージャーです。そして、構造的にもシンプルで、製作も容易なことから、自作する上でも敷居が低く、チューニングも比較的 容易ですから、システムとしての完成度を高めることも、それほど難しくはありません。

しかし、密閉型エンクロージャーなどの、共鳴を利用しないシステムを愛好する方などからは、バスレフ独特の音色について批判されることも少なくありません。今回は、どのような場合に、いわゆるバスレフ臭い音になるのか、そして、どうすればバスレフ臭の少ない高品位な音になるのかを、シミュレーションを使いながら探ってみました。


シミュレーションで使用するドライバーは、
Fostex社の代表的な10cmフルレンジドライバーであるFE103Enです。



FE103Enの特性は以下のとおりです。
Fs:83Hz / 周波数特性:Fs〜22kHz / 能率:89dB
Qts:0.33 / Mms:2.55g / 振動板面積:50cm2


最初に、シミュレーションの条件を説明します。
バスレフ・エンクロージャーの特性を決定するファクターとして、次の3つを設定しています。

  • エンクロージャー容積: V (ℓ)
  • ポート長: L (cm)
  • ポート開口半径: R (cm)

先ず、標準的なファクターの値を設定し、その条件での特性を基準として、この3つのファクターを、それぞれ変化させた時、特性がどのように変わるかを観察しながら、バスレフ・エンクロージャーにおいて、それぞれのファクターが特性に与える影響を観察してみたいと思います。

下のグラフが基準となる特性です。
V=6 / L=9 / R=2.5


グラフの見方は、
緑の線がドライバーの出力青い線がポートの出力
水色の線が合成出力赤い線がインピーダンス特性、です。


バスレフ・ポートの負荷のかかる範囲と音色


上のグラフの水色の線と緑の線に囲まれたグレーの部分は、ポートの出力によって音圧が増強された部分を示しています。バスレフ共鳴によって負荷のかかる周波数では、ポートからの出力が増えると共に、インピーダンスが低下し、ドライバーの出力も減ります。
共振数端数(fd)は、160√((r2π)/v(l+r)) で求めることができます。
実際に計算してみると、160√((2.5*2.5*3.14)/6(9+2.5)) ≒ 85 (Hz) となり、
シミュレーションの結果と大体一致しています。

■負荷のかかる範囲
V=6 / L=9 / R=2.5



上のグラフは、バスレフ共鳴によって、ドライバーに負荷のかかる範囲(49Hz-129Hz)を示しています。負荷のかかる周波数ではインピーダンスが低下しますので、インピーダンスの谷の部分の幅によって、負荷のかかる範囲を知ることができます。

  • 低い周波数のインピーダンスの山を i1
  • 高い周波数のインピーダンスの山を i2
  • I = i2 / i1
とすると、上のグラフの場合、I = 129/49 ≒ 2.63 となります。
そして、この I の値が大きいほど広い範囲で負荷がかかるということを示しています。
例えば、Iの値が2であれば1オクターブ、4であれば2オクターブの範囲で負荷がかかります。
i2 = i1*2x とすると、xオクターブの範囲で負荷がかかるということです。

■負荷のかかる範囲と音色の関係
バスレフ共振の出力波形は、他の共鳴の波形がそうであるように、サイン波ですので、ドライバーの出力波形に比べると乖離が大きく、音色の表現が豊かではありません。しかし、広い範囲で共振が起こる場合は、FM音源が複数のサイン波を合成して色々な音色を作れるように、共振によるサイン波であっても、周波数の変化によって、ある程度は音色の表現が可能になると考えられます。それに対して、狭い範囲でしか共鳴しない場合は、音色の表現が乏しくなり、特定の周波数で、「ブー」とか「ボー」という単調な音が出力され、ドライバーの音色との乖離の大きい、いわゆるバスレフ臭い、表現力の乏しい低音になると考えられます。

そして、ボイスコイルの駆動力は電流に比例し、電流はインピーダンスに反比例するので、I が大きいほど(インピーダンスの谷が広いほど)、ドライバーが広い範囲で、ポートに対して高い駆動力を発揮することができ、ポートの音もトランジェント特性が良くなるだろうと考えられます。

■音色の乖離とポートの出力
V=3 / L=9 / R=1.5

i1=38 / i2=152 / I=4

上のグラフは、I=4 となっており、バスレフ共振の起こる範囲が2オクターブと、かなり広くなっています。負荷のかかる範囲が広いということは、ドライバーがポートに対して、広い範囲で駆動力を発揮できるというこです。そして、容積が小さいので、ポートの出力が弱いですが、バスレフ共振への制動が利きやすくなるので、トランジェント特性は良くなります。音圧が増強されるグレーの部分の形を見ると、横に長く縦に狭い形になっています。これは、これは、負荷のかかる範囲が広く、ポートからの出力が小さい反面、トランジェント特性が良く、ドライバーとポートの音色の乖離も小さくなっていることを表しています。

