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Project Alku-S10

Alku-S10 の開発コンセプトや構造など
2015-06-28

Alku-S10 は、10cmフルレンジ・ドライバー用の
バックロードホーン・エンクロージャー(以下BLH)です。

基本的なコンセプトは、「最も基本的な構造を持つBLH」ということで、
10cmフルレンジ・ドライバー用のスパイラルBLH の Uzu-10シリーズのコンセプトと同じですが、
Alku-S10 は、Uzu-10シリーズのデザイン的な欠点を改善しいることから、
ルックスを改善した Uzu-10 とも言えます。

ちなみに、"Alku" とは、「出発点」という意味のフィンランド語です。
最も基本的な構造を持つBLHの名前としては、相応しいものだと思い、命名しました。

Uzu-10シリーズは、シングルBLHとしては、癖が少なく、
10cmドライバー用のBLHとしては、サイズ的にもコンパクトで、
完成度自体は高いと思いますが、ルックス的な問題がありますし、
部屋のコーナーの近くに設置して、擬似的にホーンを延長して使うような場合に、
ドライバーが壁に近すぎて、音像が、少しですが、ぼやけるという欠点もありました。

この欠点を解消するために、Alku-S10 は、
壁とドライバーの距離がある程度 確保できるようにデザインされているので、
部屋のコーナーの近くに設置した場合でも、
音像のシャープさを保つ上では、Uzu-10シリーズより有利ですし、
ルックス的にも、Uzu-10シリーズに比べて改善していると思います。

完全なスパイラル・ホーンは、音道の全ての折り返しが90度のもので構成されており、
デザイン上の制限が大きすぎることから、ルックスを改善するためには、
音道のどこかに、一箇所以上の180度の折り返しを採用する必要があります。

Alku-S10 では、180度の折り返しを、最低限の一箇所に、採用しています。
こうすることで、デザインの改善とともに、副産物として、カスケード・ホーンとしては、
滑らかに広がる美しい音道も、得られています。

そして、この180度の折り返しは、回転半径を大きくし、また三角材を配置することで、
音波がよりスムーズに折り返すことができるように配慮されていることから、
このコーナーでの音波のエネルギー損失は、90度のコーナーでのそれと同等だと考えられ、
Alku-S10は、音響特性的に、全てのコーナーが90度の折り返しで構成された、
完全スパイラル・ホーンに近いシステムになっていると考えられます。

Alku-S10 は、サイズ的に、Uzu-10V と同等ですが、
音道構成の違いから、Alku-S10 の方が、僅かにホーンが長くなっていることから、
原理的には、ローエンドは Alku-S10 の方が少し伸びる代わりに、
低域の量感は Alku-S10 の方が僅かに減るだろうと思います。

最近、私は、聴き飽きない音を意識して、BLH 設計しています。
典型的なBLHの音は、ミッド・ローにBLH独特の張りと迫力がありますが、
BLH特有の音色的な癖があるため、比較的、聴き飽きやすい音だとも言えるのです。

というのは、BLHとして基本的な構造を持つ、Alku-S10 のようなシングルBLH は、
原理的に、ホーン・ロード(ホーン負荷)の掛かる帯域と、掛からない帯域があるため、
それぞれの帯域での音圧と音色の違いから、
メガホンっぽい、BLH独特のカラーレーションが乗ってしまうからです。
そして、このBLH独特のカラーレーションのある再生音は、
Hi-Fi オーディオ用のスピーカー・システムのものとしては、
疑問に感じるところもあるのです。

BLH の低域での出力は、周波数の低い方から、

  1. 共鳴管的動作による出力
  2. 音響迷路的動作による出力
  3. ホーン的動作による出力

となりますが、
この3つの出力のうち、ホーン的動作による出力が強くなりすぎると、
中低域(ミッド・ロー)の迫力が増す代わりに、メガホンっぽいカラーレーションも強くなり、
Hi-Fi 的な、正確な再生音からは遠ざかります。

