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Project Torvi-F08

Torvi-F08 の開発コンセプトなど
2012-03-11

今回のプロジェクトは、バックロードホーンとしてはオーソドックスな形状である、
前面開口型のバックロードホーン・エンクロージャーの開発です。

前面開口型のエンクロージャーのメリットとして、
設置場所の違いよる周波数特性の変化が少ないことが挙げられます。
また、ホーンの開口部がリスナーの方に向いているため、
低音の量感や迫力、スピード感が得られやすいことも、メリットに数えられます。

それに対して、後面開口型や側面開口型は、
壁やコーナーに近づけることで、擬似的にホーンを延長することが出来るので、
低音の量感やスケール感、ローエンドの伸びを得られやすいというメリットがある反面、
低音のスピード感はやや後退し、ゆったりとした低音になりがちです。

また、ホーン開口部から出力される音が壁に反射してから、ドライバーの音と混ざりあうので、
開口部と壁との距離に応じて、ドライバーの音との位相差が変化してしまい、
設置場所によって周波数特性が大きく変化します。
特に側面開口型は、開口部を外側に向けるか内側に向けるかによって、
同じスピーカーとは思えないくらい特性が変化します。
(ちなみに、私の部屋では内側が良好です)

それに対して、前面開口型は、ドライバーとホーン開口部が同じ面にあるので、
ドラーバーとホーンの位相差が、設置場所によって変化するという問題が生じません。
(もちろん、ドライバーと耳の距離に対して、ホーン開口部と耳の距離が変化することで、
 位相差が変化し、周波数特性が変わることはあります。 例えば、ドライバーと開口部が
 縦に並んでいる場合、耳の高さによって位相差が変化します。この現象は、
 ウーファーとツイーターが縦に並んでいる2wayスピーカーでも起きます。)

では、前面開口型が、他の形式より、低音にスピード感があり、量感や迫力も得やすく、
設置場所による周波数特性の変化も少ないなら、前面開口型以外のエンクロージャーの
存在価値は何だという疑問を、当然に感じると思います。

しかし、どんな方式も一長一短です。
前面開口型には、ある重大なデメリットがあるのです。
そのデメリットとは、前面開口型は他の方式に比べて、
音楽にとって最も重要な帯域である中域のクオリティーが低くなる可能性が最も大きく、
また、ホーンの音がドライバーの音に干渉して、周波数特性の乱れる可能性も、
他の形式より大きくなるということです。

音は、周波数が高くなるほど直進性が高くなる(指向性が強くなる)ので、
前面開口型以外の形式だと、ホーンから漏れる中・高音がある程度 減衰してから、
ドライバーの音と混ざり合うので、ドライバーの音とホーンの音との
干渉による悪影響が比較的少なくなり、中・高域のクオリティーの低下を回避できます。
そして、これが前面開口型以外の形式の最大のメリットだと思います。

前面開口型は、開口部がリスナーの方に向いていることで、様々なメリットが得られますが、
ホーンから漏れる中・高音が、その指向性によって減衰することなく、
ドライバーの音に直接干渉することで、ドライバーの音に濁りや歪みを与えます。
そして、このホーンから漏れる中・高音は、ドライバーの音とは位相がずれているので、
中・高域にピークやディップを生じさせますが、他の形式のように指向性によって減衰しない分、
周波数特性の乱れが、他の形式よりも大きくなるというデメリットがあるのです。

今回開発する Torvi-F08 は、前面開口型のメリットを活かしつつ、
可能な限り、前面開口型のデメリットを減らすための工夫を取り入れた設計にしたいと思います。
具体的には、設置場所による位相差の変化によって周波数特性が変化せず、
低音の量感や迫力、スピード感が比較的得やすいという前面開口型のメリットを活かしながら、
ドライバーの音とホーンの音との干渉が大きいので、周波数特性に乱れが生じやすく、
音楽にとって最も重要な中域のクオリティーが比較的 損なわれやすいという
前面開口型のデメリットを抑制する設計にしたいと考えています。


Torvi-F08 の構造について
2012-05-08

上の画像は、Torvi-F08の内部構造です。
ホーンは、このサイズとしてはやや多めの、8本の直管から構成されています。
基本的な構造は、Torvi-C08と同じく、HBLH(穴開きバックロードホーン)です。
ホーン開口部のすぐ上に、小さな穴が開いています。
HBLHの詳細について、興味のある方は、コラムNo.13 をご覧ください。