そして、このようなエンクロージャー特性でも、十分な低音増強効果を得るためには、バスレフシステムで使用するドライバーは、一般的に言われているように、比較的 能率と fs が低く、ある程度 Qts が高いもの方が望ましいと思います。

V=12 / L=6 / R=3.5

i1=56 / i2=112 / I=2

上のグラフは、I=2 となっており、バスレフ共振の起こる範囲が1オクターブと、比較的狭くなっています。負荷のかかる範囲が狭いので、ドライバーがポートに駆動力を発揮できる範囲も狭くなります。容積が大きいのでバスレフ共振による出力は強くなっていますが、共振が強い帯域では共振に制動がかかりにくく、トランジェント特性も悪くなり、ドライバーの音色との乖離も大きくなります。音圧が増強されるグレーの部分の形を見てみると、横に狭く縦に広い形になっています。これは、負荷のかかる範囲が狭く、ポートからの出力が大きい反面、トランジェント特性が悪く、ドライバーとポートの音色の乖離も大きくなっていることを表しています

そして、能率の高いドライバーをバスレフシステムに採用する場合、このような設計のエンクロージャーにして、低域の音圧を稼ぐ必要があるので、能率の高いドライバーのトランジェント特性の良い中高音とも相まって、ポートとドライバーの音色の乖離が激しい、完成度の低いシステムになる可能性があります。


バスレフポートの気柱共鳴による付帯音

そして、見逃してはならない点は、バスレフエンクロージャーはヘルムホルツの共鳴器として働くほか、空気室付の共鳴管としても機能することです。



上のグラフの青い線を見てください。
75Hz辺りに、ヘルムホルツの共鳴器としての動作による出力がありますが、それに加えて、1kHz辺りにもピークがあり、その整数倍の周波数にも、それぞれピークが生じています。このピークの周波数は、エンクロージャーの容積では変化しないので、ヘルムホルツの共鳴によるものではなく、ポートの長さと開口面積によって変化し、また基音(この場合1kHz)の整数倍にピークが現れることから、両端の開いた共鳴管としての動作により生じるピークだと考えられます。

この気柱共鳴による出力はバスレフポートの付帯音だと考えられ、この出力が大きく、またピークの数が多ければ、いわゆる筒臭い癖のある音だと認識されるのだと思います。この付帯音の音圧は結構高く、上のグラフの1kHzのピークは、ドライバーの音圧に対して、-18dB程度の音圧があるので、音楽信号の12.5%のレベルで、付帯音が出力されていることになります。

つまり、バスレフエンクロージャーを設計する際には、バスレフ共鳴によって出力される低音の質感に加えて、ポートの気柱共鳴による付帯音を減らすことを考慮に入れることが、システムの完成度と品位を高めるために、重要なことだと考えられます。


そのぞのれファクターを変えたときの特性の変化

■ 1.エンクロージャー容積を変えた場合
では、V=6 / L=9 / R=2.5 の条件を基準として、
ファクターのうち、ポート長(L)を変えると、どのように特性が変化するのかみて見ましょう。

V=6 / L= 9 / R=2.5

i1=48 / i2=129 / I=2.69

V=9 / L= 9 / R=2.5

i1=46 / i2=113 / I=2.46

V=4 / L= 9 / R=2.5

i1=51 / i2=151 / I=2.96

上のグラフから、ダクトが同一のとき、エンクロージャーの容積が大きくなると、I は小さくなり、エンクロージャーの容積が小さくなると、I は大きくなることが判ります。このことから、容積は少ないほうがバスレフ共鳴による低音の質感は良くなると考えられます。

そして、ポートの共鳴管としての動作は、容積の違いによって、ピークの立つ周波数に変化はありませんが、容積が大きいほど、ピークの高さが低くなっています。これは、容積が大きいほど、空気バネが柔らかくなるので、ポートに対するハイカットフィルターとしての機能が大きくなることが原因だと思います。このことから、容積が大きいほど中高域での付帯音が減り、癖の少ない音になると考えられます。


■ 2.ポート長を変えた場合
では、V=6 / L=9 / R=2.5 の条件を基準として、
ファクターのうち、ポート長(L)を変えると、どのように特性が変化するのでしょうか?

