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FX-AUDIO TUBE-01J

TUBE-01J は、FX-AUDIO による、真空管ラインアンプです。

ルックス的には、端正にまとまっており、非常に完成度の高いデザインだと感じますが、
FX-AUDIO の製品は、デザイン的によく似ている、 S.M.S.L などの製品と比べると、
仕上げの荒さが、少し気になります。

TUBE-01J は、DAC とアンプの間に接続して、
真空管の音色を加える エフェクター として使うのが、一般的な使い方だと思いますが、
DAC の出力が小さく、アンプによって音声信号を十分に増幅できない場合には、
DACの出力を増幅するための ライン・アンプ として、普通に有用だと思います。

私は、今のところ、手持ちの DAC の中では、
NFJ の PCM2704 DAC KIT を改造したものが、一番気に入っているのですが、
これは、出力が少し小さめなので、TUBE-01J を使うと、
ちょうど良い具合に、DAC の出力を増幅できるようです。

TUBE-01J の音色は、
真空管からイメージされる、緩く暖かいものではなく、
どちらかと言うと、シャープかつクールな音色で、
ニュートラルな Hi-Fi サウンド という印象を受けます。
もちろん、これを使うことにより、僅かながらノイズは増えますが、
音色的には、艶やかさが増して、より魅力的になると感じます。

真空管によって、信号を増幅すると、
特に「偶数倍」の高調波歪が増えます。
しかし、高調波歪が増えることで、
音色を決定付ける「倍音」が増えるのと同じ効果があるので、
それぞれの音が持つ音色が、より明確に、より華やかになり、
聴感的には、より解像度が増すという効果も期待できます。

そして、高調波歪のうち、「偶数倍」のものは、
音色的に心地よさを増す成分だとされており、
実際に聴いてみても、確かに そのような印象を受けます。

それに対して、「奇数倍」の高調波歪が増えると、
音色的に不快感が増すと言われていますが、
デジタル・デバイス による変換・増幅は、残念ながら、
この「奇数倍」の高調波歪が増えがちだとされています。

そして、オーディオ機器がデジタル化された結果、
より Hi-Fi 化されたり、より省エネ化されたりと、良い面が多いのも確かですが、
「奇数倍」の高調波歪が増えることにより、音色的に不快感が増すという現象があるとすれば、
もしかすると、真空管というデバイスは、偶数倍の高調波歪みを増加させることによって、
奇数倍の高調波歪が増えた影響を、音色的に相殺できる可能性が考えられることから、
デジタル・オーディオの時代においても、真空管というオーディオ・デバイスは、
その存在価値と活躍の場を失うことはないのかもしれません。

一般的に、歪が増えると言うと、音が悪くなるという印象がありますが、
歪が増えることで、聴感的には、より良い音に感じるという現象も、普通にあります。

例えば、ギターの音を例にして考えてみると、弦の振動が原音だと考えられます。
そして、ギターは、この弦の振動を胴によって増幅するので、
ギターの胴はアンプのようなものだとも考えられます。
しかし、ギターの胴によって増幅された音は、弦の振動をそのまま増幅した音ではなく、
非常に多量の、様々な歪を含んでおり、
量的には、原音より、歪みの方が多いかもしれません。
しかし、この音を、弦の振動のみの音と比べてみると、
より豊かで、より美しい音だと感じるはずです。
つまり、歪によって、より良い音になるという現象があるわけです。

また、特定の歌手や楽器の音を原音だと仮定すると、
反響音の全く無い無響音室や、反響音のほとんど無い広い草原で、
歌ったり演奏したりする場合の音よりも、
反響音が多量に含まれる、音楽ホールのような場所で、
歌ったり演奏したりする場合の方が、より豊かで良い音がしそうだということは、
容易に想像がつくだろうと思います。

歪みというものは、原音(入力音)と出力音の「差」と言えます。
原音の追求においては、歪みによって、音が悪くなると言えますが、
美音や自分の好みの音の追求においては、
原音が何よりも美しいと言うことがなければ、
歪みによって、音が悪くなるとは全く言えず、
歪みによって、音が良くなる場合も、非常に多いと言えます。

真空管による増幅も、偶数倍の高調波歪が増えることによって、
聴感的には、原音よりも美音になるという現象があるため、
この時代遅れの骨董的デバイスは、現在のオーディオ界においても、
相変わらず、その人気を保っているように見えます。

オーディオにおける、美音や心地よい音の追求でも、
ノイズは少ないに越したことはないと考えられますが、
歪については、それほど単純ではないようです。

TUBE-01J は、原音追求派に方には、特に必要の無い製品だと思いますが、
美音追求派の方、その中でも、デジタル・オーディオ派の方には、
一考する価値のある製品ではないかと感じます。

Last Updated 2017-05-27



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