180°の折り返しを、3箇所までにとどめたかったので、
その影響で空気室がL字型になっています。
この独特の形の空気室が、どのように音質に影響するか心配でしたが、
試聴では特に悪影響は感じず、むしろ、シンプルな形の空気室のBLHに比べて、
空気室内の定在波が減る影響だと考えられますが、癖が少なく素直な音質だと感じました。

Torvi-F08の大きな特徴は、ホーンの開口部を狭めていることです。
共鳴管では、開口部を狭めることで、チューニング周波数を下げる効果と、
ダンピングを向上させる効果が知られていますが、
バックロードホーンも、ローエンド付近での出力は、
共鳴管的動作による出力と考えられますので、開口部を狭めることで、
ローエンドの拡大と、ダンピングの向上を期待できます。

そして、開口部を狭めることで、ホーンから漏れる中・高音を減らすことが出来るので、
人の聴覚が敏感な帯域において、ホーンから漏れる中・高音が、
ドライバーの音に不要な濁りや歪みを与えることを減らすことができると考えています。
特にTorvi-F08のような、前面開口型のバックロードホーンでは、
ホーンから漏れる中・高音と、ドライバーの音との干渉が大きいので、
他の形式のバックロードホーンに比べて、より効果的なはずです。

音は、周波数が高くなるほど直進性が強くなるので、
開口部に障害物があると、高い周波数の音はそこで反射し、
エンクロージャー外に排出されにくくなりますが、
低い周波数の音ほど、障害物に影響されず回り込む性質が強くなるので、
開口部の障害物が与える影響も、周波数が低くなるほど、少なくなります。

また、バックロードホーンは開口部が最も激しく振動することが知られていますが、
開口部ダンプの構造によって、開口部の強度を大幅に増すことができるので、
この部分の不要振動で発生するノイズを減らす効果も、期待できます。

今回、Torvi-F08の音道は、90°のコーナーでの板の組み方を変えています。
90°のコーナーで、板が少し出っ張っているのが、画像でも確認できると思います。
このような構造にすることで、

  1. 音道の延長
  2. 定在波の減少
  3. ダンピングの向上
が期待できると考えています。

1.音道の延長について:板の出っ張りの分だけ音波が回り道をすることになるので、
その分、音道が延長されることになります。
エンクロージャーのサイズが同じなら、この板組みは、
音道を延長しデッドスペースを減らす 効率的で合理的な方法だと思います。

2.定在波の減少について:Torvi-F08の音道の90°のコーナーは、
90°のコーナーで板の出っ張りがないものと比べ、
90°のコーナーを含む直管部分を取り出して比較したとき、直管の、幅、高さ、長さ、のうち、
長さと高さ方向の対向面で、2種類の距離が生じていることが分かります。
そして、この対向面で定在波が発生するときに、
定在波の周波数と強度を分散させることができるので、
ホーンの癖を減らすことができると考えています。

3.ダンピングの向上について:一度押し出された空気が、再び戻るとき、
この板の出っ張りによって、僅かですが空気抵抗が増すので、
ホーンのダンピングが良くり、トランジェント特性が向上するのではないかと考えています。

また、私の勘なので確証はありませんが、直管バックロードホーンでは、
コーナーの出っ張りがあるほうが、出っ張りの無いコーナーに比べて、
ホーンの広がり方が、より斜め(コニカル)音道のホーンに近くなるので、
ホーンの動作的にも、よりホーンロードが掛かりやすくなるのではないかと思います。


Torvi-F08 の周波数特性など
2012-05-28

上の画像は、完成した Torvi-F08 です。
今回はデザインに配慮した設計したので、なかなか上手くまとまらず結構 苦労しましたが、
まずまず端正なルックスに仕上がったのではないかと思います。

見ての通り、ドライバー、ホーンの途中に開けられた小穴、ホーン開口部が、
全て同じ面に配置されるように設計されています。
このような設計にすることで、設置場所によって、
ドライバーの音と、ホーンからの音との位相差が変化することで、
周波数特性が変わることを防いでいるので、
側面開口などの他の形式のBLHに比べると、設置場所の自由度が高いはずです。
もちろん、設置場所によって、反射波や定在波の影響で、周波数特性は様々に変化します。
しかし、これは、どのようなスピーカにも起こる、避けることのできない問題です。