V=6 / L= 9 / R=2.5

i1=48 / i2=129 / I=2.69

V=6 / L= 14 / R=2.5

i1=43 / i2=125 / I=2.90

V=6 / L= 6 / R=2.5

i1=51 / i2=132 / I=2.58

上のグラフから、ポートを長くすると、I は大きくなり、ポートを短くすると、I は小さくなることが判ります。このことから、ポートを長くした方が、バスレフ共鳴での低音の質感は良くなるだろうと考えられます。

しかし、ポートの共鳴管としての動作は、ポートが長くなるほど、基音の周波数が低くなるので、エンクロージャーのハイカットフィルターとしての働きも弱まり、ピークは高くなります。そして、ピークの数も増えています。特にL=14の場合、聴覚の敏感なボーカル帯域に、大きなピークが現れており、周波数特性にも乱れが見られます。このことから、ポートが長いほど、中高域で、いわゆる筒臭い付帯音が多くなり、癖のある音になると考えられます。


■ 3.ポート開口半径を変えた場合
最後に、V=6 / L=9 / R=2.5 の条件を基準として、
ファクターのうち、ポートの開口半径(R)を変えると、どのように特性が変化するか見てみましょう。

V=6 / L= 9 / R=2.5

i1=48 / i2=129 / I=2.69

V=6 / L= 9 / R=3.5

i1=57 / i2=141 / I=2.46

V=6 / L= 6 / R=1.8

i1=40 / i2=121 / I=3.03

上のグラフを観察すると、開口半径が小さいものほど I が大きく、開口半径が大きいものほど I が小さくなっています。このことから、開口半径が小さいものほど、バスレフ共鳴による低音の質感は良くなるだろうと考えられます。

ポートの共鳴管動作としては、ポート長+開口半径x0.6x2 が、実質的な共鳴管の長さになるので、開口半径の小さなものほど、ピークが現れる周波数が高くなり、ピークの数も少なくなっています。さらには、開口半径が小さくなると、共鳴管としてのサイズも小さくなるので、共鳴音の音圧が減り、ピークの高さも低くなっています。このことから、ポートの開口面積は小さいほど、中高域での付帯音が減り、筒臭さの少ない、高品位な音になるだろうと考えられます。

そして、注目すべきことは、他の2つのファクター(容積 とポート長)では、バスレフ動作による低音の質感を良くすると、ポートの共鳴管としての動作による付帯音が増えるという、相反する関係にありましたが、開口半径というファクターでは、それが相反した関係ではなく、開口半径を小さくすることで、低音の質感を改善し、同時に、中高音の付帯音も減らせるということです。


そして下のグラフは、そのような点を考慮して設計した場合の特性です
V=6 / L=3.6 / R=1.8

i1=49 / i2=129 / I=2.63

ポートの開口面積が小さくても、良好な低域特性が得られています。ポートが小さいので、付帯音の出力も低く、ドライバーの出力に対して、-34dB程度に抑えられています。これは音楽信号の音圧に対して、2%程度の音圧しかなく、しかもボーカル帯域にはピークが無いので、付帯音が気になることは、ほとんどないと思います。

しかし、バスレフシステムの常識では、ポートの開口面積を大きくすると、背圧が減り、ポートからの出力も増えるとされており、このことから、バスレフシステムの自作では、ポート開口面積を大きくした設計が多く見られます。しかしこのような設計だと、ポートのサイズが大きくなるため、中高域でポートの共鳴管動作による付帯音が多くなるので、いわゆる筒っぽい音になります。また、ポートの開口面積が大きいと、エンクロージャー内からの音漏れも多くなり、最も重要な中音域の質が低くなるため、システムとしての完成度を高めることが、比較的難しくなる可能性があります。

そして下のグラフは、その様な常識に従い、比較的欲張った設計にした場合の特性です。
V=9 / L=12 / R=3.5

i1=51 / i2=119 / I=2.33

容積を大きくしたので、低域で高い音圧が得られていますが、ポートも大きいので付帯音の音圧も高く、ドライバーの音圧に対して、-16dB程度の出力があります。これは、音楽信号の音圧に対して、最大15.8%程度の付帯音が、聴覚の敏感なボーカル帯域において出力されるので、中高域でかなり筒臭い音になる可能性があります。


ハイクオリティー・バスレフシステムの可能性

シミュレーションの結果から、バスレフ共振の特性を改善しながら、ポートの気柱共鳴による付帯音を減らすには、ポートの断面積を小さくすることが効果的だと分かりましたが、別の可能性もあります。それは、それぞれが長さの違う、複数のポートを設ける方法です。この場合、ポートの本数に応じて、断面積を減らす必要があります。1つのエンクロージャーに、長さの違う複数のポートを設けた場合でも、ポートのチューニング周波数(fd)は単一になりますが、ポートの気柱共鳴で発生するピークを、違う周波数にを分散し、ポート1本あたりが発生させる付帯音の音圧も下げることができます。このようにすることで、付帯音のピークの数は増えますが、ポート開口部の総面積が大きく、ポートの実質的な長さが長い場合でも、付帯音のピークの音圧は低くできる可能性があります。また、付帯音のピークを高くすることなく、実質的にポートを大きくすることができるということは、fd が同じならば、エンクロージャー容積も大きくできることから、さらに付帯音を減らしつつ、低域の量感を増やすことも可能になります。

Last Updated 2012-09-19



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