そこで、Alku-S10 では、空気室をやや大きめに設計することで、
ホーンに掛かるプレッシャーを弱め、
低域において、音圧を上昇させる3つの要素のうち、
ホーン的動作による出力の割合を少し減らしています。
こうすることで、メガホンっぽいカラーレーションが減り、
音色的に、より Hi-Fi 的で癖の少ない、聴き飽きない再生音が得られます。

しかし、音響迷路的動作による出力は、
振動板前面の出力と同相の帯域では、音圧上昇になりますが、
振動板前面と逆相の帯域では、音圧減少となり、周波数特性上にディップを生じます。
そして、この音響迷路的動作によってディップが生じる帯域と、
ホーン的動作によって生じる音圧上昇の帯域は重なっているので、
ホーン的動作をむやみに減らすと、音響迷路的動作によって生じる、
低域のディップが大きくなるという弊害もあります。

つまり、BLH は、カラーレーションの少ない、Hi-Fi 的な音を追求すれば、
ホーン的動作の割合を減らさなければならず、
ホーン的動作を減らせば、より深いディップが生じてしまうという、
二律背反的な問題を抱えたシステムだと言えます。

しかし、ホーン的動作の強弱に影響を与える空気室の容積は、
ウッド・ブロックなどを入れることで、減らすことができるので、
最初に、少し大きめの空気室容積を設定しておけば、
リスナーが許容できるディップの大きさと、
許容できるカラーレーションの強さとの兼ね合から、
好みに応じて、空気室の容積を調節することが可能となり、
より自由度が高いシステムにすることができるわけです。

Alku-S10 の周波数特性や試聴感想など
2016-07-24

前回の記事を書いてから、
より複雑な構造を持つ、別のスピーカー・システムの開発に興味が移っていたので、
今回の更新までに、ずいぶん時間が経ってしまいました。
まさに、光陰矢のごとしですね・・・

Alku-S10 という機種は、特に目新しい機構は無く、
従来からある、基本的なBLH の構造を踏襲しつつ、バランスの調節のみで、
どの程度の音を達成できるかというのがコンセプトなので、
飽きっぽい私としては、興味を持続するのが難しかったようです。

上の画像は、完成した Alku-S10 です。
Uzu-10シーリズに比べると、ルックス的にはかなり改善され、
左右対称ではありませんが、それほど嫌味のないデザインだと思いますし、
このような、ずんぐりしたスタイルも、市販品では、お目にかからないものではありますが、
愛嬌があって、なかなか良いのではないかとも思います。

下のグラフが、Alku-S10 の軸上 1m での周波数特性です。
測定に使用したのは、10cmフルレンジ・ドライバーが Tang Band W4-930SG 、
DAC が Topping D2 、 アンプが S.M.S.L SA-98 です。

120Hz 辺りと 200Hz 辺りのピークが少し気になりますが、
中域の平均出力に比べて、6dB 以内に収まっているように見えますし、
BLH で生じるピークとしては、それほど大きなものではありません。

低域は、45Hz まではフラットで、そこから10dB 低下するのが 28Hz 辺りです。
この低域特性の優秀さは、このサイズのBLH としては、非常に奇妙な現象ですが、
Alku-S10 は、ホーンの連続性が高くなるように設計されているため、
おそらく、ホーンとしてだけでなく、共鳴管としても良好に機能できることから、
比較的 低い帯域において、出力が増えることが原因かもしれませんし、
あるいは、ホーン自体が巨大なダクトとして機能し、超低域において、
バスレフ的な動作をしている可能性なども、考えられるかもしれません。

しかし、聴感上は、それほど低域が豊かだと感じないのは、
100Hz 以下の低域における平均出力が、中域の平均出力に比べて、
相対的に、少し低くなっていることが、理由として考えられます。

160Hz 辺りと 240Hz 辺りにディップが生じています。
しかし、定在波か反射波の影響なのかもしれませんし、
何か別の、好ましい偶然が生じている可能性もありますが、
計算上は深く落ち込むはずのところで、なぜか、それほど深くは落ち込んでいないので、
音楽を聴く上で、情報の欠損を感じることはないと思います。

