上の画像は、完成した Torvi-F08 です。
今回はデザインに配慮した設計したので、なかなか上手くまとまらず結構
苦労しましたが、
まずまず端正なルックスに仕上がったのではないかと思います。
見ての通り、ドライバー、ホーンの途中に開けられた小穴、ホーン開口部が、
全て同じ面に配置されるように設計されています。
このような設計にすることで、設置場所によって、
ドライバーの音と、ホーンからの音との位相差が変化することで、
周波数特性が変わることを防いでいるので、
側面開口などの他の形式のBLHに比べると、設置場所の自由度が高いはずです。
もちろん、設置場所によって、反射波や定在波の影響で、周波数特性は様々に変化します。
しかし、これは、どのようなスピーカにも起こる、避けることのできない問題です。
上の画像は、最終的な内部構造です。
最初の180°の折り返しに三角材を配置しています。
そして最後の2つの180°の折り返し部分にも、1枚ずつ整流板を配置しています。
全てのコーナーに三角材や整流板を配置すると、
開口部からの中・高音の排出が増えるということもあり、
今回は、音波が折り返すのにエネルギーのロスが多いと思われる
180°のコーナーのみに配置しています。
整流板は、小穴の対向面や近い場所での定在波の発生を防ぎたいという意図もあり、
画像のような配置場所になっています。
吸音材は、ホーンの途中に薄いフェルトと、ポリエステルを3箇所に貼っています。
空気室内の吸音材は、試聴を繰り返した結果、
無くても問題ない感じだったので、今回は無しということにしました。
入れたければ、後からでも入れられる部分ということもありますし。
開口部のダンプ板の内側も、吸音材を貼ると雑味が減ってよい感じですが、
空気室と同じ理由により、吸音材は貼っていません。
スロート(ホーンの入口)が振動すると、ホーンの音全体に癖や雑味が乗るということもあり、
この部分での振動を抑えるために、Laulu-08
でも使った、
ブチルゴムとコルクの2層構造からなる制振材を、スロート部に使用しています。
Torvi-F08
の構造上の欠点は、内部配線を通す為に音道の一部に穴を開ける必要があり、
エンクロージャーを組み立てた後では、内部配線を交換することが出来ないことです。
天板か側板にターミナルを取り付けることで、この問題を回避できますが、
そうすると今度は、ルックスに問題が生じるので、
今回はルックスを優先して、裏板にターミナルを取り付けています。
下のグラフは、Torvi-F08 の周波数特性です(軸上1m)。
測定に使用したドライバーは、Fostex FF85WK
です。
概ねフラットで、このサイズのBLHにしては、ワイドな良い特性ではないでしょうか。
260Hzのピークが気になりますが、幸いピークの幅が狭く、
1オクターブ中の1音階程度の幅しかないようで、
音楽鑑賞において気になることは、ほとんどないようです。
420Hzにディップがありますが、これは部屋の定在波か反射波の影響で、
実際には生じていないようです。
しかし、グラフには現れていませんが、リスニングポイントでは、130Hzが少し薄く聞こえます。
周波数特性の測定結果は、グラフではピークのところが聴感上は薄く聞こえたり、
反対に、聴感上は厚みのあるところが、グラフではディップになっていたりと、
参考程度にしかなりませんが、大まかな傾向を見るためには、無いよりはましといった感じです。
このエンクロージャーは、前面開口のメリットが活かされているようで、
なかなか迫力と厚みのある低音を聴かせてくれます。
ローエンドは、ダラ下がりに良く伸びて、40Hz以下からレスポンスがあり、
50Hz辺りからは実用的な出力があるので、クラシック音楽なども十分楽しむことができます。
そして、このエンクロージャーの美点として、
ボーカルが妙にエレガントに聴こえることが挙げられます。
前面開口なので、もっと濁るかと予想していましたが、
特に癖も感じませんし、雑味の少ないナチュラルなボーカル再生です。
開口部ダンプにより、ホーンから中・高音が排出されにくくなっているので、
ドライバーの音との干渉が減ることで、ボーカル帯域での無駄な濁りが少なくなり、
クオリティーが高くなっているのかもしれません。
低域の質感は、開口部ダンプによって、低音の倍音が排出されにくいためか、
開口部の大きいBLHに比べて、低音のエッジが丸まっている感じで、
BLHの特徴である、低音のゴリゴリした感じが少ないようです。
と言っても、バスレフのようなもったりした低音ではなく、
やはりBLHらしく、ソリッドで解像度が高く、軽やかで開放感のある低音ですが。
そして、これも開口部ダンプの効果だと考えられますが、
普通のBLHのような自由奔放に鳴りまくる楽器的な要素が抑制され、
スピーカー本来の、コントロールの効いた再生機的な要素が向上しているように感じます。
ドライバーの音との音色的な繋がりは、こちらの方が良いかもしれません。
しかし、開口部が狭くなることで部屋の空気との連続性が下がり、
部屋がホーンの延長として機能しにくいためか、
部屋の空気をブルブル揺らすような効果は、やや後退しているような気もします。
Torvi-F08は、周波数特性上の260Hzのピークなど、改善すべき点はありますが、
実際のリスニングでは、バランスが良くナチュラルな音で、特に欠点を感じません。
私個人としては、総合的に見て、かなり完成度の高い作品だと思っています。