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Tang Band W3-583SE

W3-583SE は、Tang Band社による、8cmフルレンジドライバーです。
見てのとおり、振動板も黒、フレームも黒、なぜか磁気回路まで黒と、
全身黒尽くめの特徴的なルックスとなっていますが、
なんとなく、地味で垢抜けず、購買意欲を刺激しない外観です。

このフルレンジドライバーの音質的な特徴は、一言で言うと、自然さとバランスの良さです。
周波数特性の全域を通じてフラット感があり、特定の帯域での強調感が少なく、
素直でナチュラルな再生音だと感じます。

振動板は、紙コーンと、樹脂製のセンターキャップの組み合わせです。
音色的には、全域を通じて自然で統一感がありますが、
意地悪な聞き方をすれば、材質の違いから来る音色的な違和感が、僅かにあります。
しかし、普通に聞いていれば、問題を感じることは少ないと思います。

中域は、紙コーンらしいとも言える、ざらつきが少しあるので、
透明感という点では、ポリプロピレンのコーンにやや劣るのではないかと思います。
しかし、この樹脂製のセンターキャップは、なかなか優秀なようで、
高域では、ソフトドーム・ツイーターのように、繊細かつ柔らかな音を再生します。

ボーカル再生では、母音の音色と子音の音色に、少し違いがあります。
子音には、やや強調感と、ざらつきがあり、これが、このドライバーの音色を、
残念ながら、少し安っぽいものにしているのではないかと感じます。
この点が改善されれば、8cmフルレンジドライバー特性としては、
ほぼ完璧なものになりますが、何の欠点もないフルレンジドライバーを開発するのは、
技術的に、なかなか難しいのだろうとは思います。

スペック上では、能率が高めで、87dBとなっていますが、
実際は、Tang Band の能率が86dB程度の、他の8cmフルレンジドライバーと比べても、
能率は低めで、おそらく、84dB か 85dB 程度しかないのではないかと思います。

私が最も興味をひかれるW3-583SEの一番の特徴は、
その振動系質量の軽さで、僅か、1.54g となっています。
これは、Fostex FE83En の1.53g に匹敵する軽さで、
振動板面積の単位面積あたりの質量としては、FE83En をも凌駕する軽さです。
(FE83Enと同じ面積に換算すると、1.54*(28/32)≒1.35g になります。)
この振動系の軽さから、その能率の低さにもかかわらず、
ボーカルの微妙な音程の変化や、かすかな揺らぎやビブラートのかかり具合などの、
微細で繊細な信号の描写にも優れているようです。

しかし、鳴らし始めの頃は、比較的 地味で沈んだ音で、
このドライバーの本来の音になるまでには、ある程度のエージング期間を要するようです。

比較的 能率が低いことから、低域方向にも f レンジが広く、
小さなバスレフエンクロージャーでも、少しうるささを感じるほど低音が豊かで、
その非常に軽い振動系と小さな口径からは意外とも思える、質感の優れた低音を再生します。
また、その振動系の軽さから、衝撃音や爆発音などの、
信号の急激な変化に対する反応や追従性も高いようで、
低域での駆動力の高さや、ダイナミックレンジの広さを感じさせます。

これは、私の個人的な印象ですが、Tang Bandのドライバーは、
低域再生という点では、フェイズプラグの付いたものより、
フェイズプラグ無しのもののほうが、優れているように感じます。

W3-583SE は、シンプルな4.5リットル程度のバスレフ・エンクロージャーに入れただけでも、
ナチュラルな音色で、周波数特性もワイドでバランスが良く、細かいことを言わなければ、
ある程度の完成度を持ったシステムに仕上げることができるので、
シンプルかつミニマムなシステムを組みたい場合には、重宝するかもしれません。

そして、このドライバーは、その日常的で親しみやすい音の自然さゆえに、
オーディオ的な、聴覚を刺激する快感はあまり期待できませんが、
再生音に意識をそらされることが少ないことから、
オーディオ機器の存在を意識せずに、純粋に音楽を楽しみたい方には、
なかなか、悪くない選択肢ではないか思います。

Last Updated 2012-12-05



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