中域と高域は非常にフラットで、
一般的に周波数特性上に凸凹の多いBLH ということを考慮しなくても、
十分に優秀な特性だと言え、これは、Alku-S10 が持つ美点の一つに数えられます。

ハイ・エンドは、人間の聴覚の上限である 20kHz まで良く伸びていますが、
これは、使用するドライバーの高域特性に依存する部分です。

実際に音楽を聴いた印象は、Uzu-10III とほとんど同じですが、
やはり、ホーン長が伸びた影響から、ロー・エンドが少し伸びる代わりに、
低域の量感は、僅かに減少しているようにも感じられます。

しかし、低域の量感が多いと、迫力を感じやすいという長所がある半面、
解像度が低く感じられたり、聴き疲れしやすいとか、聴き飽きしやすいといった短所もあり、
この辺りは、聴く人の好みもあり、一長一短と言ったところだと思います。

基本的に、エンクロージャーの容積と低域のエネルギー量は、比例関係にあります。
Alku-S10 は、10cmドライバー用のBLH としては、非常にコンパクトなシステムですが、
極端に能率の高いドライバーや、極端にQ値の低いドライバーを使用したり、
または、特に大きい部屋や低音の逃げやすい場所で再生するという状況でなければ、
低域の量感やロー・エンドの伸びも十分だと思いますし、
普通に音楽を聴く上で、低域の不足を感じることは、あまり無いのではないかと思います。

Alku-S10 の様に、比較的コンパクトなBLH で、低域の量感を確保するには、
前述したように、共鳴管的動作、音響迷路的動作、ホーン的動作の3つの動作によって、
効率的に低域を再生できるホーン長に調整することが、
設計上、重要になるかと、私は考えていますが、
試聴した印象では、Alku-S10では、この3つの低音増強効果のバランスが、
比較的 上手く取れているのではないかと思います。

空気室を、少し大きめに設定していることから、シングルBLH としては、
中域でのメガホン的なカラーレーションは最小限に抑えられていることから、
ホーン・ロードが強く掛かる BLH にありがちな、音色の下品さが無く、
ボーカル帯域の癖も、普通のシングルBLH としては、低く抑えられており、
女性ボーカルも男性ボーカルも素直で、特に違和感なく聴くことができます。

Alku-S10 の音を、目隠しをして聴けば、音色的カラーレーションの少なさから、
BLH だと気がつかない人が多いだろうと思いますが、
チェロの独奏などを聴けば、やはり、ホーン・ロードの掛かる帯域では、
BLH らしい鳴りっぷりの良さや、アコースティックな響きを感じることができますし、
好みによって、ホーン・ロードの掛かりを強めたい場合には、
空気室の容積を減少させることで対応できます。

もともと、BLH が好きな人とは、BLH によって得られるメリットを、
BLH が持っているデメリットよりも、重視する人だと言えます。
そして、BLH 以外の形式の スピーカー・システムについても、同じことが言えますが、
BLH が他の形式より優れているかどうかは、客観的に証明することが難しく、
結果的には、それを聴く人の価値観に委ねられることになります。

しかし、出来るだけBLH のメリットを失うことなく、
出来るだけBLH のデメリットを減らすということは十分に可能ですし、
もし、それが出来ないなら、BLH システムの開発自体に意味は無いでしょう。

現在、私は、BLH の音質的限界をブレイク・スルーするためのシステムとして、
Dual BLH 、Forked BLH や Joined BLH 、そして Holed BLH など、
複数の新しい方式のBLH の研究・開発をしていますが、
今回 開発した Alku-D10 は、最も基本的かつシンプルな構造を持つシングルBLHで、
どの程度の完成度を持つBLH システムが実現可能かの実験的な意味もあり、
周波数特性を改善するための、特別な構造などは備えていません。

しかし、結果的に、Alku-S10 は、
10cmフルレンジ・ドライバー用のBLH としては、非常にコンパクトなサイズですが、
ロー・エンドも良く伸びており、ワイドかつフラットな周波数特性と、
癖が少なく、嫌味のない音を達成できたと感じますし、総合的に、
バランスよく纏まった、完成度の高いシステムを実現できたのではないかと思います。


Last Updated 2016-07-26



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