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Daito Voice DS-100F

DS-100F は、Daito Voice による、10cmフルレンジ・ドライバーです。

フレームは、見るからにチープな、鉄板プレスのフレームで、
特性の向上に寄与するための工夫のようなものは、特に見受けられません。
そして、このフレームは、Fostex の鉄板プレスのフレームのような、
フレームの端の折り曲げが無いので、強度が低く、
エンクロージャーに取り付ける際に、ネジを強く締めすぎると、容易に歪みます。

振動板は、黒いペーパー・コーンで、なかなか精悍な印象です。
センター・キャップも紙ですが、コーンとは質感が違うので、
高域特性の良い材質の紙が使われているのかもしれません。

この振動板は、非常に典型的かつ一般的な形状に見えますが、
昔の FE103 の振動板によく似ていて、いかにも良い音がしそうな見た目です。
実際に、この振動板の完成度は非常に高いようで、癖の無い良い音がします。

全帯域に渡って音色的な統一感があり、周波数特性もフラットで、
音楽への没入を妨げるピーク感などを伴う、耳障りな帯域がありません。
ただし、ごく普通のペーパー・コーンなので、「カサつき感」などの雑味があり、
音色的なエレガントさや透明感などは、少し足りないような印象です。

振動板は構造的に、メカニカル2way ではないので、
それほどハイ・エンドは伸びていませんが、16kHz 辺りまでは出ており、
フルレンジ・ドライバーとしては、高域の伸びはまずまずです。
15kHz 辺りまで出れば、音楽を聴く上で支障はありませんし、
なにより、高域の質自体は高く、自然で素直な音色です。

表記の間違いの可能性もありますが、スペック上の能率は 90dB と、
10cmドライバーとしては、非常に高くなっています。
しかし、ハイ上がりの周波数特性ではないので、ヒステリックさや刺々しさは皆無で、
耳障りな音を伴わない、落ち着きのある再生音です。

磁気回路はそれほど大きくはなく、
振動系の長大なストロークを許容する構造には見えませんが、
実際に、fs 以下の低域は、量感も控えめで、重さや深みに欠ける印象を受けますし、
低域における駆動力の強さも、特には感じません。

支持系の硬さというのも理由としてあると思いますが、
おそらくは、振動系の軽さから、fs が 110Hz と、
10cmドライバーとしては、比較的 高くなっています。

このような特性は、ワイドな周波数特性を狙った大型システムには向きませんが、
10cmドライバー用のエンクロージャーとして、常識的に想像されるサイズの、
例えば、コンパクトなバスレフ・エンクロージャーなどで使うには、
かえって有利な特性だともいえます。

と言うのは、容積の少ないエンクロージャーに、ドライバーをマウントすると、
 fs と Qts が上昇し、fs 付近での出力が増加しますが、
この現象を利用し、ミッド・ローの厚みを増すことによって、
小口径ドライバーを使った、コンパクト・システムらしくない、
厚みのあるサウンドというものが実現できるからです。

そして、コンパクトなシステムであれば、もとより超低域は期待できないので、
音楽を楽しく聴くために必要な、聴感上の低音感が十分に得られるなら、
ドライバーの超低域での再生能力が乏しくても、特に問題は無いわけです。

中域、特にボーカル再生は非常に秀逸で、出色の出来と言えます。
小口径ドライバーが得意とする女性ボーカルはもちろん、
振動板面積に少し余裕のある 10cm口径で、fs も適度に高いことから、
男性ボーカルも細くならずに、自然な厚みがあります。
ペーパー・コーンらしい、若干の雑味を大目に見れば、
このドライバーのボーカルは、完璧と言ってよいかもしれません。

そして、DS-100F は、フルレンジ・ドライバーとして使う以外にも、
その中域のクオリティーの高さを活かして、
マルチ・ウェイ・システムのスコーカーとして使うのも、良い使い方かもしれませんし、
一例として挙げた、前述のコンパクトなバスレフ・システムに、
スーパー・ツイーター と サブ・ウーファー を加えれば、
ナチュラルかつワイドなシステムを、ロー・コストで構築できると思います。

元々、DS-100F は、
シーリング・スピーカー、または、ウォール・スピーカーとして使う業務用ドライバーであり、
特性的に、Hi-Fi オーディオ用のドライバーとは少し違う性格を持っていますが、
このような業務用ドライバーは、館内アナウンスなどで要求される、
ボーカルの明瞭さや自然さに重点を置いて設計されているので、
中域、特にボーカル帯域における瑕疵を敏感に感じやすいという特性を持つ、
人間の聴覚にとっては、良い音に聴こえる条件を、
設計段階から、備えているのかもしれません。

オーディオ・マニア、その中でも特に、ボーカル・ファンは、
「高価格=高音質」いう固定観念を、とりあえず脇に置いて、
Hi-Fi オーディオ向けの高級ドライバーだけではなく、選択肢の一つとして、
このような、チープな業務用ドライバーにも目を向けると、かえって、
無駄なコストと時間をかけずに、求める音にたどり着きやすくなるということが、
もしかしたら、あるかもしれません。

「知足常楽」というのは、実際的な価値観であり、実用的な処世術でもありますが、
オーディオにおいても、それは、十分に満足をもたらすものとして、
回答のひとつになるかと思います。

Last Updated 2015-06-20



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