上の画像は、最終的な内部構造です。
最初の180°の折り返しに三角材を配置しています。
そして最後の2つの180°の折り返し部分にも、1枚ずつ整流板を配置しています。
全てのコーナーに三角材や整流板を配置すると、
開口部からの中・高音の排出が増えるということもあり、
今回は、音波が折り返すのにエネルギーのロスが多いと思われる
180°のコーナーのみに配置しています。
整流板は、小穴の対向面や近い場所での定在波の発生を防ぎたいという意図もあり、
画像のような配置場所になっています。

吸音材は、ホーンの途中に薄いフェルトと、ポリエステルを3箇所に貼っています。
空気室内の吸音材は、試聴を繰り返した結果、
無くても問題ない感じだったので、今回は無しということにしました。
入れたければ、後からでも入れられる部分ということもありますし。
開口部のダンプ板の内側も、吸音材を貼ると雑味が減ってよい感じですが、
空気室と同じ理由により、吸音材は貼っていません。

スロート(ホーンの入口)が振動すると、ホーンの音全体に癖や雑味が乗るということもあり、
この部分での振動を抑えるために、Laulu-08 でも使った、
ブチルゴムとコルクの2層構造からなる制振材を、スロート部に使用しています。

Torvi-F08 の構造上の欠点は、内部配線を通す為に音道の一部に穴を開ける必要があり、
エンクロージャーを組み立てた後では、内部配線を交換することが出来ないことです。
天板か側板にターミナルを取り付けることで、この問題を回避できますが、
そうすると今度は、ルックスに問題が生じるので、
今回はルックスを優先して、裏板にターミナルを取り付けています。

下のグラフは、Torvi-F08 の周波数特性です(軸上1m)。
測定に使用したドライバーは、Fostex FF85WK です。

概ねフラットで、このサイズのBLHにしては、ワイドな良い特性ではないでしょうか。
260Hzのピークが気になりますが、幸いピークの幅が狭く、
1オクターブ中の1音階程度の幅しかないようで、
音楽鑑賞において気になることは、ほとんどないようです。
420Hzにディップがありますが、これは部屋の定在波か反射波の影響で、
実際には生じていないようです。
しかし、グラフには現れていませんが、リスニングポイントでは、130Hzが少し薄く聞こえます。

周波数特性の測定結果は、グラフではピークのところが聴感上は薄く聞こえたり、
反対に、聴感上は厚みのあるところが、グラフではディップになっていたりと、
参考程度にしかなりませんが、大まかな傾向を見るためには、無いよりはましといった感じです。

このエンクロージャーは、前面開口のメリットが活かされているようで、
なかなか迫力と厚みのある低音を聴かせてくれます。
ローエンドは、ダラ下がりに良く伸びて、40Hz以下からレスポンスがあり、
50Hz辺りからは実用的な出力があるので、クラシック音楽なども十分楽しむことができます。

そして、このエンクロージャーの美点として、
ボーカルが妙にエレガントに聴こえることが挙げられます。
前面開口なので、もっと濁るかと予想していましたが、
特に癖も感じませんし、雑味の少ないナチュラルなボーカル再生です。
開口部ダンプにより、ホーンから中・高音が排出されにくくなっているので、
ドライバーの音との干渉が減ることで、ボーカル帯域での無駄な濁りが少なくなり、
クオリティーが高くなっているのかもしれません。

低域の質感は、開口部ダンプによって、低音の倍音が排出されにくいためか、
開口部の大きいBLHに比べて、低音のエッジが丸まっている感じで、
BLHの特徴である、低音のゴリゴリした感じが少ないようです。
と言っても、バスレフのようなもったりした低音ではなく、
やはりBLHらしく、ソリッドで解像度が高く、軽やかで開放感のある低音ですが。

そして、これも開口部ダンプの効果だと考えられますが、
普通のBLHのような自由奔放に鳴りまくる楽器的な要素が抑制され、
スピーカー本来の、コントロールの効いた再生機的な要素が向上しているように感じます。
ドライバーの音との音色的な繋がりは、こちらの方が良いかもしれません。
しかし、開口部が狭くなることで部屋の空気との連続性が下がり、
部屋がホーンの延長として機能しにくいためか、
部屋の空気をブルブル揺らすような効果は、やや後退しているような気もします。

Torvi-F08は、周波数特性上の260Hzのピークなど、改善すべき点はありますが、
実際のリスニングでは、バランスが良くナチュラルな音で、特に欠点を感じません。
私個人としては、総合的に見て、かなり完成度の高い作品だと思っています。


Last Updated 2012-05-28



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